凛の話3

嬉しかった

凛君にキスをされて、どうにも出来なかった私を拓夢が助けてくれた。

三度目は、互いの体に触れていただけだった。シャワーを浴びて、拓夢の言葉を聞きながら!私は、彼を酷い場所に連れてきてしまったのではないかと思っていた。帰宅するとまだ夫は帰ってきていなかった。


「はぁー」


大きな溜め息をついて、ダイニングの椅子に座った。赤ちゃんが出来ない事に、私は追い詰められていた。そんな気持ちのまま、拓夢と会っていた。沼に沈んでいくようなセックスをして忘れたい。ただ、それだけだった。実際、拓夢とする行為に私は赤ちゃんを考える事はなかった。だから、幸せだった。でも、それは拓夢を傷つけないかな…。


私は、立ち上がって洗面所に行く。下着と服を脱ぎ捨てて、下着を履いてルームウェアに着替えた。着替え終わるとお風呂を洗った。栓をして戻ってくる。洗濯機にさっきの服や下着を入れてスイッチを押した。洗濯機を少量で回す事は少ないけれど…。一応、痕跡を消すべきなのではないかと思っていた。


私は、キッチンに向かい冷蔵庫を開けた。ポケットに綺麗に並べられたソース類を見つめながら何故かお好み焼きが食べたくなってしまった。


「粉あったっけ?」


歳を取ると独り言が多くなる。昔、お母さんに何?って聞いた事を思い出した。妊娠のタイムリミットさえなければ、私は歳を取る事が嫌いではない。


「あった!あった!」


食料品の在庫を保管している棚からお好み焼き粉を取り出した。野菜室からキャベツとフリーザーからは豚肉を取る。冷凍庫にあった、イカエビミックスも取り出した。


「お好み焼き、普通に作れる」


キャベツを細かく千切りにする。これは、私達夫婦のお気に入りだ。お好み焼きといったら、この千切りなのだ。少しずつ、少しずつ、私と夫は家族になった。最初は、食べるものがお互いに似ていき、お互いにルールが生まれた。今では、互いの味まで生まれたのだ。これをまた誰かと築けと言われたらゾッとする。何年も何年もかけて作ったものを一瞬で壊す勇気は私にはなかった。


「ただいま」


「お帰り」


でも、今、私はバレたら一瞬で終わるような事をしている。


「お好み焼き?」


「うん」


「その前においでよ」


「えっ!イカエビミックスが溶けちゃうから」


「いいから、いいから」


そう言って、寝室に連れてこられた。


「あっ!シャワー浴びてよ!そこ洗ってよ」


「えっ、わかった」


龍ちゃんは、渋々出て行った。ベッドに座りながら、私はどこかホッとしていた。

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