第74話 スラミンの不調
『ぷるぷるっ……』
「うわっ!?」
「えっ!?な、何!?」
「凄く可愛い声がしたよ!?」
「……その鞄の中ね」
唐突に聞こえてきた声にラナ達は驚き、慌ててコウは自分が持っていた鞄を隠すが既に時は遅かった。鞄の中から大きな欠伸をしながらスラミンが顔を出す。
「ぷるっくりんっ」
「ちょ、駄目だって……鞄に入ってろ」
「わあっ!!可愛い~!!」
「そ、それってスライム?初めて見たわ……」
「どうしてスライムを鞄の中に……」
スラミンは鞄から飛び出すと机の上に飛び乗り、不思議そうな表情を浮かべる。ラナとリナは驚愕するが、ルルはスラミンの可愛らしい見た目を見て興奮する。
「よしよし、君の名前は何ていうの?」
「ぷるんっ?」
「あ、えっと……その、こいつは俺の相棒で名前はスラミンというだけど」
「相棒?魔物を連れまわしているの!?」
「……驚いたわね」
ルルがスラミンの頭を撫でると嬉しそうな表情を浮かべ、一方でラナとリナはコウがスライムを連れていた事に訝し気な表情を浮かべる。基本的には魔物の中ではスライムは人畜無害な存在として有名だが、それでも魔物を連れて旅をする人間など滅多にいない。
コウはこれまで鞄の中にスラミンを隠していたのは彼が眠っていたからであり、不用意に他の人間に見られると混乱すると思って今まで黙っていた。そもそもコウが魔物が住み着いた森の中に訪れた理由の一つはスラミンのためでもあった。
「ぷるる~んっ……」
「あれ?この子、あんまり元気なさそう。病気なの?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
机の上のスラミンは最初の内はルルに擦り寄っていたが、徐々に表情に元気が失われてコウの元に擦り寄る。コウはスラミンを膝の上に乗せて事前に汲んできた竹筒を取り出す。
「ほら、これを飲め」
「ぷるぷるっ……」
「何だか本当に辛そうね……」
「病気じゃないならどうして元気がないの?」
竹筒の水をスラミンは飲むと少しは元気を取り戻したが、今度はコウの傍を離れずに彼の膝の上で瞼を閉じる。最近はずっと眠っている事が多く、その不調の原因は旅が原因だった。
「一週間ぐらい前からこんな感じになったんだよ。最初の頃は水を与えてたら元気になったんだけど、今ではこんな風にすぐに眠っちゃうんだ」
「ぷるるっ……」
「多分、環境の問題ね。この子は魔物だから本当なら
スラミンが元気を失った理由をラナは推察し、彼女は本来なら危険区域でしか生きていけない魔物が外の世界に訪れたせいで元気を失ったのだと推測する。
「スライムは基本的には水場がある場所ならどこでも生きていけるけど、正確に言えば危険区域内に存在する水場でなければ生きていけないの。だから危険区域の外に出すと生命力が弱まってやがては……」
「そんな!?」
「お母さん、スラミンちゃんを治す事できないの!?」
「お、落ち着きなさい……大丈夫よ、危険区域で湧いている水を飲ませればまた元気を取り戻せるはずよ」
「はい、だから街の人からこの森に魔物が現れるようになったという話を聞いてここへ来たんです」
ラナによればスラミンが元気を取り戻す方法は危険区域内に湧き出ている水を得る事が一番らしく、その事はコウも旅をしてきた途中で気づいていた。だからこそコウは魔物が現れるというこの森に訪れて水を汲みにきた事を話す。
「あの……ここは危険区域なんですか?」
「そうね、危険区域になってしまったと言った方が正しいかしら」
「少し前までは魔物なんか現れなかったのに……」
「もう外にも気軽に出られないよ〜」
元々はこの森に魔物は生息していなかったが、最近になってボアのような魔獣やゴブリンのような人型の魔物まで現れるようになったらしく、今日も危うくリナやルルは魔物に殺されかけるところだった。
これまで魔物が現れなかった地域が唐突に危険区域と化す現象は世界中で起こっており、ラナ達が暮らす森もその一つに過ぎない。しかも厄介な事に危険区域内ではいくら魔物を討伐しようと絶滅する事はなく、どれだけ根絶やしにしようと必ず新しい魔物が姿を現わす。
「すいません、この森の泉の水をこいつに飲ませていいですか?そうすれば元気が出ると思うので……」
「ええ、構わないわ。好きなだけ飲ませて頂戴」
「それなら私が泉まで案内してあげるよ!!」
「別にあんたが案内しなくてもコウ君なら辿り着けると思うけど……そうね、お母さんを治すために水も使い切ったし、皆で行きましょう」
「皆で?でも、魔物が現れたら……」
「大丈夫よ。私が居れば魔物に襲われる事はないわ」
危険区域と化した森で湧く水ならばスラミンが元気を取り戻す可能性があり、コウはこの森に暮らすラナ達に許可を得て先ほどの泉へ行く事に決めた。ラナ達もそれに付いていく事を決め、4人は元気がないスラミンを連れて泉へと再び戻る――
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