歪同士の出会い、しかして怒りを孕む
「あっついねぇ」
「暑いなぁ」
夏休みも終わりが近づいてきた。
ここに来るまでの盆休みがあったのだが、俺と血染には家族はおろか親戚の存在も不明なので全く無意味なものだ。
探せば親戚くらい居るのかもしれないけれど、もうずっと俺はクソ親父しか家族は知らなかったので今更どうでも良いことだ。
「ねえ兄さん、今日のあたしはどうかな?」
俺の前で白いワンピースを着た血染がクルっと回った。
最近の血染は基本的に肩だしの服であったりと、僅かに谷間が見えてしまうようなセクシーな服が多いのだが、今日の血染は大人しめのワンピースである。
何を着ても血染には似合う、そう言ってしまえばあまりにも捻りの無い感想だけどマジでそれくらいしか言葉が見つからない。
「最高に似合ってる。可愛すぎて抱きしめたいくらいだ」
すまん、抱きしめたいは本心だがちょっとキモかったかもしれん。
「良いよ。でも帰ってきてからね? 外だとあまりに暑いから汗で大変なことになっちゃうよ」
これはたぶん、俺が忘れていても血染の方から帰ってから言ってくるんだろうなと少し微笑ましくなってくる。
とはいえ暑いは確かなので、とっとと用事を済ませてしまおう。
「それじゃあ行くぜ血染」
「は~い!」
さて、俺たちが今からどこに行くのか……それはとある家具を見に行くためだ。
街の中で品揃え豊富で有名な店に向かい、しっかりと冷房の利いている店内に入ったことで血染が腕を組んできた。
最近気づいたことなのだが、俺はこうやって彼女と腕を組むのが好きらしい。
「どうしたの?」
「え……あ~その」
「言ってみて? 兄さんの思ったこと、聞いてみたい♪」
「……………」
これは言わないといけない雰囲気のようだ。
「こうやって血染と腕を組むのがさ」
「うん」
「好き……なんだ」
「えへへ、そうなんだぁ。あたしも教えてあげる! あたしも好きだよ♪」
そう言って更に血染は強く腕を抱いた。
やっぱり好きな女の子に腕を抱いてもらっているということはつまり、密着出来ている嬉しさと温もりを感じられる幸福がある……そして一番これが大きいのだが、本当に血染の胸の感触が恐ろしく気持ちが良い。
(くぅ! 流石公式設定95のバストだぜ……大きさだけでなく、柔らかさも最高とか……もう最高じゃねえか)
エロは語彙力を奪い、エロはそれだけしか考えさせなくなり、エロは更に血染に夢中にさせてくる……ったく、この巨乳って概念は恐ろしいぜ。
「兄さんなんかニヤニヤしてるぅ」
「……おっと」
「えへへ、これは何かやらしいことを考えてましたなぁ?」
にんまりと見つめてくる血染の表情が可愛すぎる!
何度も言っているが俺は前世から血染のことが大好きで、実際に彼女に出会って義理とはいえ兄になってからその気持ちは更に大きくなった。
友人たちにシスコンの化身と言われるほどだけど、マジでこんな子が傍に居たらシスコンになるに決まってんだろ。
「俺さ……」
「何?」
「最近、血染が本当に十五歳なのか分からなくなるよ」
「それだけあたしが魅力に溢れてるってこと?」
「あぁ。時々全部委ねたくなる包容力もあるし、いつも俺のことを考えてくれる優しさも身に沁みてる。もちろん俺に頼ってくれる時の弱さも魅力の一つだし」
「……っ」
まさかそこまで言われるとは思わなかったのか血染はスッと視線を逸らした。
ただ視線を逸らしはしてもその口元がヒクヒク動いているのは見えるので、どうも彼女にとっても今も言葉は嬉しかったようだ。
「うん? あぁ、もちろんお前もだぞ?」
ひんやりとした体で正面から抱き着いてきた黒血染にもそう伝えた。
ご機嫌になった黒血染はガッチリと俺に抱き着く姿勢、所謂大好きホールド状態になって動かない。
黒血染の場合は体に触れている感触はあっても重さは感じないため、俺が特に踏ん張らなくても彼女は俺に思う存分引っ付きもっつきだ。
「ここか」
そんな状態で俺たちが付いたのはベッド売り場だ。
以前に血染から三人で寝ても狭くないベッドを買おうと提案され、それを実際に実現するためにここに来たのが今日の目的だ。
「たくさんあるんだねぇ」
