沼に沈む【カクヨム版】

「凛」


俺は、凛の輪郭をなぞるように顔を撫でながら言った。


「拓夢」


凛の潤んだが、俺を見つめてくる。俺と凛の唾で濡れた唇がよけいに堪らなくて…。俺は、凛にキスをした。


「もう、我慢出来ない」


さっき途中で止めたズボンのベルトを外す。


「凛、優しくするから」


俺は、そう言って凛のスカートの中に手を入れる。


「んっ」


凛が好きなとこを俺は、わかってる。


「はあ」


凛の声と感じる姿が、さらに興奮する。俺は、避妊具を凛の右手から受け取ってつける。


「拓夢、忘れよう」


「うん」


何も考えたくなくて、何もかも忘れたくて、俺は夢中で凛を抱いた。


『アッ』


二人の声が、重なりあって果てた。俺は、それをゴミ箱に捨てる。


「凛。頭が痺れた」


「私も、真っ白になった」


凛を抱き締めて、隣に寝転がった。


『はぁ』


二人の息が重なる。


ガッチャン…ゴンッ…


物凄い音が響いた。


「何?」


「見てみる」


俺は、玄関を少しだけ覗いてみる。


「凛、ヤバイ」


「どうしたの?」


「兎に角、服を着て」


俺は、凛に服を着るように言った。凛は、服を着る。


「凛、今から話す事をよく聞いて」


「うん」


「チェーンが閉まってるから大丈夫だと思うんだけど…。郵便受けが壊された」


「さっきの音って」


「壊れた音」


俺の言葉に、凛は驚いて固まっている。


「拓夢、彼女」


「いずれ、入ってくるかも知れない」


「どうするの?」


「警察に言うのがいいのかもしれないけど…」


「言いたくないのね」


そう言って、凛は俺の頬を優しく撫でてくれる。


「女物の靴があるのは、何で?拓夢ー。いるんでしょ?わかってるのよ」


ガンガン、ガチャン、ガチャン…


美沙が、どうにか開けようとしてるのがわかる。


「もしも、美沙が入ってきたら逃げて!凛に、迷惑かけたくない」


「こんなに震えてるのに?」


そう言って、凛は俺の両手を握りしめてくれる。


「凛が、怪我でもしたら申し訳ないから」


俺の目から涙がポロポロと流れてくる。凛は、その涙を優しく拭ってくれる。


「わかった!逃げる」


凛は、そう言って薄く笑ってくれる。


ガチャン、ガチャン、ガチャン…


さっきより、音が大きくなる。怖い、怖くて堪らない。正体のわからない怪物が、扉をこじ開けようとしてる気がする。


ガチャン、ガチャン、ガチャン、ガンガン、ガンガン。


「拓夢、悲しいんだね」


凛は、そう言って俺を優しく抱き締めてくれる。智が言った言葉が、真実だった。俺は、美沙の何も知らなかったんだ。

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