第60話

ーーー入学式の次の日


「……姉上!」

「コンラッド……!」

「あぁ、やっと姉上と一緒に学園に通えるなんて夢みたいだ」


朝から同じことを何度も言っているコンラッドが可愛くて、背伸びをしてから頭を撫でる。

たとえ大きくなってカッコよくなっても、可愛い弟である事には変わらない。

可愛がり過ぎたせいか少しシスコンの部分もあるが、自分もブラコンなのでコンラッドに注意出来ない。

そしてコンラッドに続いてやってきたダリルは周囲の目を気にすることなく、優雅にトリニティの手を取るとキラキラとした瞳を此方に向けた。


「貴女の制服姿を学園で見ることができるなんて嬉しいです……今日もとても美しい。大好きです、トリニティ様」


ダリルが手の甲に口付けた瞬間に「キャー」と黄色い声があがる。

こんな臭いセリフですら似合ってしまうのが、今のダリルなのである。

(眩しいわ……)

あまりの神々しさにジリジリと肌が焼け付くようだ。


「……あの、ダリル殿下」

「やっと学園に通えたというのに、貴女と離れたくありません」


先回りして言うところが、デュランにそっくりである。


「気持ちは分かったけれど、ここは学園ですので……」

「トリニティ様、大好きです」

「…………話を聞いてくださいませ」

「今日も一緒に帰りませんか? トリニティ様の為に異国からお菓子を取り寄せたんです」


満面の笑みで嬉しそうにしているダリルが可愛いと思っている事を見透かしているのだろう。

すっかりと大きくなったダリルを見上げながら問い掛ける。


「お菓子って……?」

「ずっと食べたがっていた、隣国のモチモチした甘くてしょっぱい白くて丸い……」

「ーーもしかしてオダンゴ!?」

「えぇ、そうなんです。トリニティ様が喜んでくれましたし、また食べたいと言っていましたから」

「覚えていてくれたのね! とても嬉しいわ。ありがとう」

「はい。ケリーさんの分もあるから、いつもみたいに、また皆でお茶をしましょう」

「えぇ、ケリーも喜ぶわ」


ダリルはトリニティが、ケリーを信頼して大好きなのを知った瞬間、速攻でケリーを落としにかかった。

同じようにリュートもケリーがトリニティを大切にしているのを知ってからは、ケリーと同じように愛情深く接してくれている。

そしてコンラッドを可愛がっていることを知ると、ダリルはすぐさまコンラッドと友人になった。


初めはダリルを拒否していたコンラッドだったが、ある時「ダリル殿下と友達になりたいんだけど……」と、しゅんとしながら言ってきた為「勿論よ。気を使わせてごめんなさい、コンラッド」と答えたのだった。

どうやらダリルを避けていることを気にして、友達になってもいいか悩んでいたようなのだ。

申し訳なさと共に、コンラッドが自分の気持ちを我慢する事はないと思ったのだ。

そして今ではダリルの親友兼、側近候補として毎日忙しく過ごしているようだ。


「ダリル、そろそろ教室に戻らないと……もうすぐ授業始まるよ?」

「そうだね。行こうか」

「うん」


麗しい二人のやりとりを見て、一人で「目の保養だなぁ」と癒されていると、激しい嵐は……突然やって来たのだ。


ーーーバンッ


教室中に響いた大きな音と共に扉が開く。

皆の視線が自然とその場所と集まった。


「はぁ、はぁ……やっと、見つけた!」


トリニティの天敵でもあるマロリーが肩を揺らしながら、Aクラスの教室に現れた。

途端、ダリルとコンラッドの顔がものすごい勢いで険しくなる。

マロリーが嫌がらせ行為を続けて、孤立させようとしていた事。

小細工をしてトリニティを貶めようとしていた事は、二人には黙っていたのだが、どうやらデュラン経由で全て伝わっていたのだと気付いたのはダリルとの何気ない会話からだった。


「学園に通ったら、やる事が沢山ありますね……!」

「やる事?」

「やっと直接、手を下せる日が来るなんて我慢した甲斐があったなぁ……僕の大切な大切なトリニティ様に害をなすなんて、早く排除しなくちゃ」


そう言ってニタリと悪魔のような怖い笑みを浮かべたのを見て、顔が引き攣ったのを思い出していた。

コンラッドも同じようなものだった。

デュランを睨みつけると「事実だろう?」と平然と言って笑っていた。

そして今、言葉通りダリルとコンラッドからは、ものすごく禍々しい圧が放たれている。

そんなことは全く気にならないのか、お得意のマロリースマイルを浮かべて、ダリルとコンラッドの元に近付いていく。

しかし直ぐにダリルとコンラッドの外見や反応、様子が違うことに気付いたのかマロリーの瞳が大きく揺れ動く。

以前と違う姿に驚いているのだろう。

そして『話が違う』と言いたげに此方に鋭い視線を送っている。

けれどマロリーに、ダリルとコンラッドの様子については一切聞かれてはいない。

睨みつけているマロリーに気付いたのか、ダリルは視線を遮るように前に立つ。

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