第23話
「皆様、お嬢様に釘付けになること間違いなしですね」
「ケリーのお陰よ、ありがとう……!」
「はいっ! ケリーは鼻が高いです!」
最近、ケリーはトリニティの為に自発的に色々と勉強をしてくれているようだ。
今もこうしてトリニティが少しでも可愛く見えるように協力をしてくれている。
ゲームでのケリーはもっと口煩い印象で、自分から何かするというよりはトリニティを咎めるような厳しい態度だったが、それは恐らくトリニティのやっている事が、今よりも激しく悪どいせいだったのだろう。
いくらトリニティが両親の前で取り繕っていても、ケリーだけは見抜いていた。
もしかして身勝手な振る舞いをして独善的になっていく事を止めようと必死だったのかもしれない。
やはりトリニティが死亡フラグを回避した事により性格が変わった事で何か変化があったのだろうか?
改めて御礼を言うと、ケリーは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「以前、お父様とお母様に渡されたリストは取り上げられてしまったけれど、何となく覚えているから大丈夫よ! 絶対にいい男をゲットするんだからッ!」
というよりはパーティーやお茶会に出る事自体、ほぼ初めてだと言っても過言ではない。
普通はもっと前に色々と済ますのに、何故かトリニティは、それを許されなかったからだ。
お陰で仲の良い令嬢の友人も居ないのだが、ケリーやコンラッドが側に居てくれるからか、全く寂しくなかった。
(悪役令嬢としての性かしら……孤独よね)
マナーも立ち振る舞いも完璧に記憶はしているが、緊張してないと言えば嘘になる。
それなりの知識は身についてはいても実践してこそだ。
そうは言っても、やはりメインは婚活。
リストはバッチリ頭に入っているから問題ない。
(隙を見て、必ず令息を虜にしてみせる……!)
鼻息荒く馬車に乗り込んだ。
*
馬車から降りた時から思っていた。
まるで視線がチクチクと針のように突き刺さる。
(何か変なところが!? ドレスも見た目も大丈夫なはず。化粧も髪型もケリーが完璧に仕上げてくれたから変なところはない……ないわよね? 誰か無いと言って!)
今のところダリルの姿はないようなので、会場を歩いて自分の目的を達成する為に動きだす。
今まで披露する機会はなかったが、鍛え上げられたエンジェルスマイルを浮かべながら、周囲にはバレないように以前婚約者候補だった令息を探していた。
(公爵家の次男ってもしかしてあの男!? 数年経ってるからかもしれないけれど写真と全然違うわ! 全然可愛くない。きっとコンラッドで目が肥えてしまったのね……けど、あの伯爵家の令息も沢山の令嬢を侍らせているのね……なんか思ってたのと違うわ)
鋭い眼光で値踏みしていく。
写真は数年前のものなので、大分成長しているが目的の人物は全て把握出来た。
(けど、見た目だけで判断するのは良くないわよね。話してみなければ分からないけど、やっぱり結婚するには互いを知ることが大切だし……初めての会話でどこまで踏み込んでいいものなのかしら)
周囲を吟味しつつ考え込んで歩いていると……。
「トリニティ様、お待たせして申し訳ございません」
「…………!」
「今日は、来てくれてありがとうございます」
名前を呼ばれて後ろを振り返る。
そこに居たのは本日の主役で、元天敵であるダリルの姿だった。
三年経ったダリルは、まだまだ幼さは残るものの背はトリニティより高く、より男らしくなった気がした。
この国の国王は皆、金髪で蒼目であるというよく分からない決まりがある。
ダリルは此方の姿を見つけると、とても嬉しそうに微笑んだ。
流れるように手を取るとキスを落とす。
その姿に驚いていた。
(あれ……? ダリルってこんなキャラだったっけ?)
冷めた俺様キャラは何処へ行ったのか。
今は柔らかい笑みを浮かべて紳士的に接しているではないか。
ダリルはヒロインと出会った事で愛を学んで温かい心を取り戻していくが、それまでは誰に対しても殺伐と自己中心的に振る舞う筈ではないのだろうか?
日本人には慣れない挨拶も子供が当たり前のようにしていると、これまた感慨深いものがある。
(今はこんなに楽しそうにしているのに、ヒロインに出会うまでは寂しさと劣等感を抱えて、常に孤独を感じているのよねぇ……ダリルにこれから何があるのかわからないけど、王子も大変よね)
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