第32話 勘違い
――警備兵が気絶した後、コウは他の警備兵を呼び出して今回の件を伝えようとしたが、それをネココに止められた。なんでもコウが倒した男はこの街の警備副隊長を任せられているらしく、もしも下手に警備兵を呼び出せばあらぬ疑いをかけられる事を心配する。
「だからさっきも言っただろ?この街の警備兵は碌な奴等がいないって……」
「それはまあ、分かったけどさ……」
「でも、悪い事をした人は捕まえないと駄目だよ!!大丈夫、私が何とかするから!!」
「何とかって……姉ちゃんが?」
ネココは警備兵を呼び出す事に反対したが、ハルナはこのまま放っておく事はできないと言い張り、彼女は懐から筒のような物を取り出す。
「本当はこれ、どうしても危ない時にしか使っちゃ駄目と言われたけど……」
「えっ……何それ?」
「筒か?何か変な形してるな……いや待て、これってまさか
「魔道具?」
ハルナの取り出した筒のような道具は端の方に赤色の水晶のような物が取り付けられており、彼女は水晶が取り付けられていない反対側の先端を回すと蓋が取れた。そして彼女は緊張した様子で筒を上空に向け、水晶の部分を押し込む。
「コウ君、ネココちゃん、耳を塞いでて!!」
「わわっ!?」
「いったい何を!?」
「え〜いっ!!」
水晶が筒の中にねじ込まれた瞬間、蓋を開いた口の部分が赤く光り輝き、筒の中から小さな火球が発射された。火球は上空に上昇すると花火のように舞い散り、それを見たコウとネココは驚く。
「今のはいったい……」
「なあ、もしかしなくてもそれって魔道具だろ!?もしかして連絡用の魔道具か!?」
「うん、そうだよ〜いざという時はこれを使って助けを呼ぶように言われてたんだ」
打ちあがった火球を見てコウは唖然とするが、ネココは興奮した様子でハルナの所有していた筒状の道具を覗く。二人が語る「魔道具」という単語にコウは不思議に思っていると、ここで彼は異変を感じ取る。
魔の山に毎日出向いているせいでコウはスラミンほどではないが気配に敏感であり、この場所に誰かが近付いている事に気付く。しかも凄い速さで接近しており、咄嗟にコウは空き地の出入口に振り返ると、そこには見覚えのある人物が迫っていた。
「お前かぁあああっ!!お嬢様に手を出そうとする不届き者は!!」
「えっ!?」
路地裏に現れたのは先ほど大男に絡まれていたエルフの女性であり、ハルナの傍にいたコウに目掛けて飛び掛かる。コウは慌てて後ろに下がると、彼が立っていた場所に女性の蹴りが繰り出され、軽い衝撃波が周囲に広がった。
「お嬢様、ご無事ですか!?」
「う、うん……平気だよ?」
「な、何だこの姉ちゃん……」
「あの……」
「近づくな!!この下衆がっ!!」
コウは女性に話しかけようとすると彼女は目つきを鋭くさせ、纏っていたフードを脱ぎ捨てた。フードの下から現れたのはメイド服を着こんだ女性であり、彼女はハルナの前に立つとコウに怒鳴りつける。
「お嬢様、御下がりください!!やはり人間の男など獣ばかりです!!すぐに里に戻りましょう!!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!!コウ君は悪い人じゃ……」
「ご安心ください!!お嬢様は何があろうと私がお守りします!!」
「話聞けよ!?」
ハルナが説明する前に女性はコウに対して構えを取り、先ほど大男を殴り飛ばした時、そして今さっきの蹴りを思い出したコウは慌てる。
(この人、風の魔法を使えるんだ!!)
男を殴り飛ばした時、警備兵から逃げる時、蹴りを仕掛けた時、彼女の身体には風を纏っていた。より正確に言えば竜巻という表現が正しく、風の魔法の使い手は竜巻を纏って攻撃に利用できるのかとコウは警戒した。
女性はコウに対して拳を握りしめ、男を吹き飛ばした時のように右腕に竜巻を纏う。それを見たコウは焦りを抱き、戦うしかないのかと思った時にハルナが女性に飛びつく。
「だ、駄目ぇっ!!」
「げふぅっ!?」
「ちょっ!?」
「うわっ!?」
ハルナに飛びつかれた女性は地面に倒れ込み、この際に右腕に纏っていた竜巻は掻き消える。ハルナは女性の腰にしがみついて必死に誤解を解こうとした。
「リンちゃん!!私の話を聞いてよ!!そこにいるコウ君が私の事を助けてくれたんだよ!?」
「お、お嬢様……苦しいです、離してください!?あいたたたたっ!?」
「うわっ……い、意外と怪力だな姉ちゃん」
「はあっ……何なんだこの人」
女性を抱きしめた状態でハルナは立ち上がり、自分よりも身長が高い女性を抱きしめながら持ち上げる。意外と力があるらしく、ハルナに抱きしめられた女性は苦し気な表情を浮かべて自分を話すように懇願した――
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