第17話 此処にある個々のもの

 ただただ白い。それ以外に何も無い空間の中、俺と少女は相対する。


「なんで裸なんだ?」


「逆に聞くけれど、なぜ裸じゃ無いんだい?」


「ここはヌーディストビーチか何かなのか?」


「いいや違う。違うけれど、しかしなんだか言い得て妙だな。ある意味ではあっている。でもやはり違う。そんな楽園はもはやこの世界には無いよ。あるのはただ無意味で無為な地獄だけだ。そしてここは唯一そんな世界から切り捨てられた世界-----便宜上精神世界とでも言っておこうか。君の内面世界を、当たり前過ぎて忘れ去られた心象風景をこの僕が引き摺り出してあげたのさ。君の望みに応えてね。ああそう、外のことは心配しなくていい。ここで体感する一分は向こうの世界の一秒にも満たない時間なんだ。精神と時の部屋みたいなものさ。ああ、知ってるかな、ドラゴンボール。その顔からして知らないようだね。まあかなり昔の漫画だからな。知らなくて当然だろうけど。なんだかショックだよ。ジェネレーションギャップってこう言うもののことなのかな。望んではみたものの世界と切り離されるってのも楽じゃ無いね。どうも」


 ……以後も何やらぶつぶつ呟いている荒貝。いろいろ言っていたが要点をまとめると----ここは俺の精神世界で、外の世界とは時間の流れも空間的にも何もかも隔絶された場所である。こんなところか。蛇足を承知でもう一つ付け加えるなら、彼女はかなりの能弁家だと言うことくらい。あの少年といいこの少女といい、今日はなにやらおしゃべりな奴とよく出会う日だ。


「……ああ、すまないね。一人で勝手に盛り上がってしまって。久しぶりなんだ。こうやって誰かと繋がるのは。ふふ。楽しいね。なかなか。愉快だね。本当に。懐かしくて、ノスタルジックで、たまらない。いつまでもこの感覚に浸っていたい気分だが……そうもいかないようだね。

 ------では早速始めよう。君と『彼』との対談を。永久に閉じることのない祭壇で」

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