第76話 ダークエルフ

「姿を現わせ!!二発目行くぞ!?」

「ま、待て!!」

「己、下賤な人間如きが……!!」

「この声は……まさか!?」



泉の向かい側の茂みから姿を現わしたのは一人ではなく、二人の男が姿を現わす。その内の一人は少年であり、もう片方は若い男性だった。現れた男達を見てラナは驚いた表情を浮かべ、どうやら彼女の知り合いらしい。



「ラナさん、あの二人を知ってるんですか?」

「知っているも何も……あの男の子は私の義弟おとうとよ」

「えっ!?」



コウはラナの言葉を聞いて驚愕し、改めて男達の容姿を伺う。どちらも普通の人間ではなく、エルフのように細長い耳をしていた。しかし、エルフであるラナ達と違う点は彼等の場合はに黒髪だった。


ラナが告げた男の子とは少年の方で間違いないと思われるが、こちらの方が先に矢でコウを攻撃を仕掛けてきたらしく、その手には弓矢が握りしめられていた。右耳に赤色に輝く宝石のピアスを装着しており、もう一人の男はコウが投げた投石を受けたらしく、右手を抑えた状態で痛そうな表情を浮かべていた。



「どうして貴方達がここに……」

「姉上!!その男から離れてください!!そいつは盗賊です、姉上の命を狙いに来たのです!!」

「盗賊!?俺が!?」

「ぷるんっ!?」



少年の方はコウを指差して盗賊呼ばわりを行い、いきなり矢を放って人の事を殺そうとしてきた相手に盗賊扱いされた事にコウは驚く。一方でラナはコウを庇うように前に立ち、少年に弓矢を下ろす様に伝えた。



「誤解よ!!ヒヒ君、貴方は何か勘違いしているわ!!この子は盗賊じゃない、娘の恩人よ!?」

「お、恩人!?そんな馬鹿な……」

「ヒヒ様、あの者……」



ヒヒと呼ばれた少年はラナの言葉を聞いて驚いた表情を浮かべ、一方でもう一人の男はコウの顔を見て何かに気付いたのかヒヒの耳元に口を近づけて囁く。ヒヒは男の言葉を聞いて呆気に取られ、弓矢を下ろした。



「……姉上、お聞きしますがその人間は何者ですか?」

「この子は……娘達が襲われたところを助けてくれた旅人さんよ。彼は盗賊のはずがないわ、だって盗賊はもう死んだのだから」

「死んだ!?ど、どういう事ですか!?」

「ヒヒ様、落ち着いて下さい」



盗賊が死んだと聞いてヒヒは大げさに驚き、その態度を見てコウは疑問を抱く。先ほどから怪しい態度を取る二人にコウは不審に思い、ラナも唐突に現れた二人に警戒しながらも声をかける。



「とりあえず、こちらに来なさい……話しはそれからよ」

「……分かりました」

「そちらに行きましょう」



ヒヒと彼に付き従う男は移動すると、木陰に隠れていたリナとルルは心配そうに顔を覗かせる。一方でコウはスラミンを地面に下ろすと黒斧を背中に戻す。



「スラミン、二人の傍で隠れてろ」

「ぷるぷるっ……」



スラミンはコウの言う通りに木陰に隠れているリナとルルの元に向かい、その間にも泉の反対側からヒヒと男が移動してきた。ヒヒはコウを睨みつけ、一方で男の方は右腕を抑えたまま顔色が悪い。


敵を警戒してコウは手加減せずに石を投げてしまったため、どうやら男はコウの馬鹿力で投げ込まれた石を受けて骨が折れたのか顔色が悪かった。それを見たラナは仕方ない風にルルに振り返って告げた。



「ルル、この人の腕を治してあげなさい」

「え?あっ……は、はい!!」

「いや、それは……」

「姉上のお気遣いだ、断るのは失礼だろう」



ラナの言葉に男は慌てて断ろうとしたがヒヒが遮る。男は彼の言う通りに従い、負傷した箇所をルルに見せた。彼女が回復魔法で男の治療を行う間、ラナは改めてヒヒと向かい合う。



「久しぶりね、ヒヒ君……こうして顔をちゃんと合わせるのはいつぶりかしら?」

「10年ぶりです姉上……相変わらずお美しい」

「世辞は結構よ」

「いいえ、世辞などではありません。貴女は誰よりも美しい」



ヒヒはラナに大して惚れ惚れとした表情を浮かべ、コウは彼がラナの義弟と聞いていたがその割には随分と態度が馴れ馴れしい気がした。ラナはそんな彼に対して疲れた表情を浮かべながら話しかける。



「ヒヒ君、今日は何をしにここへ来たのかしら?」

「姉上をお迎えに参りました。どうか我が里へ来てください、勿論娘さんたちも一緒に……」

「またそんな事を……何度も言ったでしょう。私はこの森を離れるつもりはないと」

「いいえ、姉上のような御方がこんな森で生涯を終えるなどあってはなりません。どうかこれからは私の妻となって支えてください」

「……え、妻!?」

「ちょ、ちょっと!?どういう意味よそれ!?」

「ぷるんっ?」

「えっ……何々?どうしたの?」



二人の会話を聞いていたコウは驚愕の表情を浮かべ、一方でスラミンを頭に乗せて木陰に隠れていたリナも驚きの声を上げる。


付き添いの男の治療を行っていたルルは回復魔法に集中していたせいか聞こえていない様子だったが、他の者の慌てようから異変に気付く。

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