第38話 デュランside①


デュランは第一王子で生まれながら、王位継承権は持っていなかった。

自分が異質な存在であることは理解していた。

そして王族が受け継ぐはずの金髪ではなく、この国では誰も持っていない黒髪に紅眼。

王妃の不貞が疑われたが、体が弱い王妃にはそんな事が出来ない事は国王には分かっていた為、第一王子あてして育てられる事となった。

しかし母は産後の肥立が悪く自分を生んですぐに亡くなってしまったらしい。

『悪魔の子』

そう呼ばれていたのは知っていた。

しかし、幼い頃から大人顔負けの飛び抜けた頭脳を持っていた。

専門家や家庭教師達ですら教える事はないと匙を投げる状態だった。

城の本にある本は全て読んでしまった為、今は他国の本を取り寄せて読んでいたが、それも直ぐに飽きてしまう。

そんなデュランに周囲の目が変わっていった。


見た目の事もあったが、自分が国王に向いていない事は分かっていた為、あっさりと王位継承権を放棄したのだ。

勿論、周囲も国王も別に見た目には拘っていないと止めた。

しかし身内はそうであっても、国民はデュランを王として受け入れることはない。

『そうなると分かっていた』

全てが思い通りに進んでしまう。

行動パターンが予測できてしまうからか、詰まらない日々を過ごしていた。


何かを統べるよりも、自分で開発や研究の為に頭を使った方が国のためになるからと父を説得した。

それに自分程ではないにしても頭が良く優秀で国王向きな弟も居た。

ダリルを支えていく方向で話は纏まった。

その事に対して意を唱える事は無かった。

それに弟のダリルを可愛いと思っていた。

感情が希薄なデュランにとって、その感情は特別なものだった。


昔は兄弟でチェスをしたり、トランプで相手の手札を読んで遊び、大人相手に賭け事をしたりと、なかなかに可愛げのない遊びばかりをしていた。

しかしダリルの母親である現王妃は、自分が悪影響になるからとダリルを近付けさせようとしなかった。

その事がきっかけとなり二人の間に溝が生まれた。

その亀裂は深まっていき、大きくなっていくばかりだった。

時折ダリルから嫉妬の篭った悪意ある視線を向けられる事があった。

それはマーベルという男が側にいることで拍車がかかるようにして強くなっていった。

流れに身を任せて過ごしていた。

誰も味方が居なくとも害がない限りは興味がなかった。


ダリルは婚約者候補と顔を合わせる為に連日、馬車で出掛けていた。

浮かない顔をして帰ってくるダリルの姿。

しかし、簡単に声を掛けることすら許されない。

真面目で優しいが、気弱で自分に自信がないダリルのことを心配していた。


ーーーそんなある日の事。


最後の令嬢との顔合わせが終わったダリルが城へと帰ってくると、いつもとは違い年相応の嬉しそうな表情を浮かべながら自分の元へとやって来た。

部屋で本を読んでいたが、あまりのダリルの勢いに、持っていた本が手から滑り落ちた。

想定外のことが起こるのは、とても珍しい。


どうしたのかと尋ねると、ダリルは突然『兄上ッ!!身長が高くてイケメンで包容力があって、家族を大切にして、思いやりがあって、いつも明るくて笑顔が爽やかで、スポーツ万能で、頭が良くて、お金持ちで、海のように広い心で優しく見守ってくれる男らしい一途で素敵な男性になるにはどうしたらいいでしょうか!?』とキラキラした瞳で尋ねてきたのだ。

そしてその後ろには不機嫌そうに顔を歪めるマーベルの姿……。


「は……? いきなりどうしたんだ、お前」

「兄上なら何でも知っているでしょう!?」

「…………」

「精一杯、努力します! 私に教えて下さいッ」


今日会ってきた令嬢は自分の理想の男が現れたら結婚すると言ったのだそうだ。

それから楽しそうに今日会った令嬢の事を話すダリル。

どうやら今までの令嬢とは違い、斜め上の言葉と言動に興味を惹かれたらしい。

それにこんな風に会話をしたのは久しぶりだった。


年相応な単純な解釈と好意に『気の所為では?』と指摘しようかと迷ったが、珍しく前向きな姿を見て嬉しくなった。

けれど、どう考えても無茶な要求である。

「そんな人間はいないだろう?」と適当に躱すと、ダリルは「私は、トリニティ様の理想の男になってみたいんです」と熱く語り出したのだ。

兄として止めるべきかと迷ったが、少し様子を見てみることに決めた。

一連の会話の内容を聞いていたが、ふと疑問を投げかける。


「……お前、避けられてないか?」

「はい! 恐らく」

「あまり良く思われてないだろ、それ」

「遠回しに私の婚約者になりたくないと言っていることも理解しています。けれど、初めて心を惹かれました。とても楽しい人なんです」

「…………」

「私が……僕が理想の男になった時、どんな反応をするのか見てみたくありませんか!?」


目を爛々と輝かせているダリルを見て思っていた。

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