05:残業

 フリードリヒは朝早くに出掛け、夕刻になると必ず屋敷に帰ってくる。

 一見規則正しい生活に見えるが、しかし屋敷に仕事を持ち帰っているようで、彼はほぼ毎日、夜遅くまで執務室に籠って仕事の続きをしていた。

 見兼ねてなし崩しに手を貸すようになったが、いよいよ不思議に思って聞いてみた。

「まずこれは決してお手伝いが嫌だという話ではございませんが、手伝えることが限られるわたしよりも、商店の従業員を使う方が仕事が一層捗ると思うのですが、フリードリヒ様はそこのところをどうお考えでしょうか?」

「もちろんそうだろう。だがそれは出来んのだ」

 台詞はいつもより少し長かったけど要点がサッパリなのは相変わらずね。

「出来ない理由をお聞きしても?」

「前に従業員の人数の話をしたと思うが覚えているだろうか?」

 きっとわたしがここに置いて欲しいといった時の話だろう。

「雇える従業員の数はギリギリだと仰いましたわ」

 てっきり断り文句だと思っていたのに違ったらしい。

「うむ。あの時は人数の話だけだったが、雇用時間の方も厳しく定められていてな。これ以上従業員を働かせると雇用人数が増えたのと同じ扱いにされるのだ」

「なるほどそう言う理由でしたか」

 聞いてみれば十分納得できる理由だった。

 三人雇い四人分の時間働かせれば税金が浮くと考えた人は多かったのだろう。

 しかしそう言った穴はしっかり塞がれているらしく、フリードリヒの商店は人も労働時間もとっくにギリギリらしい。


 それを聞いてわたしはふと思ったことを口にした。

「そうなるとわたしはどういう扱いなのでしょうか?」

「お前は妻だろう」

「ええその通りですが……」

 妻らしいことなんて全然していないけど、面と向かって言われると恥ずかしいわね。

「ふっふふ。妻は従業員に含まないのは盲点だったぞ。

 くぅ~もっと早く気づいておればなぁ」

「気づいていたらどうだったと仰るのですか?」

 普段は感情を上手く読み取るフリードリヒも、少々興奮している時はそれほどでもないようで、

「もっと早く結婚しただろうな」

「へぇ……」

 わたしは、思わず漏れた自分の声色に驚いた。

 それはまったくの平坦で、感情など一切も籠っていなかった。

 流石にそんな声色が漏れれば、フリードリヒも我に返ったようで、「済まない。失言だった」とすぐに謝罪をくれた。


 謝罪を受けてわたしも我に返った。

 突拍子も無い結婚だったというのに、わたしは一丁前に不満を感じたらしい。

 何を贅沢な、行くあてが無いのを拾って貰っただけで十分じゃない。

「わたしの方こそごめんなさい……」

「先ほどの事は俺が悪いのに、なぜリューディアが謝る?」

「さあもう少しです、早く仕事を終えてしまいましょう」

 蒸し返すのも恥ずかしく情けないからと、わたしはさっさとこの話を流した。

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