名とは体を表す。つまり最も大切なモノ

 朝、目を覚ました時に密かな楽しみが俺にはあった。

 既に暑い時期は終わり、段々と涼しくなっていき、そして冬が近くなるので寒くなっていく……そんな日々の朝の目覚めが俺は楽しみなのだ。


(……今日もまた、この子を抱きしめて目を開けたんだよな)


 血染と付き合うようになってから、基本的に俺たちは三人揃って用意した寝室の新しいベッドで寝ている。

 流石にまだエッチなことはしていないのだが、それでももう別々に寝るのは考えられないくらいには毎日寄り添って眠っていた。


「すぅ……すぅ……」


 目の前で安らかな寝顔を血染は俺に見せている。


「……本当に可愛いな天使だろマジで。こんな子を彼女に出来た俺ってこの世界で一番の幸せ者じゃないか」


 呟いて本当にその通りだなと俺は頷く。

 何度だって言えることだけど血染は可愛いだけではなく美人で、おまけにスタイルも良くて……血染は外面だけでなく内面も優れているのはもちろんだが、こうして彼女と付き合えるようになった今でも、俺は彼女の外見に見惚れることは多い。


「あの子は……血染の影の中かな」


 黒血染の姿が見えないのでおそらくは血染の影の中で眠っているんだろう。

 あの子は最近言葉の発声を覚えてきて限りなく俺のことを感動させ、俺の中にある涙を枯らせようとしてくるのも最高に可愛くて仕方ない。


「……俺、どんだけ血染たちのことが好きなんだよ」


 この気持ち、正しく愛なのだが……愛だな。


「兄さん……好きぃ」

「……俺もだよ血染」


 血染の寝言に答えると、彼女はまるで起きているかのように頬を緩めた。

 まさか起きているのかと俺は怪しんだが、どうも本当に血染は眠っているようで規則正しい寝息が聞こえている。


「……よしっ」


 血染、ちょっとだけ変態な兄貴を許してくれ。

 俺は意を決するように目を閉じ、あたかも寝ぼけているのを装うように彼女に胸元の近くに顔を置いた。


(……くぅ! 目の前に谷間があるぜ!)


 瞼を少しだけ持ち上げた先にあるのは大いなる桃源郷だ。

 前でボタンを留めるタイプのパジャマを着ている血染なのだが、何故かいつも朝になると胸元のボタンが上から二つほど外れており、いつもこうして彼女の巨乳によって作り出される谷間が俺におはようを告げてくるのである。


(いやいや、確かにキモいとは思うんだけどさ。もう俺と血染は恋人同士だしこれくらいはありだろ全然)


 そう思いながら俺はこの光景を脳に刻みつける。

 そんな風に思っていると、何故か俺は動いていないはずなのにおっぱいが俺に向かって近づいてきた。

 むにゅっと効果音が聞こえそうなほどに、その谷間に俺の顔が包み込まれる。


「兄さん……えへへ……あったかぁ」

「……っ!!」


 そのまま頭も抱かれるように腕が回ってしまい、俺は逃げるつもりはないが逃げられない構図になってしまった。

 結局、しばらく血染に抱きしめられたままの状態が続き、それは彼女が目を覚ますまで続くのだった。


「……これが朝の目覚めなんだよな俺の。まあ今日のはサービスタイムだったけど」

「どうしたの?」

「いやいや、何でもないよ」

「ふ~ん? てっきり、あたしのおっぱいのことを思い出してるのかと思ったよ」

「ぶふっ!?」


 飲んでいたオレンジジュースを思いっきり吐き出しそうになった。

 幸いにもぶちまけることはなかったのだが、ニヤニヤと血染が俺を見つめてくるので凄まじいほどの恥ずかしさだ。


「兄さんさぁ、別に遠慮とかしなくて良いんだよ?」

「え?」

「あたしたちはもう恋人同士なんだし、別に触りたかったら触っても良いのに」


 そう言って血染は制服に包まれた大きな二つの果実を前面に押し出す。

 制服の上からでも十分に分かるほどの大きな膨らみ、一体どれだけ柔らかいのだと想像が働くが、既に俺は血染から良く抱き着かれるのでその柔らかさは知っていた。


「ほらほら~♪」


 ゆらゆらと体を揺らすことで、目の前で血染の胸がダンスを踊っている。

 この兄にしてこの妹ありと言われたらそれまでなのだが、こういう風に揶揄ってくる彼女もまた愛おしく思えるあたり本当に俺は血染のことが好きでたまらないということだろうか。


