第11話 運転手、吉川3
皆が乗りこんだのを確認すると、運転手は手に持っていた帽子を綺麗に被る。
「(ん? 今のは。帽子のつばに何かあるな? あれは癖か)」
運転手の帽子のつば、内側の部分を確認した悠子はそれについて尋ねようとしたが、京子が先に話し始めたため、口をつくんだ。
「あら? 確かこの前うちにいらしたときの西条の運転手の方ってもうお若い方だったような気がするんですけど。運転手の方、変わったんですか?」
京子が話しかけると運転手はドアの外から微笑みながらうなづいた。
「私は会社の方の運転手としては働いておりませんで、主に西条様のご自宅の方での運転手がメインでした」
「あら、そうなのね」
「ん? でしたということは、今は違うということか?」
「えぇ、仕事関係の運転手の方はあまり長続きがしませんで、お嬢様がご覧になった方も1年ほどでやめられてしまいまして。 新しい方も中々見つからず、現在は私が会社関係も自宅の方も両方をやらせていただいております」
「やはり、偏屈で頑固な主人にはついていけないのか?」
「あ、いや、あの、それは……」
にやりと笑っていう悠子の言葉に、どう返事をしたら良いものかと運転手が頭をかきながら困っていると、京子が呆れたようなため息を小さく吐く。
「例えそうだとしても、この場で『はいそうです』なんて言えるわけ無いでしょ。もう。この子の言う事に真面目に答えなくていいですから。気にしないでください。お屋敷までよろしくお願いします」
嫋やかなお嬢様スマイルの京子の言葉にホッと胸をなでおろした運転手は、にこやかに頷くと室内に有る飲み物コーナーに手のひらを向けた。
「飲み物はお好きなものをお飲みください。お屋敷はここから島の殆ど真裏側になりますので暫くかかりますが、お寛ぎくださいませ」
「真裏とは不便な。作る時に考えて作りゃいいのにな」
「港はココに元々あったんですが、城を移築出来る場所が島の裏側しかなかったんですよ」
車のドアを閉めかけた運転手は、悠子のつぶやきに手を止めて説明を付け足す。
「城? 移築?」
いったい何を言い出したのかと眉間にしわを寄せる悠子に、横から鷲征が言葉を挟んだ。
「確かどっかの外国で古城を買い付けて移築したって聞いたけどな」
「面倒極まりないな。普通に現代日本の技術力での屋敷を建てればいいものを」
「よくわかんないけど、ステータスだと思ったんじゃないのかなぁ? 佐藤建設でって言われたんだそうだけど、親父が苦労して断ったって言ってたよ」
「懸命だな。たとえ建築屋であっても専門家ではないなら手を出すべきじゃないし、何より客が西条とあってはな、後でどんな難癖つけられるか分からん」
悠子の歯に衣着せぬ物言いに運転手は少し困ったような顔をしながらも笑いつつドアを閉め、運転席に腰を下ろして車を走らせた。
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