「あぁ。値段は気にしなくていい。普段から贅沢なんかしてないし、俺たちに残されたお金だからな」
それだけ本当に残された遺産は莫大だ。
血染の母親が親父に渡したお金だけど……今になって思うことがあるのだが、彼女は親父が死んだことに対してそこまでの驚きはなかった――それはつまり、血染が手にかけることを予期していたということではないのか。
そして一人になった血染が何不自由なく過ごせるようにとあそこまでの大金を渡したのだとしたら……ま、あくまで俺の妄想だが。
「兄さん?」
「ああいや、何でもないよ」
もしもそうなのだとしたら、たとえ血染のことを心から嫌悪していたとしても僅かにでも親心が残っていたのではと思うことは出来る。
(たとえ妄想でも、そうでないとしても、この子が少しでも想われていたのだとしたらそれはとても素敵なことだよな)
さてと、それじゃあしんみりとした空気はここまでにしようか。
「取り敢えずどんなのにするかなぁ……大きめのやつを重点的に見るか」
「うん」
まああまり大きすぎても部屋の問題も出てくるし、あくまで常識的な範囲内での大きなベッドを見ることにしよう。
ダブルサイズのベッドでも十分に三人は並ぶことが出来る……いや、こうなってくると俺たち専用の寝室を作った方が……って俺たち三人の寝室ってなんだ!
「あ、そうだ兄さん。あたし提案があるんだけど」
「提案?」
どうにか表情に出すのは堪えたのだが、そこで提案された彼女の言葉に俺は結局頬を赤らめた。
「部屋余ってるじゃん? それならあたしたち専用の寝室を作ろうよ。そうすれば無駄に部屋を掃除とかしなくて良いし、余ってる部屋も有意義に使えるで一石二鳥だと思うんだけど」
「……………」
それは正に俺が思っていたことと同じだった。
何も言えず顔を赤くした俺を見て血染はニヤリと笑い……ついでに黒血染も血染を習って慣れていないニヤリ顔を披露していた。
「……そうするか」
「いえ~い!」
パンと音を立てて二人の血染がハイタッチをした。
「血染、周りからはお前以外見えてないんだぞ?」
「……あ」
幸いにそこまで人目はないから見られていることもないけどな。
そんなこんなでこれが良いんじゃないのか、あれが良いんじゃないのかとダブルサイズのベッドを見ていると、女性の店員さんが近づいてきた。
「お悩みですか?」
「……そうっすね。どれが良いかなって」
目の前では真剣にベッドに目を向ける血染と、黒血染は姿が見えないのを良いことに思いっきり寝転がって感触を確かめている……ただ気持ち良さにウトウトしている様にも見えるけど。
「彼女さんですか? とても綺麗な子ですね」
「妹ですよ」
「あ、そうなんですね……?」
それから店員さんとも色々相談していたが、黒血染が一番気持ち良さそうにしているベッドに俺たちは目を向けた。
「あれが良さそうかな?」
「そうだね。手触りも良さそうだしあれにしようか。えへへ、兄さんと一緒に寝る専用のベッド……素敵♪」
ギョッとした様子で店員さんが見てきてるけど、義妹ということは知らないのできっと凄い関係なんじゃないかって思われてそうだ。
その後、諸々の手続きを終えて俺たちは店を出た。
このまま帰っても味気ないということで、いつかのように血染と一緒に一時間ほどカラオケを楽しんだ。
「兄さん、あたしトイレ行ってくるね」
「あいよ」
血染が戻ってくるまで俺は当然待つことになるのだが、そこである意味で予想外とも言える男に出会った。
「今の六道血染だよな?」
「……何の用だよ」
壮馬……主人公君の登場だった。
いきなり出てきて他人の妹を呼び捨てとは失礼な奴だけど、本当にこいつも俺と同じ転生者だったか……別に驚きはないのだが面倒な臭いがするぞ。
とはいえ、特にこいつと絡むつもりはない。
俺は適当に流してとっとと行ってもらおうと考えた。
「なんで知ってるのかは置いておくとして、確かに俺の妹だよ。可愛いだろ?」
「確かに可愛いけど、あんな人殺しの化け物は願い下げだぜ」
「……あ?」
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