第111話 教会

「――うっ……な、何?」



ハルナは目を覚ますと自分が宿屋の部屋ではなく、廃墟のような場所に横たわっている事に気付く。頭痛を覚えながらもハルナは起き上がると、彼女は自分の手足が拘束されている事に気付いて驚く。



「えっ!?な、なにこれ……どうして?」

「ハルナ様……良かった、お目覚めになられましたか」

「えっ!?」



聞きなれた声を聞いてハルナは驚いて振り返ると、そこには自分と同じように縛られたリンの姿があった。姿を消した彼女が居る事にハルナは驚いたが、リンはハルナと違って柱に括り付けられており、酷く衰弱していた。



「リン!?どうしたのその格好!?」

「……申し訳ありません、護衛の身でありながらハルナ様を守れなかったなんて」

「そんな事はいいよ!!それより、身体は大丈夫なの?」

「大丈夫です……私の事よりもハルナ様は平気ですか?」

「嘘!!絶対に無理してる!!」



柱に縛られたリンは顔色が悪く、虚ろな瞳でハルナに苦笑いを浮かべていた。明らかに体調不良を起こしている彼女を見てハルナは近づこうとするが、ここで彼女は自分に縛られている縄も近くの柱に括り付けられている事に気付く。


両手両足が拘束されたハルナと、柱に括り付けられたリンは動く事もままならず、二人が居るのは教会のような場所だった。但し、あちこちが焼け焦げており、天井は崩壊して正に廃墟と化していた。



「こ、ここ何処なの?どうして私達はこんな所に……」

「不覚です……私達は攫われて人質にされました」

「ひ、人質?それってどういう意味?」

「……前にイチノで出会った少年と少女を覚えてますか?」

「それって……コウ君とネココちゃんの事?」



リンの口からコウ達の話題が出た事にハルナは薄々と嫌な予感を抱き、リンは自分達を攫った人間の目的を伝えた。



「私を攫った男は名前をオウガと名乗り、ハルナ様を前に助けた少年と少女を誘き寄せるために私達を人質として利用するつもりです……あの男、前に出会った時よりも恐ろしい力を身に付けていました」

「それって……リンが負けちゃったの!?」

「申し訳ございません……奴の力を見誤っていました」



自分の護衛役であるリンがオウガに敗れたと聞いてハルナは驚き、リンの強さはハルナが知る限りでは亡き母親を除けば自分の里のエルフの戦士の中でも一番の腕前を誇る。


戦士としてはリンは非常に優秀で彼女に勝てる戦士は里の中には存在せず、だからこそ次期族長のハルナの護衛役として選ばれた。しかし、そのリンでさえもオウガに敗れて人質にされ、そして彼女の主君であるハルナも捕まってしまう。



(リンが負けるなんて……ま、まずいよ。コウ君とネココちゃんがここへ来たら殺されちゃう!!)



リンの強さを知っているだけにハルナは彼女を打ち負かしたオウガに恐れを抱き、コウとネココがここへ来ないように祈る。すると、廃墟の外の方から足音が鳴り響き、それを耳にしたリンはハルナに語り掛ける。



「ハルナ様!!誰かが近付いています、早く逃げてください!!」

「えっ!?に、逃げろって言われても……」

「私の元までどうか近付いて下さい……風の精霊の力を借りて貴女の縄だけでも切ってみせます」



残された体力を振り絞り、リンは精霊魔法を利用してハルナを縛り付ける縄を切り裂こうとした。せめて敬愛する主君の大切な一人娘である彼女だけでも生かそうとリンは力を振り絞るが、その前に扉が開け開かれて声が響く。



「うわっ!?何だここ……思っていたよりボロボロだな」

「へえ、ここが教会か。金目になりそうな物はなさそうだな」

「えっ!?この声……」

「まさか!?」



聞こえてきた声はオウガの声ではなく、よく聞き覚えのある声だと知ってリンとハルナは振り返ると、そこには闘拳を装着した状態のコウと何故か頭に鍋を被ったネココの姿があった(恐らくは防具の代わりに身に付けている)。



「コウ君!?それにネココちゃん!?」

「あっ!?兄ちゃん、あそこに姉ちゃんがいるぞ!!」

「ハルナ!!無事か!?」



コウとネココはハルナの姿を確認すると慌てて駆けつけ、この時に柱に縛り付けられているリンにも気づいて驚愕した。まさかハルナ以外にも人がいるとは思わなかったが、とりあえずは二人の拘束を解く。



「無事でよかった……あいつにひどい事されてない?」

「え〜ん、怖かったよ〜!!」

「うぷぷっ……く、苦しい!!そんなに抱きつくなよ!!そういうのは兄ちゃんにやってやれよ!!」

「リンさんも無事でよかった」

「……助かりました」



縄を解くとハルナはネココを抱きしめ、その際に彼女の豊満な胸を顔に押し当てられたネココは苦し気な表情を浮かべ、一方でコウはリンの拘束を解除する。リンは安堵した表情を浮かべるが、どうして二人がここへ来たのか疑問を問う。

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