帰るね

お風呂から上がると凛は、もういなかった。


「帰るね」


「うん、待って」


俺は、凛に水を渡した。俺も水を飲む。


「ありがとう、今日」


「それは、いいんだけどさ。あの子どうすんの?」


「どうしたらいいのかな?」


凛は、そう言いながら眉を潜めている。


「どこに行ったら会えるの?」


「あっ!スーパー」


「凛の住んでる場所の?」


「そう、駅前の」


「俺が、話してきてやるよ」


「悪いよ」


「大丈夫だから!」


「ごめんね。拓夢」


「いいんだよ!心配しないで。それまで、そのスーパー行かない方がいいかもな」


凛は、凄く困った顔をしている。


「駄目なのか?」


「そこのスーパーの卵が大好きなの!だから…」


「いつまで、もつの?卵」


「えっと、後一週間はいけるかな」


「わかった!それまでに、何とかするから」


俺は、凛の頭を撫でる。


「ありがとう、拓夢」


「あの子が、凛に興味を持った理由!俺には、わかるよ」


「そうなの?」


「凛は、気付いてないよね!自分の優しさも…。その危うさも…」


「そんな事ないよ」


「そんな事あるよ!でもね、優しくしてばかりじゃ相手は付け上がるだけだよ!だって、凛みたいな綺麗な人をものに出来たら自慢出来るだろ」


「おばさん、相手に何言ってるの?」


「だから、凛はおばさんじゃないよ!凄く綺麗な女性だよ」


俺は、凛を引き寄せて抱き締める。


「俺が、あの子と同じ立場なら凛を好きになってたし。凛を欲しがったと思うよ!それにさ、凛は結婚してるけど、子供がいないだろ?」


「うん」


「馬鹿だからさ!こっちを選んでくれる気がするんだよ!だから、あの子は俺に宣戦布告したんだと思うよ!実際には、凛は選ばないのにな」


「ごめんね」


「謝ってって言ってるわけじゃないよ!」


俺は、凛から離れて凛の顔を覗き込む。


「凛と旦那さんには、俺には計り知れない程の時間や経験を積み重ねてきただろ?」


「うん」


「それは、俺とは出来ないのを俺ちゃんとわかってるから!凛は、旦那さんが嫌いなわけじゃない事もわかってる。ただ、肌を重ねたくないだけだって!それぐらい俺には、わかってるよ。だけど、あの子はわかっていないよ!凛を自分のものに出来るって信じてる」


凛は、俺から目を反らす。


「大丈夫!俺が、ちゃんと話してきてあげるから」


「拓夢、ありがとう」


「ほら、帰らなきゃ!旦那さん、帰ってくるだろ?」


「うん」


「今日は、駅まで送れないけど…。大丈夫?」


「大丈夫だよ」


「時間出来たら、連絡してよ」


「わかった」


「気を付けてね」


「うん、バイバイ」


俺は、凛を玄関まで送った。凛は、手を振って家を出て行った。俺は、暫くの間玄関で座っていた。

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