「おにい……さま……おむね……すきなの?」


 なんてやり取りをしていたせいで黒血染まで俺の隣に来たではないか。

 血染に張り合うわけでもなく、ただただ純粋に俺に胸を触らせようとして来る彼女を見ると、流石に俺と血染は冷静になる。


「よし、早く食べちまうぞ」

「そうだね。ほら、あなたもちゃんと食べるんだよ?」

「??」


 首を傾げている黒血染だが、椅子に座り直してパンを食べ始めた。

 彼女は意図しなければ俺と血染にしか存在を把握されず、更に言えば俺たちにしか心を許していないも同然だけど、血染が言っていたように色々と教えて行かないとダメだなこれは。


「……………」


 俺は美味しそうにパンを食べる黒血染を見つめながら少しばかりあることを考えたが、それを血染に相談することはなかった。


「それじゃあ兄さん、行ってらっしゃい」

「二人もな」

「おにい……さま……がんば……って」


 うん、お兄ちゃん頑張るぞ!!

 二人に見送られて俺は学校に向かい、そのまま考え事をしながら教室に向かっていたのだが、そこで俺はドンと誰かにぶつかった。


「おっと、大丈夫――」

「考え事をしながら歩くのはダメですわよ?」


 目の前に居たのは進藤だった。

 以前に比べて軽めの当たりではあったものの、また彼女にぶつかったのかと俺は妙に縁が多いなと苦笑した。


「実は考え事をしながら歩いているのが分かったのです。それでこうして正面から待っていたらドンと、そういうことです♪」

「危ないからやめようぜ。まんまとぶつかった俺が言えることじゃないけどさ」

「ふふっ、このようなことは他の方にはしませんよ。六道さんとお話をすることが増えたからこそですわ」

「そんなもんか」

「そんなものです」


 確かに彼女が言うように、学校で俺は美空と話をすることが増えた。

 ただ……彼女は俺と血染のことを詳しく聞いてくるのだけど、それを聞いて変に興奮したりしているのでちょっと俺の中の美空像が音を立てて崩れている。


「そういえば最近全然あいつが絡んでこなくなったみたいだな?」

「……あ~、そんな人も居ましたね」


 悲報、壮馬君存在を忘れられてしまう。

 ……とまあそれは良いとして、最近のことなんだが以前のように壮馬は美空に絡まなくなったらしい。

 人が変わったようとまではいかないのだが、視線は良く向けてくるものの近づいてくることはなくなったようだ。


『あぁそうだ兄さん。例の主人公君に街中で出会ってさ、結構ボロクソ言っちゃったけど別に良かったよね?』


 なんてやり取りがあったのも記憶に新しく、もしかしたら血染が何か心に刺さるようなキツイことを言ったんだろうか……まあそれを聞いてざまあと思うあたり俺もクソガキだし心が狭いかなと思うが。


「ところで六道さん、随分と考え込んでいましたけど……」

「あ~……これに関しては俺の問題だからな。すまん進藤」

「いえいえ、何もないなら良いのです。それでは六道さん、また妹さんとのお話を聞かせてくださいね?」

「おう」


 本当に美空も随分と変わったよなぁ……。

 美空の背中を見送った俺は席に着き、鞄を置いて息を吐く。


「……さてと、どうするかな」


 俺の悩み……悩みというほどではないが、どうかしたいと考えているからこそでもあった。


(あの子が……黒血染が頑張って言葉を使って俺を喜ばせてくれている。そんなあの子を見ていると、いい加減に彼女を表す証があればと思うようになったんだ)


 血染に相談しても良いんだが、そうなると黒血染にも筒抜けになるのでちょっとサプライズに欠けてしまう。


「……さ~てと、どうすっかなぁ」


 俺の悩みとはつまり、黒血染にどんな名前が似合うかというものだった。

 あの子の証、あの子だけの名前を俺は付けてあげたいとそう考えたわけだ。

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