エピローグ 世は事も無し
第76話 封印された事件
「開いてるぜ!」
めんどくさそうに叫ぶ嵯峨の言葉を聞くと扉が開いた。そこには噂のアメリアの他にかなめとカウラ、そして誠が神妙な表情で立っていた。
「遠くにいても始まらねえよ!こっち来い!」
入り口で黙って歩哨の真似事をしている技術部員を白い目で見ながら誠達は部屋に通された。
「お疲れ様だね。例の犯人の身柄の確保。結果オーライと言うところか?」
嵯峨はそう言ってにんまりと笑った。
「はあ、申し訳ありません」
片腕を落とされ腹に七発の銃弾を受けて義体を駄目にしたかなめが渋々頭を下げた。
「それにしてもアメリアまだまだだな」
椅子に座った嵯峨の見上げる挑戦的な視線にアメリアは余裕の笑みを浮かべる。
「どうもすみません」
「分かってるならいいオマエさんのやる気が重要だ。行けるか?」
嵯峨の言葉に部屋の中の人々の視線がアメリアに集中する。アメリアは照れたように自分の頬を右手でつつきながら嵯峨を見つめていた。
「できる限りがんばります」
「まあいい返事だ。できないことはやっぱりできないからな」
アメリアの答えに満足したように嵯峨が笑う。
「それでさ……今回の件は無かったことになったから」
「無かったこと?」
嵯峨の思いもかけない言葉にカウラが凍り付いた。
「そう……今回の事件……報道されてないじゃん……上の連中は他者の能力を自在に扱える法術師の存在は隠しときたいらしいんだ」
「隠すだ?何のために!」
そう言うとかなめは机をたたいた。机に積もっていた埃が舞い、誠は思わずむせかえった。
「そう言うなよ……他者の能力を自在に操れる法術師の存在は俺も知らなかったんだ……不死人以上にレアなスキルだ……それに外交が絡んでくるとなると……」
「圧力がかかったんですか?」
とぼけた調子の嵯峨にアメリアがいつもには無いまじめな表情でそう尋ねた。
「そう言うこと。なんでもアメリカさんが水島の旦那を自分の保護対象者だって同盟に言ってきたらしいんだわ。それで秘密裏に奴は地球に出国済み……骨折り損のくたびれもうけだ」
嵯峨は力なく笑う。誠はあまりの結末に絶句した。
「東都警察は何も言ってないんですか?あそこは自分の手柄にしたくてうずうずしているはずなんですが……」
カウラも納得がいかないというようにそう抗議する。
「お前等の御守の杉田とか言う刑事がいたろ?奴は外事課の出でね。そう言う所にも明るかったんでね。それに豊川署の署長も将来を嘱望されているキャリアさんだ。その点は空気を呼んだんだろ?」
苦々しげな笑みを浮かべて嵯峨は扇で埃を避ける。
「これが結末か……これで納得しろって訳だな」
かなめはそう言うと嵯峨に背を向けた。
「西園寺、怒らないのか?」
尋ねるカウラにかなめは軽く手を振る。
「こんなこと軍の工作員時代はよくあった話だ……今回は何も起きなかった……世の中は平和だった……そう思えって話だろ?」
「そう言うこと」
出ていくかなめを見送りながら嵯峨はそう言って視線を誠に向ける。
「神前。これが世の中なんだ……悲しいけど仕方ないよね」
嵯峨の言葉に誠は息をのんだ。
「まあ仕方ないじゃないの。誠ちゃん、今日は月島屋で飲みましょ。おごるわよ」
そう言ってアメリアは誠の肩を叩く。
「そんなもんですか……」
誠もカウラもただ納得できないというようにその場に立ち尽くした。
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