第73話 おでかけ
いよいよ待ちに待ったお休みの日。わたしたちは外出申請をして、5人一緒に王都へと繰り出した。
さっそく、学園から出てすぐの乗り合い馬車に乗り込む。
ちょうどタイミングよく、馬車の乗客はわたしたちだけだった。
「あ、あのっ。わたくし、変じゃありませんわよね?」
わたしの隣に座ったプラチナブロンドの髪の女の子が、毛先を人差し指でいじりながら不安そうに問いかけてきた。
わたしはそんな彼女の手を取って、自信満々に答えてあげる。
「とっても似合ってるよ、ロザリィ様!」
「師匠、大声で名前を呼んだら変身魔法の意味がないですよ」
「あっ!」
いけないいけない。乗客がわたしたちだけでよかったぁ……。
胸を撫でおろしたわたしに、プラチナブロンドの髪の女の子が苦笑する。
「ありがとうございますわ、アリスさま」
「ごめんね、ロザリィ様……じゃなくて、ロザリィ」
プラチナブロンドの髪の女の子……ロザリィ様は「いいえ」と首を横に振る。
ミナリーの変身魔法で、ロザリィ様は金色の髪を少しくすんだプラチナブロンドに変えて、目鼻立ちにも少しだけ変化を加えていた。わたしたちは何となくロザリィ様の面影を感じられるけど、普通の人にはパッと見じゃロザリィ様とわからない絶妙なライン。
さすがミナリー、わたしの自慢の弟子は美的センスも抜群だった。
「アリスさまなら、普段から敬称をつけずともよろしいですのに。子供のころはロザリィと呼んでくださっていたじゃありませんか」
「そ、それは若気の至りというか何というか……」
「姉さまって変なところで律儀よね。あたしなんて一度もロザリィを様付けしたことないわよ?」
「私もです」
「あなた方にはもう少し敬ってもらいたいものですわね……!」
なんてやり取りをしている間も、馬車はパカラパカラと王都で一番活気のある商業地区へ向かって進んでいく。
ふと、椅子に座って熱心に新聞を読むニーナちゃんの姿が目に入った。
「ニーナちゃんなに読んでるの? 面白い記事でもあった?」
「あ、師匠さん。これ、王都で人気のスウィーツ店を特集した記事です。今日はここに書かれているお店に行ってみたいと思ってまして! 見てください、師匠さん! この記事にある『超弩級ジャンボプリンアラモードパフェ』を一度でいいから食べてみたいと思ってたんです!」
「おぉ……! なんだか凄そう……!」
「はいっ! ……わたし、修道院で育ったので今まで甘い食べ物をほとんど食べたことがなくて。だから今回、皆さんと一緒に甘いものが食べられるのがとっても楽しみなんです! ……あ、えっと、すみません。わたしのわがままに付き合わせてしまって……」
「ううん。謝ることじゃないよ、ニーナちゃん」
わたしもミナリーも甘い食べ物は好きだし、アリシアとロザリィ様にとっては今回のお出かけが良い気分転換になると思う。
それに、ニーナちゃんがロザリィ様を気遣って今回のおでかけを提案してくれたんだもん。わがままなんて思うわけがないよ。
「みんなを誘ってくれてありがと、ニーナちゃん。ちょうどきゅうじゃんぼぷりんあらも―どぱふぇ……? 楽しみだね」
「はいっ! ぇ、ぇへへ……」
ニーナちゃんは気恥ずかしそうにはにかむ。
わたしたちは商業地区に着いた馬車を降りて、さっそくニーナちゃんの案内で目的のパフェのお店に向かった…………んだけど、
「臨時休業ぉおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ…………――」
店頭に貼られた張り紙を見て、ニーナちゃんが膝から崩れ落ちた。
「あちゃあ……」
どうやら急に決まったことのようで、わたしたち以外にも張り紙を見て落胆して去っていく人が何人も居た。そんな人たちに、店主らしきおじさんが何度も頭を下げて謝っている。
「すまんねぇ、新聞で記事になってからというもの連日大盛況で、接客をしてくれていた女房が体調を崩しちまったんだよ。材料はたんまり仕入れてあるんだが、俺一人じゃあねぇ……」
「それは大変そうね……」
「うぅ、食べたかったです、超弩級ジャンボプリンアラモードパフェ……」
ひざまずくニーナちゃんを一緒に抱え起こしながら、わたしはミナリーと顔を見合わせる。
「師匠、これからどうしますか?」
「うーん、この近くのお店に向かってもいいけど……」
けど、ほんの少しだけ後ろ髪を引かれる気持ちだった。本当に申し訳なさそうな顔で頭を下げている店主さんがちょっぴり可哀想で……。
「わたくしたちで何か出来ることはないのかしら……」
ポツリと、ロザリィ様が呟く。
「出来ることって例えばどんなことよ?」
「わたくしたちで店主の奥様の代わりに接客をするとか……ですわね」
「はあ!? あ、あんたねぇ。お人よしにもほどがあるわよ? それに、自分の身分を考えなさいよね」
「あら、今のわたくしはただのロザリィですわよ? それに、これは王族として庶民の生活を知ることができる貴重な機会だとも考えられますわ。……もちろん、皆様さえよろしければですけれど」
そう言ってロザリィ様はわたしたちに視線を向ける。
「接客のお手伝いは久しぶりですね、師匠」
「そうだねぇ」
ログハウスでミナリーと暮らしていた頃に何度か、頼まれて近くの町のカフェのお手伝いをしたことがある。あの時の給仕服姿のミナリーも可愛かったなぁ。
「お、お手伝いしたら超弩級ジャンボプリンアラモードパフェ作ってもらえますかね!?」
「材料はたんまりと仕入れてあると仰っていましたし、きっと作ってくださいますわよ」
「が、頑張りますっ!」
さっきまで落ち込んでいたニーナちゃんだったけど、今は気合十分で両手を握りしめて空に突き上げていた。
「アリシアはどういたしますの?」
「どういたしますのって……」
構図としては四対一。首を横に振れない雰囲気になってしまっている。
うーん、アリシアにはリフレッシュして欲しくておでかけに誘ったから、あんまり疲れるようなことはさせたくないけど……。
「……ったくもぅ、揃いも揃ってお人よしなんだから! というか、まずは店主さんにお手伝いしていいか確認を取るのが先でしょーが。あたしが交渉してくるから待ってなさいよね」
そう言って、アリシアは店主さんの方へ駆けて行った。
「なんだかんだ、アリシアが一番お人好しな気がします」
「ええ。アリシアはただ素直じゃないだけですもの」
店主さんから了承を得たらしいアリシアは、こっちに振り返って笑顔で手を振ってくる。
「本当は誰よりも優しくて、頑張り屋で、面倒見がいいのですわ」
そう語るロザリィ様の横顔は、少しだけ誇らしげに見えた。
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