第22話
部屋に戻ったトリニティはケリーに言われた通りに、ドレスを来てから全身鏡の前に立っていた。
「わぁー……綺麗!」
「素敵です! すごいですねぇ」
サイズは恐ろしい程にぴったりだった。
着てみるとケリーの言った通り、トリニティによく似合っている。
ラベンダー色の生地は触り心地が良く、スカートの部分はチュールになってボリュームがあり、胸元の部分はきめ細やかな花のレースが体にフィットする。
同じレースと白いリボンを使った髪飾りがトリニティの薄桃色の髪によく似合っていた。
「ダリル殿下は、お嬢様に似合うドレスがよくお分かりなんですねぇ」
「色んな御令嬢に送ってるんでしょう? 慣れているだけじゃない?」
「ケリーは、そんな事はないと思いますけど……」
「考えすぎよ、ケリー」
「そうですかねぇ?」
「きっと御令嬢達が好きそうなドレスや流行りを知っているだけよ」
アハハハと呑気に笑っている横で、ケリーは名探偵ばりに思考を巡らせる。
マークとイザベラの違和感のある態度。
そしてトリニティに婚約者がずっと居ない理由。
自分の誕生日パーティーでドレスを送り、パートナーとしてトリニティを誘ったダリル。
まるで……何かを頑張ったご褒美のようではないかと。
(もしかして、もしかするのでしょうか……! ケリーは良い予感がします!)
「どうしたのケリー? そんなにニヤニヤして」
「ふふっ、何でもないですよぉ」
「ねぇ、ケリー。ケリーは前にダリル殿下はやめた方が良いって言っていたのに、今回は随分と乗り気じゃない?」
「『今』のダリル殿下とお嬢様なら、幸せになれるような気がするんです」
ケリーの言葉にトリニティはこれ以上ない程に目を見開いた後、耳を疑った。
「…………はい?」
「ケリーには分かります!」
「なっ……え!? え?」
「ケリーには分かるんですぅ」
ケリーの言う方に進めば、大体良い事が起きると今までの経験上分かっているが、今回ばかりは賛同できない。
けれど、自分もケリーについて分かることがあった。
「あら、わたくしだってケリーの事、分かるんだから!」
「お嬢様が私のことをですか!?」
「えぇ、ケリーはとってもお金持ちの人と出会って結婚するのよ!」
「え……?」
「しかもすっごい年上の富豪の男性なの。一生遊んで暮らせると思うわ」
「…………」
「ケリー?」
「それはケリーがお嬢様の側を、離れるということですか……?」
「勿論そうよ! だってお金持ちの人と結婚するのだから」
「お金持ちの……結婚」
「ケリーだって、そうなったら幸せでしょう?」
「…………」
動きが止まったケリーを不思議に思い、ふと鏡を見ると、瞳に涙を浮かべながら肩を揺らしているケリーの姿があった。
「ケリー!? どうしたの……!?」
初めて見るケリーの悲しげな表情に困惑していた。
何故か落ち込んでいるケリーを励まそうと一生懸命、手を伸ばしてケリーを抱き締める。
「お嬢様……?」
「ケリー、大丈夫?」
「……はい。でもケリーは、ケリーはッ、ずっとお嬢様の側に居たいです!」
「わたくしだって、ケリーの側にずっと居たいわ」
「本当ですか!?」
「勿論よ!」
「ふふっ、ケリーは元気が出ました! ありがとうございます」
「大好きよ、ケリー」
「私もです……お嬢様」
その後もケリーと『ずっと一緒に居よう』と約束したのだが、そうなるのかどうかは分からない。
寂しさを感じながらもケリーの豊満な胸に埋まって窒息しそうになっていた。
「ーーゲリー、ぐるじい」
「きゃああ! お嬢様、トリニティお嬢様あぁあ!!」
ーーーそして誕生日会、当日を迎えた。
「ケリー……貴女、また腕を上げたんじゃない?」
「うふふ~! ケリーはお嬢様の為に頑張っちゃいました」
鏡に映る自分の姿に感動していた。
あまりにも『トリニティ』が可愛すぎたからだ。
(なんて恐ろしいの……! ケリーマジックだわ!)
勿論、ダリルにプレゼントされたドレスを纏って準備を進めている訳だが、あの日からケーキ断ちをして体型を絞り、肌も努力のお陰でうるうる艶々で完璧なコンディションで今日という日を迎えていた。
髪も香油で毎日整えて、天使の輪っかが見えるほどに輝いている。
何故こんなにも気合いが入っているのかと言えば……。
「これで婚活はバッチリね! 会場の視線を釘付けにするのよ!」
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