第28話 指弾

「ひっ!?」

「な、何だっ……か、身体が震える!?」

「おい、そんなガキに何をびびってんだ!?」



コウが睨みつけただけで盗賊二人は身体が震え、本能が逃げるように促す。しかし、それを見ていた兄貴分の男が怒鳴りつけると、仕方なく盗賊二人は武器を取り出す。


背の小さい男は短剣を取り出し、太っている男は手斧を取り出す。それを見たコウは拳を鳴らし、生憎と今日の彼は武器を持ち込んではいない。しかし、その代わりに彼は小袋から2枚の銅貨を取り出す。



「お前等なんかこれだけで十分だ」

「な、何だと!?」

「今更お金を出したって許さないんだぞ!?」



銅貨を指に挟んで見せつけるコウに盗賊達は怒鳴りつけるが、そんな彼等にコウは笑みを浮かべ、この一年半の間に覚えた新しい技術を試す。投石よりも手軽に繰り出せる攻撃法をコウは編み出していた。



「ふんっ!!」

「あだぁっ!?」

「ぎゃんっ!?」

「お、お前等!?おい、どうしたんだ!?」



コウが親指で銅貨を弾いた瞬間、まるで弾丸の如く繰り出された銅貨が盗賊達の眉間に衝突し、二人とも白目を剥いて倒れた。頭部に強い衝撃を受けた盗賊達は脳震盪を起して意識を失い、しばらくは目を覚ましそうにない。




――この一年半の間、コウは投石の代わりとなる遠距離からの攻撃方法を考えた。彼の投石の技術は素晴らしく、相手が予想外の行動を取らない限りは百発百中だった。しかも以前よりも筋力を身に付けたので彼が本気で石を投げればゴブリン程度の魔物は倒す事もできる。


しかし、投石の場合は手ごろな石を事前に用意しておかなければならず、他にも相手に目掛けて投げつける動作を行わなければならない。最小限の動作で遠くにいる相手を攻撃する方法を考えた結果、コウは親指で小石や硬貨を弾いて攻撃する方法を思いつく。



『おい、コウ!!悪いが酒を買ってきてくれ!!』

『いいけど、お金は?』 

『ほらよ』



ある時にコウはアルに買い物を頼まれた時、アルは懐から銅貨を取り出してそれを親指で弾いてコウに投げ渡した。この時にコウはアルが親指で硬貨を弾く行為を見た時、新しい攻撃法を思いついた。



『爺ちゃん、それだよ!!ありがとう!!』

『はっ!?お、おい!?何処へ行く気だ!!』



コウは買い物に行くのも忘れて駆け出し、アルから受け取った銅貨を利用して親指で弾く練習を行う。最初の内は狙い通りに的に当てる事もできなかったが、毎日練習を繰り返していくうちに彼は命中率を上げていく。


親指で銅貨を弾く事からコウは「指弾」と名付け、この指弾の技術で彼は手元に硬貨がある時は即座に攻撃を繰り出せるようになった。投石と違って必要な動作は掌の中に硬貨を掴み、それを親指で弾くだけなので即座に攻撃に移れる。相手の不意も付けるので正に今のコウにとっては最高の攻撃手段だった。



「こ、このガキ!!何をしやがった!?」

「その娘を離せ、そうしたら警備兵に突き出すのは勘弁するよ」

「ち、畜生!!調子に乗るなよ……こいつがどうなってもいいのか!?」

「わあっ!?」



追い詰められた盗賊はフードの少女を人質に取ると、それを見たコウはため息を吐きながら指弾で仕留めようとした。しかし、盗賊が何かする前に何者かが背後から現れ、盗賊の頭に蹴りを喰らわせる。



「おりゃあっ!!」

「ぐへぇっ!?」

「わわっ!?」

「お前は……さっきの!?」



盗賊に蹴りを喰らわせたのは先ほどコウから財布を盗んだ猫耳の少女であり、彼女は盗賊を蹴り飛ばすと笑みを浮かべる。一方で盗賊から解放されたフードの少女は驚いた様子で倒れた盗賊と少女を見渡し、コウは手助けしてくれた猫耳の少女に戸惑う。



「お前、どうして……」

「へへっ、少し前から屋根の上で観察してたんだよ。話を聞いてたんだけど、そこの姉ちゃんは貴族なんだろ?だから助けたら礼を貰えるかと思って機会を伺ってたんだ。まあ、兄ちゃんもここにいるとは思わなかったけどな」

「貴族?」

「え、えっと……」



コウは先ほども盗賊がフードの少女を捕まえた時に「貴族」という単語を使っていた事を思い出し、彼女に顔を向けるとここで少女はやっとフードから顔を出す。



「た、助けてくれてありがとう!!私、怖くて動けなくて……」

「君は……貴族なの?」



フードから顔を出した少女を見てコウは驚き、最初の盗賊達の会話から予想はしていたが想像以上の美少女だった。


コウ達が助けたフードの少女の外見は銀髪の髪の毛を越本まで伸ばし、人形のように整った顔立ちに藍色の瞳をしていた。しかし、なによりも目に行くのが大きな胸だった。コウの幼馴染のルナも年齢の割には大きい方だが、こちらの少女は彼女よりも更に一回りは大きく、今まではフードで隠れていたので分からなかったが相当な大きさだった。




※その頃のルナ


ルナ「……なんかイラっとする」←幼馴染に良からぬ女性が近付いている事を察知する。

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