神邪血染
美空の別荘に行くのは残念ながら日帰りだ。
一応泊まる可能性も考えて掃除はしてくれていたようだが、流石にみんな疲れていたのもあるし何より着替えがなかった。
『またお誘いしますから。是非遊びましょう♪』
そんな言葉を最後に彼女たちを別れた。
それから家に帰ったのがちょうど夕方、遊び疲れたのかウトウトとした様子の真白とお風呂に入った後、すぐに夕飯を済ませると彼女は眠ってしまった。
「ほんと、こうしてみると小さな子供みたい」
「見た目は血染と変わらないのにな」
だからこその幼さが愛おしさを増しているような気もする。
そもそも、大人顔負けのスタイルを持った女の子だけど考え方は幼く、それこそ仕草に関しては時折中学生になりたての子すら思わせる。
大きな体に幼い精神……この設定、エッチな漫画でどこかにありそうな気がする。
「それにしても冷房が効いてるはずなのにあっついね。流石夏って感じだよ」
「だな。まあでも、こういう時に文明の利器には頭が上がらんよ」
「ねぇ♪」
血染は立ち上がって冷凍庫に向かった。
どうやらアイスを食べたくなったようだが、そこで彼女はがっかりしたような大きな声を上げた。
「あ~! もうアイスがないよぉ……」
そりゃまあほぼ毎日血染と真白が美味しそうに食べてたからなぁ、あれだけバクバクと食べてたらすぐになくなってしまう。
「どうする? 今からコンビニでも行くか?」
「そうだねぇ。買いにいこっか」
というわけで俺たちは家を出た。
真白は眠りながら血染の影に入ったの一緒に連れて行くことになり、これで目を覚ました時にどうしていないのかと不安がらせることもない。
「こんなに暗いのに風が温いなんて不思議な気分」
「もしかしたらまた帰ってきたらシャワーを浴びないとかもな」
「一緒に入る?」
「そうするか」
「うん♪」
夏場の夜に吹く温い風、しかしやはり温いだけで暑さはそこまでだ。
血染はチラチラと俺の腕を見つめてきており、俺は苦笑しながら良いぞと言って腕を組めるようにした。
「……えへへ♪」
「ちょっと暑いか」
「そうだねぇ」
「離れる気はないもんな」
「ないよぉ。兄さんだって離れてほしくないでしょ?」
「ないですねぇ」
「ですよねぇ」
似た者同士だなと俺たちは笑いながらコンビニに向かうのだった。
家から歩いて行ける距離にコンビニがあるというのは本当に便利なモノで、そこまで頻繁に利用するわけではないが助かることも多い。
「わわっ、結構居るんだね」
「車もあるな」
車も結構停まってるし自転車もそこそこあった。
更に夜のコンビニのお供と言うべきか、店の前で屯する若い男女の姿もあり、酒をぐびぐびと飲んでいてこう言ってはなんだがあまり関わりたくはない。
「お、めっちゃ可愛い子いんじゃん!」
「え? マジじゃんモデル?」
そこいらのモデルより可愛いだろうがこんちくしょうが。
やはりというべきか、その大学生くらいの男女は揃いも揃って血染が腕を組んでいる俺を見て馬鹿にするような視線を浮かべてくるのだが、敢えて言ってやろう俺の方が勝ち組で幸せだってな!!
