第58話 マロリーside1
『マロリー・ニリーナ』
私は前世でプレイしていた悪役令嬢に転生した。
以前は詰まらない人生を送っていた。
自分は価値がある人間なのに誰も声を掛けてくれない。
誰も私の良さを褒めてはくれなかった。
『何故誰も私の素晴らしさに気付いてくれないの?』
いつも、そう思っていた。
マロリーは美人だけど無表情で愛想がない。
それに品行方正で頭が良いが、常に一人で本を読んでいる。
実はメンヘラで狂気的……そんな悪役令嬢だった。
そんなマロリーにはマリベルという侍女が居た。
彼女はとても優秀な侍女だった。
マリベルの言う通りにすると全てが上手くいった。
欲しいものを簡単に手に入れることが出来たのだ。
マロリーに関心が無かった家族は、今まで無視されていたのにも関わらず、溺愛してきたのだ。
令嬢の友達が出来て、皆がマロリーを「素晴らしい」「可愛い」と沢山褒めてくれた。
令息達からも「好きだ」と言い寄られるようになった。
(やっぱり、私がマロリーになったから愛されるのよ……!)
そして悪役令嬢として立ち塞がるのは、幼馴染のケールと、そしてマロリーがずっと片想いしているサイモン。
二人共顔はまぁまぁだし、結婚相手としては悪くない。
ケールは宰相の息子で、サイモンは騎士団長の息子だからだ。
しかし圧倒的にコンラッドとダリルのような甘い顔の方が好みだった。
ファンの間ではケールとサイモンがビター組、コンラッドとダリルがスイート組と呼ばれていた。
どちらかといえばスイート組が好きだった。
それに加えて、やはりセンターを飾るダリルの容姿は別格である。
どうせ悪役令嬢として転生したのなら、王太子との結婚まで結びつけたい。
流行りの悪役令嬢ものを読み漁っていたし、この乙女ゲームだって勿論、プレイ済みである。
ヒロインのような愛され方は心得ている。
コンラッドの姉でありダリルの婚約者である悪役令嬢のトリニティは、可愛くて少しあざといだけで余り頭も良くない。
退けるのは簡単そうだ。
侍女のマリベルの言う通りにすれば、自分の願望を簡単に叶える事が出来るような気がした。
(うふふ、上手くいけば逆ハーも作れちゃうかも……なんてね)
そしてヒロインのローラのように振る舞えば、ケールもサイモンもコロリと落ちた。
コンラッドとダリルも、ヒロインより先に攻略できる自信があった。
ゲームでも、あの二人は優しくすればコロリと落ちて、簡単に攻略出来たからだ。
欲しいものは全て手に入れる……マロリーは幸せになれるのだ。
(何にも知らないヒロインになんて負けるはずがないわ!)
そして学園に入る前には、ケールとサイモンは『マロリー』にベタ惚れになった。
まるでお姫様のような扱いに満足していた。
学園に通い始めると、やはりトリニティの姿もあった。
暫く観察していたが、ゲームの中のトリニティよりも地味で大人しそうに見えた。
ダリルの婚約者でないと聞いて、もしかしてと思い、声を掛けてみると予想通り『転生者』だった。
そしてトリニティに誰を狙っているのかを確認しても曖昧な返事を返すだけ。
「攻略しようとしたけど失敗した」というトリニティの返事に思わず吹き出した。
折角乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来たのに、断罪ルートを回避する為に動かずに、攻略対象者を自分のものにすることもない。
しかも令嬢の友達もいないトリニティに、ビックリしすぎて思わず馬鹿だと罵ってしまった。
この乙女ゲームをしたことがないかと問えば「忘れた」の一言。
そんなトリニティはケールとサイモンの事が気になるようで、クラスの事を聞いてきた。
あの二人はキープに過ぎないのにも関わらず、本命かどうかを訪ねてきたのだ。
(私は全てを手に入れる……)
確かにマロリーはとても頭がいいキャラクターだった。
しかし今は勉強なんて関係ない。良い男を捕まえればそれでお終い。
やるだけ無駄なのだ。どうやらトリニティに転生した人は相当頭が回らないらしい。
それなのに此方を見る冷めた視線が妙に鼻につく。
(なによ、コイツ……)
私には令嬢の友達が沢山居る。
家族はマロリーを愛してくれている。
頭のいい幼馴染のケールですら、共にいたいという理由でFクラスに付いてきた。
サイモンは片時も離れずに何かあれば騎士のように守ってくれる。
ケールもサイモンも絶対的な自分の味方だ。
それなのにトリニティは「羨ましい」とも言わずに、頭を押さえて首を振っただけだった。
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