第26話 登録完了
「登録したいのですが」
幹彦は愛想よく話しかけた。
「いらっしゃいませ。冒険者登録ですね。身元保証人はいらっしゃいますか。いない場合、1人金貨1枚いただく事になりますが」
職員はまだ若い子供のような男だが、にこやかにそう言う。金貨の価値がわからない。
「保証人はいないな。
それと、ああ、田舎から出て来たばかりで、現金もないんだ。魔石があるから、それを現金化してそこから払いたいんだけど」
そう言って幹彦がこちらを見るので、僕はカバンから適当に魔石を取り出してカウンターの上にゴロンゴロンと置いた。チビの助言に従い、8つだ。
「失礼します」
そう言って、職員は魔石をひとつひとつ確かめるように見て並べ替えていった。
「傷もありませんし、全部で金貨4枚と銀貨4枚になります。よろしいですか」
幹彦は嬉しそうに頷いた。
「では、こちらの登録用紙に名前を記入してください」
用紙を差し出される。
ふむ。和紙より薄い白い紙だ。製紙の技術はそこそこ発展しているらしい。
しかしペンは、羽ペンだった!インクをつけて書くらしい。
チラリと横目で見ると、幹彦も困ったような顔で横目をこちらに寄こしていた。
中学の時に、マンガを書く趣味の友人がいた。その友人がGペンとかいうインクにペンを浸して書くペンでマンガを書いており、インクをつけ過ぎたり力を入れ過ぎたりしたらインクが出過ぎてダメだと言って、難しいと練習していた。
今ここで練習する時間はない。
僕はいつも胸ポケットに挿しているボールペンを出すと1本を幹彦に渡し、お互いそれで名前を書いた。
ひそひそと、
「魔道具か?」
「まさか貴族なんじゃ」
と声がする。
窓口の職員が、困ったような顔で僕と幹彦の名前を書いた用紙を見て言う。
「申し訳ありません。ギルドは立場上、国からの介入を拒否する場合があります。ですので国に帰属する貴族や騎士は加入できない事になっています」
「は?いえ、俺達は庶民です」
「虚偽の場合、罰則もありますよ」
「間違いなく、庶民ですよ。な」
「うん、庶民です」
僕も頷いて同意する。
職員は少し僕達を見て逡巡していたようだが、笑顔を浮べ直した。
「わかりました。
では次に、ここに指を置いて指に針を刺して下さい」
上に針の付いたピラミッド型の何かで、向こう側にスリットがついていた。
「じゃあ」
幹彦が無造作に針に手を伸ばすのを、僕は慌てて止めた。
「待った!ちょっとストップ!」
恐ろしい事を!
「あの、針の消毒は済んでいますか」
そう訊くと、職員は一瞬ポカンとした顔をし、周囲の人間は黙った。
「えっと、前の人の血は拭いていますよ?」
そういう職員に、僕は針の使い回しの恐ろしさを説いた。
「いいですか。キチンと消毒しなければ感染症の原因になり得るんです」
「は?はい、はい?」
「肝炎やエイズ、エボラ。重篤な病気に感染する危険性もあるんですよ」
「えっと、すみませんでした」
しどろもどろに職員が言い、わかってくれたらしいと、僕は指先から小さい火を出して針を炙った。
「こんな事なら消毒液を持って来るんだった」
そうしてまずは幹彦が針で指を刺す。するとカタンと音がして、スリットから金属片が出て来た。
「はい、できました」
針を拭い、また火で消毒し、今度は僕が指を刺す。するとカタンと音がして、スリットから金属片が出て来た。
「できました」
差し出された金属片を受け取り、見る。
フミオ・アソウ
エルゼ冒険者ギルド
そう刻印されていて、チェーンを通せる程度の穴が開いていた。
「ドッグタグと同じようなものだなあ」
幹彦が小さい声で言った。
「依頼を受ける時、報告する時、これを出して下さい。別の支部に行ってもこれを出して下さい。それと、別の領や国に行った時も、これで通行料が無料になったりします。
無くした時はすぐに最寄りのギルドへ報告すること。
あと、失くした時は再発行に銀貨5枚かかりますので、注意してください」
最初よりも早口で職員は説明をし、「新人冒険者のしおり」と魔石を売ったお金から登録料を引いた分をもらって僕達はギルドを出た。
通行の邪魔になってはいけないと、横の路地に入って足を止めた。
「ふう。無事に登録は済んだな」
幹彦が言って、タグを感慨深げに見る。
「いや、無事かどうかはまだわからんようだぞ」
僕と幹彦の間に座っていた小さいチビは、そう言って後ろを振り返った。
僕と幹彦が振り返ると、ガタイがよくてガラの悪そうな男が3人、ニタニタと笑いながら近付いて来るのが見えた。
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