「そうだね。ああいうのは見せ付けやれば良いんだよ♪」
「心を読みやがって愛してるぞ血染」
「あたしも~♪」
思いっきりイチャイチャしながらコンビニの中に入り、買い物かごを持って俺たちはすぐにアイス売り場に向かった。
そんなに買うのといった具合にアイスをかごに入れてレジに向かうと、バイトの兄ちゃんが血染の胸元に目を向けた。
(自分ではバレないと思っていても、やっぱりこういうのって客観的に見たら分かっちまうんだな)
隣の血染もそれは気付いていたようだが、特にリアクションはしなかった。
それどころか、あくまで堂々と俺の隣に立って手を繋いでいる。
「ありがとうございました~」
「どうも~」
俺よりは血染と真白がアイスを食べるものの、結構な量を買ってから俺たちは来たばかりの道を歩く。
しかし、先ほどの大学生とも思わしき男子が近づいてきた。
「ちょっと待ってくれよ――」
「待たねえよ」
「っ!?」
ギロリと最大限に威圧感を纏わせて睨みつけた。
俺の睨みがどれだけの力を持っているのかは分からないが、それでも隣に居る血染のことを思えば俺は強くなれる。
その証拠に相手の男は少し怯んだような表情になり、俺はそのまま血染に腕を抱かれながら歩いて行く。
「このクソガキが!」
アンタも俺とそこまで変わらんだろうが、そう思って振り向こうとしたが不思議と俺は前に向いて歩き続けた。
後ろからひっと小さな悲鳴が聞こえ、俺は隣を見て何が起きたのかを察した。
「ほっとこうよ。兄さんがあんな奴と話す時間は勿体ない。そんなことするくらいならあたしを見てて」
「……ったく、俺だってかっこいい所を見せたいんだが」
「兄さんはいつだってかっこいいよ。だからこういうのは適材適所ってね♪」
血染はペロッと舌を出して笑い、俺はそんな彼女を見て色んな意味で頼りになり過ぎる妹だと苦笑した。
血染が今力を使ったということは真白も目を覚ました証でもあり、血染は俺と腕を組んだままだが真白は俺が持っていた買い物袋を大事そうに抱えている。
「アイス♪ アイス♪」
「完全にアイスの守護者だな」
「ねぇ。早く帰って食べたいね真白?」
「うん!」
しっかし、こうして彼女たちを見てて思うことがある。
アイスだけでなくお菓子も大好きな二人だが、本当に甘いものばかり食べても太ったりしないのだ。
血染はお腹を気にしたことは一度もなく、彼女の裸は幾度となく見る機会がありその体型は全然変わっていない。
「二人って全然太ったりしないよな」
「そうだね。真白は変わらないけど、あたしもそれはちょっと不思議かも。強いて言えば栄養は全部胸に行く感じだし」
「確かに。それに虫歯とかもならないもんな」
「それは簡単。体に纏わりつく菌は全部力で殺せるから」
「何それ万能過ぎねえか?」
「兄さんだって虫歯とかにはならないよ? だってあたしたちの血がその体には流れているから」
「……え?」
つい俺は既に傷の残らない脇腹に手を当てた。
どうやら俺も血染たちと同じようにある程度の力が循環しており、その影響で虫歯などといった小さな病気にならないのだとか。
「確かに全然不調な時がそんなにないもんな。それが原因なのか」
「そうそう♪ だから小さな病気に関しては気にしないで大丈夫!」
それは……凄いなとしか言えなかった。
ただ俺の場合は抵抗力が落ちれば普通に風邪くらいはなるらしく、その点は血染とは違うらしい。
そんなやり取りをしながら俺たちは家に帰り、三人でアイスを美味しくいただいてから寝室に向かった。
▽▼
それから数日が経過し、ついにその時がやってきた。
俺は血染に付いていくだけだったが、バスに乗って向かった先は高級住宅街の一角で、一際開けた場所にその建物は存在していた。
「……でっけぇ」
「久しぶりだなぁ。まさかここにまた来るとは思わなかったよ」
ゲームでも語られていない血染の実家はやはり豪華だった。
確かにあれだけのお金を持っているのなら予想出来たことだけど、テレビで見るような大豪邸に俺は腰を抜かしそうだ。
「つうか連絡とかしてないもんな?」
「そうだよ。だってあたし、母さんの連絡先とか知らないし? 何よりもうこの家の人間じゃないにしても、元々娘だから良いでしょってね」
「……そうか」
なら良いかと、俺は現実を見ることにした。
インターホンを鳴らすと中から女性の声が聞こえ、それに血染はこう答える。
「久しぶりだね立花さん。血染が来たって母さんに伝えてくれる?」
『お、お嬢様!?』
それからバタバタと騒がしい音が聞こえ、しばらくすると一人の女性が慌てた様子で走ってきた。
「あれがさっきの立花さん?」
「そう。どうやら入って良いみたい」
門が開き、血染に手を引かれて中に入った。
(
今初めて知った血染の元々の名字である神邪、つまり血染の本名は神邪血染ということになる。
あまりにも不思議な力を持つ彼女らしい名字に俺は驚きつつも、俺は二度目となる血染の母親との対面に深呼吸をして気分を落ち着かせる。
「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。あたしと真白が傍に居るから」
「うん! 何があっても大丈夫」
「……ははっ、そっか」
よし、それじゃあ行くとするか。
あの人との対面の時間だ。
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