第54話 魔法の原理

「でも、魔法を使った時に手が燃えたような気がしたのに……」

「魔法?ああ、そういう事ですか。自分の魔法で手が燃えたと思っていたのですね。安心して下さい、自分自身の魔法で肉体が傷つく事はあり得ません」

「えっ!?そうなんですか?」



リンによると自ら作り出した魔法は肉体に影響を及ぼさず、例えばコウのように火属性の魔法の使い手が自分自身を燃やそうとしても肉体は火傷すら追わないという。



「自分の魔力で生成した魔法は自身の肉体を傷つける事はありません。そのため治癒魔導士などは自分の身体が怪我をしても自分の回復魔法で治す事はできません」

「えっ……回復魔法は自分を治す事はできないんですか?」

「その通りです。但し、精霊魔法の使い手は別です。精霊の力を含む魔法なら自身の怪我を癒す事ができます。尤もコウ様の場合は回復魔法の適性もなければ精霊魔法も扱えないので関係ない話だとは思いますが……」



治癒魔導士というのはなんなのかはコウも知らないが、名前の響きから回復系の魔法を扱える魔術師だと悟り、怪我を癒す回復魔法が扱える人間でも自分の怪我を治す事はできないと知る。但し、ハルナのように精霊魔法を扱える術者は例外らしく、彼女は自分が怪我をしても回復魔法で癒せるらしい。


リンの話を聞いていてコウは魔法といっても何でもできるわけではなく、色々な条件の元で魔法が成り立っていると知る。その一方で自分は本当に魔法の事を何も知らない事を思い知らされた。



(もっと魔法の勉強をしておけば良かった……本当に常識知らず何だな、俺って)



これまでは身体を鍛える事しかしてこなかったため、コウは自分がどれほど世間知らずなのか嫌でも思い知らされる。今回の一件で反省し、今後は身体だけではなく様々な知識を身に付ける事も必要だとコウは判断した。



「あの……さっき、魔法を使う時に魔石を使うとか言ってましたよね。魔石は何処で手に入るんですか?」

「この街なら魔道具店が一番でしょう。但し、魔法を使うために必要な魔石というならば一般用の魔石ではなく、正規品を購入するべきかと……」

「えっ!?一般用?」

「ああ、それも知らないのですか……いえ、この地方の人間はそういえば一般人用の魔道具を持ち合わせていないのが普通でしたね。失礼しました」



コウの言葉にリンは一瞬呆れた表情を浮かべるが、彼女は思い出したように説明を行う。魔道具の中には一般人でも扱える種類の道具も多々存在し、それらの魔道具を動かすためには魔石が必要だという。



「ここよりも大きな街などでは料理を行う際は加熱用の魔道具を利用します。調理のためにいちいち薪などを燃やす必要もなく、火属性の魔石を嵌め込む事で炎を生み出す魔道具を使って人々は調理をしています」

「えっ!?そんな道具があるんですか!?」

「この国では王都周辺の街では一般人でも当たり前に魔道具を使用しています。といっても良質な火属性の魔石が採れる火山が国の中心部にあるので、この街のように王都から離れ過ぎている場所では火属性の魔石の輸出も難しいので販売されていないのでしょう」



コウ達が暮らす地方は国の端に存在するため、王都から最も離れている。そのために国の中心で採掘されている火属性の魔石を送り込むのが困難らしく、だからこの地方の人間は火を取り扱う魔道具を所有していない。


まさか一般人でも扱える魔道具がある事にコウは驚き、その一方で自分が本当に何も知らないで生きてきた事を知った。エルフ族であるリンの方が人間の国に詳しい事にコウは恥ずかしく思い、これから旅をするのならばもう少し常識を身に付ける必要があった。



(これからは身体だけじゃなくて頭も鍛えないと駄目かもな……)



ため息を吐きながらコウは窓の外を眺め、今頃はネココはどうしているのか気になる。彼女が自分に迷惑を掛けないように他の街に向かった事に関しては完全には納得していないが、それでも彼女の意志を尊重してコウはネココを追いかける事は辞めた。



(今の俺はあいつを守る事ができない……もっと強くならないと)



コウは掌を開いて自分の手に刻まれた魔術痕に視線を向けた。新しく手に入れた魔法の力だが、今のコウでは完全に操る事はできない。一度使っただけで半日も眠り続けるようでは使い物にならない。



(こいつの力を完全に引き出せるようにしないと……)



拳を握りしめたコウはこれまで以上に強くなることを誓い、次にもしもネココのように困っている人間と出会えば、その時は自分の力だけで困っている人間を助けてみせると心に決めた――






――同時刻、とある廃屋にて一人の男が居た。男の傍には店から盗み出した大量の薬草が置かれており、歯を食いしばりながら粉末状にまで磨り潰した薬草を火傷した足に擦り込ませ、その上から包帯を巻く。



「ふぅっ……ふぅっ……あのガキ共、必ず殺してやる……!!」



男の名前は「オウガ」彼はコウ達を襲った盗賊であり、何時の日か必ず自分をここまで追い込んだコウとネココを殺す事を誓う――

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