第39話 プリンのような実

 ポーションの効き目というものが、なんとなくわかった。

「まあ、気を付けよう。即死したらポーションも魔術も役に立たないからな」

「ああ、そうだな」

「その心構えで、前から来たのをやってみろ」

 僕と幹彦はチビに言われて、目を凝らした。

「あ、気配察知に反応ありだ。1体だな?」

 幹彦が言うのに、チビは満足そうに頷いた。

「オオカミの群れのハグレだろう。肉は硬くて食えないが、魔石と牙が取れる」

 チビがそう言った時、やっと僕にもその姿が見えた。

 オオカミかイヌか、四つ足の生物が近付いて来ていた。大きさは頭からお尻までが1メートルくらいあり、長い牙が口の左右についている。

 と思った時には、頭を低くしてあっという間に近くまで接近して来ていた。

「うおっ」

 飛びかかって来るのに幹彦が刀を振り、オオカミの腹に長い傷が入った。

 探索者を始めてから、幹彦の反射神経や集中力が更に上がった気がする。

 オオカミは幹彦を睨みつけるようにして、低く唸り声をあげて警戒するようにゆっくりと横に歩いている。

 幹彦はそれから目を離さずに、リラックスしつつ隙無く構えている。

 と、オオカミが飛び掛かり、同時に幹彦は体を低くして刀を振り抜いた。そしてオオカミは着地し、そのまま崩れるように倒れた。

「おお。お見事」

 幹彦は血ぶりをし、その間に僕はオオカミのそばに寄った。致命傷となった傷は心臓近くにあり、開いてみると、大動脈を斬りつけていた。

「魔石と牙、やっておこうか?」

「うん、頼む」

 魔石を取り出すのと牙を折り取るだけなので、手間でもない。ナイフで簡単に済ませた。

 そして魔術で水をボール状に出すと、それで刀とナイフを洗ってきれいに拭く。

「死体は埋めるか燃やしておくといい。そのままだと、アンデッドになる事もあるからな」

 チビが気持ち悪い事を言うので、魔術で骨まで燃やしておいた。

「アンデッド?ゾンビか?」

 幹彦が嫌そうに言うのに、チビが淡々と答える。

「そうだな。ほかにも、骨だけになったスケルトンや、思念体の存在のレイスなんかもいるぞ」

 僕は周囲を見回して、

「死蝋化するには湿度が高いし、ミイラ化するには気温が低そうだしな」

と言った時、それを見付けた。

 クリーム色のマスクメロン程度の大きさの実が木に生っており、甘い香りを放っていた。

「ほう。これは珍しい。甘くて美味いやつだな。人の、特に女子供が好むようだぞ。魔素の濃いところのものほど美味いから、この辺りに生えているのも珍しいが、甘そうな実が生っている事がもっと珍しい」

 チビは言いながら、クンクンと実の匂いをかぐ。

「甘いかどうか、確認してみようぜ」

 異議はない。僕達はもいだ実を囲んで座ると、ナイフで実を切った。

 切った瞬間、ますます甘い匂いが立ち昇る。真ん中に丸い大きな種があり、果肉の部分は白くて柔らかく、プリンのようにふるふると揺れていた。

「見た事も無い食べ物だな」

「確かに、女性や子供が特に好きそうだよな」

 僕も幹彦も、果肉が落ちないように気を付けながら観察した。

 僕と幹彦は4分の1を持ち、チビは半分のものを地面に置いている。

「では」

「うむ」

 一口かじる。かじるという表現は、適切ではない気がした。滑らかなプリンかパンナコッタ、もしくは生クリームのような食感だった。甘さは控えめだが、それでも冷やして食べると十分に美味しそうだ。

 チビは果肉をなめ尽くすと、ぺろりと口の周りを舐めて言った。

「うむ。やはり甘みは少ないな」

 そこで考えた。

「これを地下室で栽培したら、甘い実が生るんじゃないかな」

 揃って木を見る。

「挿し木?それとも種を植えるのか?」

 幹彦が言うのに、

「種を埋めて水をかければいいんじゃないのか?」

と言うと、チビは胸を張った。

「枝の方が早い。ミキヒコ、一枝斬れ。私が精霊樹のように根付かせよう」

 チビもどうやら、この実が好きらしい。

 あの枝にしろ、この辺から斬れというチビの指図に従って幹彦が枝を斬り、それを大事にカバンにしまった。

 そして僕は、この調子でいろいろな薬草や美味しそうなものを集めようと決めた。





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