第四十話 使用人?とおつかい結果
男の子と、目が合った。
背丈は私より少し高いくらい、整った柔らかな茶色の髪に凛々しい顔立ちは少し大人びた気配を感じさせる。けれど驚きで大きく開いた目をぱちくりとさせる目の前の姿は私と同じくらいの年の雰囲気を感じさせた。
この表情からわかるように私が玄関から現れたのは向こうも想定外だったらしく、お互い見つめ合ったままの静寂の時間が流れる。
「二人とも何ずっと見つめ合ってるの?お互いに一目惚れでもしたのかしら?」
静寂を破るよう投げかけられた言葉により再びびっくりとした私はやっと目の前から視線を外し後ろを見返す。
そこには本当に神出鬼没な屋敷主の姿があった。
「いつまに後ろにいたんですかアピロさん!?」
「私の住んでいる場所なんだからどこにいたって不思議ではないでしょう?」
「いやまあ言ってる事自体は正しいんですけど、いる場所とかタイミングとかが……」
「まあそんな話はいいわ。それよりも……」
アピロさんは話を無理やり切ると目線を私の目の前にいる男の子へと移す。
「おかえりなさいトラファム、長旅ご苦労様」
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時は少し経ち、現在再び私の今後について話し合いをした応接間の椅子に腰を掛けている。隣の席には今朝と同じようにキャトが座っており、向かい側にはアピロさん、そして……。
「トラファムっていいます、以後よろしくお願い致します」
「えっと、エーナ・ラヴァトーラって言います」
「私はキャトルズ・バーウィッチっす」
と先ほど玄関先でばったり出くわした人物と軽い自己紹介と挨拶をしていた。
「ここに着いたときに軽く話したと思うけど、この屋敷に住んでるもう一人っていうのがこの子よ。よろしくしてあげてね」
「そうだったんだ。さっき玄関先でばったり出くわしちゃったからびっくりしちゃった、なんかごめんなさい」
「いえ、僕の方こそ挨拶でもできずに固まってしまって申し訳ございません」
外に出て空気を吸おうというだけの考えが頭にある状態で突然見知らぬ人と鉢合わせてしまったので先ほどが自体を処理しきれず固まってしまった。
これがキャトやアピロさんなら大丈夫だったと思うが。
「ちなみにつかぬことをお伺いしたいんですか、トラファムさんとアピロさんってどういう関係なんすか?」
「この子と私の関係は……」
「アピロさんが主で僕が使用人、そういう関係です」
アピロさんが答えようとするの遮るかのような強い声で、隣に座っていた彼はそう言い放った。その勢いに一瞬場が静まり帰ったが、コホンとわざとらしい咳払いをアピロさんはすると
「まあ、一旦今はそういう事にしときましょうか。とりあえず三人とも仲良くして頂戴」
「は、はい、わかりました。えっとよろしくねトラファムさん」
「トラファムでいいですよ。二人共よろしくお願いします」
お互いに再度お辞儀をしてよろしくと伝える。
アピロさんの『一旦今』はという言葉を聞くにおそらく関係性とては使用人というよりは何か別であろうことは私にも隣にいるキャトにも予測はできた。
ただ、今この場でこれに対して触れるべきでもないという事も理解できたため『一旦今』はその事について言及する事はやめる事にする。
「そういえば、トラファムさ……じゃなくてトラファムはどこか用事に行ってたみたいっすけどどこに行ってたんすか?」
キャトが空気を変えるためか別の話題を振る。
「アピロさんに頼まれた材料の調達に行っていました」
「材料?」
「私から説明するわ」
そういってアピロさんが会話に割って入ってくる。
「少し前から試してみたい作りたいモノがあってね、その材料の買い出しと調達にいってもらっていたの」
「何を作る予定なんですか?」
「まあ私好みのおもちゃかしらね。口で説明すると長くなってしまうから完成したらそのうちみせてあげるわ。ただ、ちょっと材料が値が張る物が多かったまず希少品だったりで簡単に集まりそうになかったからトラファムにはそれを持っていそうな知り合いの所なんかに足を運んでもらっていたわけ」
「はい、アピロさんのお知り合いの商人や魔法使いの方々の所にお邪魔して材料を分けてもらえないかお願いして回っていました。そしてこちらが調達したものです」
ドサッという音と共にというように調達した材料の入ったいくつかの袋を机の上に置かれる。
「ごくろうさま。それでお願いしたものは全部集まったの?」
「それが、やはりアピロさんがダメ元で探してこいとお願いされていた一つだけは物自体誰も手元にないとの事で手に入りませんでした。
一応尋ねた面々からは『そんな物あったとしても他人に譲るわけがないだろ!!』と伝言を受けた回っております」
「まあそうよね、一応何かの拍子で手に入れたりしている奴がいないかと思ったんだけど雰囲気的に隠してそうな感じはなかったのよね?」
「はい、例の道具も反応してなかったので嘘いっていなかったとおもいます」
何か怪しい会話を繰り広げている二人。
他人に譲れるわけがないとか例の道具とか。
というかそんな事を言われるような物ってなんなのだろう。
「あの、ちなみに何を探すようにトラファムにお願いしたんですか?」
「『世界の涙』よ」
「なんですかそ……」
「世界の涙だああ!?なんてもの探させてるんすか!!!」
私が疑問を口にする前にキャトの方が大声をあげていた。
「ちょ、ちょっとキャト声大きい!」
「あ、いやすいませんっす。いやでも何を探させてるんすか本当に!」
「ほらまあ探すだけだならタダじゃない?そう目くじら立てなくても」
「いや、タダとかそういう問題じゃなくてっすね」
「あのーごめんなさい、話についていけてないんですけどそれって何なんですか?」
ヒートアップしているキャトを横目に恐る恐る追加の質問を投げかけてみる。
「世界の涙っていうのは簡単に言えば凄く希少な宝石ね。
エーナ、タリアヴィルに来た時の使った道の事を覚えている?」
「はい。えっと確か断片世界、でしたっけ?」
断片世界。確か世界の裏側、私達の世界できる前の世界…そんな事を話ていたような気がする。
「そう。前も話したけど断片世界は今私達が生きるこの世界とは別の、おそらくは前の世界と言われているの。基本的にはあの世界にある物は朽ちて使い物にならないものが多いんだけど時々未だに効力のある魔法の道具とかこの世界にはない材質の金属物が見つかったりするの。世界の涙もそんな断片世界で稀に発見される物のひとつね」
なるほど、あの世界でしか見つからない宝石だから希少なのか。
あんな謎の化け物が存在する場所でしか見つらない時点で手に入れるのは非常にむつかしいだろうし希少というのもうなずける。
けれど、なんでキャトはあんな大声あげてたんだろう。
「そんだけじゃないっすよその宝石は」
と、そんな事を思っている私の考えを察してかキャトが声をかけてくれた。
「いいっすか、『世界の涙』は希少なのもあるっすけどそれとは別の理由で特別な理由なく所持や取引をするのは魔法協会からのルールで禁止されている物なんすよ」
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