第94話 コウに会いたい

「コウの馬鹿!!せっかく会えると思ったのに勝手に旅に出るなんて……うわぁああんっ!!」

「ちょ、こんな所で泣くな!?」

「あらあら、お可哀想に……」

「そんなにコウって奴と会いたかったのかい?」

「ふむ、余程大切な幼馴染だったんだろうね」



コウに出会う事ができなかったルナは近くにいたリンダに抱きつき、彼女が引き剥がそうとしても無理やり抱きついて泣き止まない。その様子を見ていたクロネは彼女の頭を撫でながら話を聞く。



「そのコウ君は何処へ旅立ったのかは聞いていないのかい?」

「ひっくっ……アルおじさんの話だと、王都へ向かったって」

「王都?では幼馴染君はここへ向かってるんですの?」

「それならここで待っていればその内に会えるんじゃないのか?」

「ううん、コウは馬も無しに旅に出たからここまで辿り着くのにどれくらいかかるか分からないって……」

「ルナ君の故郷は確かイチノ地方だったね。イチノから王都まで馬も無しに旅立ったとなると……到着まで何か月かかるか分からないね」

「ううっ……休みの間、他の街を探してみたけどコウは見つからなかった」



ルナはコウが旅だったと聞いて近くの街を探したが彼の情報は手に入らず、結局は収穫もないまま戻ってきたという。誰よりも会いたかった幼馴染が旅立ったと聞かされた彼女の心境を考えると他の仲間も同情せざるを得ない。



「よしよし、それにしてもその幼馴染君はどうして急に旅だったんでしょう?」

「そりゃお前、ルナに会うためだろ?」

「えっ……僕に?」

「そうとしか考えられないだろう。イチノから王都まで向かう人間なんて滅多にいない。しかも馬も無しに旅立つなんて余程の理由がないとできない事だ」

「きっと幼馴染君もルナ君に会うために旅に出たんだよ」

「そ、そうなの?」



コウが旅立った理由が自分に会うためだと知って泣きじゃくっていたルナは顔を上げ、表情を一変させて照れくさそうな顔を浮かべる。



「えへへ……な〜んだ!!コウも僕に会いたかったんだ!!それならそうと教えてくれればいいのに……」

「い、一気に機嫌が良くなったな……」

「ルナさんらしいですわ」

「それにしてもその幼馴染君も大胆な奴だね。ルナに会うために旅に出るなんて相当な覚悟が必要なはずだよ」

「ふむ……しかし、その幼馴染君が無事に王都まで辿り着けるかどうか」

「えっ!?どうして!?」



クロネの言葉にルナは驚いた表情を浮かべ、そんな彼女にクロネは長旅の危険性を説く。



「忘れたのかい?現在は世界異変の影響で各地で危険区域ダンジョンが次々と誕生しているんだ。これまでは魔物が現れたなかった地域にも魔物が出没する危険性もあるし、旅をしている間に誤って危険区域に踏み込んでいる可能性もあるんだ」

「そ、そんな……コウはなんだよ!?魔物と遭ったら殺されちゃう!!」

「落ち着くんだ。幼馴染君が何も調べずに旅に出ているとは限らない。普通の人間だったら危険区域を避けて旅をするはずさ」



ルナはクロネの話を聞いて不安を抱くが、あくまでもクロネは可能性の話をしているだけに過ぎない。普通の旅人ならば事前に旅に出る前に自分が向かう目的地までの道順を確認し、情報収集を行ってから安全かどうかを確かめるはずだった。


危険区域が世界各地で誕生しているのは確かだが、普通の旅人ならば自分が向かう先に危険がないかどうか調べてから行動するのが当たり前である。だからクロネはコウがならば心配する必要はないと安心させる。



「大丈夫、君の幼馴染は余程でもなければ危険を冒して旅に出ようとはしないさ」

「そ、そうだよね……」

「そのコウ君という御方はどんな人ですの?」

「えっとね、ちょっとガサツで無鉄砲な所もあるけど、けど本当は優しくてお爺さんのような立派な狩人を目指してるんだよ」

「狩人か、そいつはいいね」

「ふむ、ルナ君がここまで夢中にさせる相手とは……どんな子か会ってみたいな」

「夢中って……そ、そんな事ないよ」



クロネの発現にルナはあからさまに照れくさそうな表情を浮かべ、誰の目から見てもルナがコウに幼馴染以上の感情を抱いているのは丸わかりだった。ルナは他の仲間の話を聞いてコウは安全だと信じ、むしろ自分に会うために旅に出たと知って彼女は嬉しく思う。



(コウ、早く王都へ来ないかな……よし!!コウがくるまでにもっと立派な勇者になろう!!)



自分の幼馴染が王都へ向かって旅に出たと聞き、ルナはコウが訪れる日を心待ちにする。しかし、彼女は知らなかった。コウの目的はルナとただ会うために旅だったのではなく、彼女に匹敵する力を身に付けるため、自ら危険地帯に潜り込んで強くなる「武者修行」の旅を兼ねている事を――







※これにて完結とさせていただきます。ここまでお読みいただきありがとうございました。

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