清流のフィオナとハルヴィエド①




187:せくしー

 いました、ハカセさんです

 駅前の噴水の近くでフィオナさんを待っていますね

 服装はラフな感じでまとめており、ちょっと見えた鎖骨に色気が滲んでいます

 ……改めて見るとあの人目立ちますねぇ 頭身が完全にモデルですよ 

 待っているだけなのに絵になります


188:名無しの戦闘員

 中身さえ知らなければ普通のイケメンなんだよなぁ

 中身さえ知らなければ(重要


189:名無しの戦闘員

 せくしーさんもおっとり美女だってハカセが言ってたぞ

 あとすごくいい子だって


190:名無しの戦闘員

 あれ、約束の時間って午前11時だったよな?

 まだ10時……


191:名無しの戦闘員

 言ってやるな、ハカセにとっちゃ初恋だ

 気分的には男子中学生の初デートなんだから


192:名無しの戦闘員

 せくしーさん大丈夫?

 ハカセって神秘に対するセンサーの感度が高いって聞いたけど


193:せくしー

 >189 あの人の言うことは話半分でお願いします

     身贔屓がすごいので

 

 問題ありません

 察知できる範囲の外で魔力による視力強化を行えばいいだけですから

 猫耳ちゃんから教わった読唇術で会話も完璧に把握できます

 死角をカバーする小細工も一通り修めています


194:名無しの戦闘員

 おい、せくしー全力だぞw


195:名無しの戦闘員

 幹部の中でもダントツと言われた素質をこんなとこで発揮してやがるw


196:せくしー

 来ました! フィオナさんです!

 時間は10:08……あの子もかなり早く来ていますね

 白を基調とした清楚なコーデ、偶然でしょうがハカセさんがグッときそうな選択です

 ハカセさんの姿が先にあるのを見つけてちょっと小走りになりました


197:名無しの戦闘員

 フィオナちゃんも待ち合わせ時間より早く来たか


198:せくしー

 フィオナさん「すみません、遅くなりましたっ」

  ハカセさん「いいや、私も今来たところだよ」


 約束より一時間も前なのにこのやりとり

 初々しい、初々しいですよハカセさん

 少女マンガで読んだシーンそのままです


199:名無しの戦闘員

 楽しんでんなーせくしーちゃんw


200:名無しの戦闘員

 ベタなデートのあれだ!


201:せくしー

 フィオナさんの方も満更ではないようです

 古いやりとりと聞いたのですが若い女性でも嬉しいものなのでしょうか?


202:名無しの戦闘員

 俺らにイマドキの女子高生事情聞かれても


203:名無しの戦闘員

 ここ数年マッマと店員さん以外の女の人と喋っていませんが何か?


204:名無しの戦闘員

 >203 職場の同僚は?

 

205:名無しの戦闘員

 >203 働け


206:せくしー

 とりあえず駅前から移動するようですね

 移動の最中もお喋りしています

 

  ハカセさん「その服、とても似合っているよ。か、可愛いと思う、うん」

 フィオナさん「あ、ありがとうございます」

 

 褒めるところで若干どもるのがいかにもハカセさんです

 まだ手を繋いだりはしないようですね

 この後のデートコースに関しては皆さんも意見を出したものですよね?


207:名無しの戦闘員

 おう、そうだぞ

 恋愛経験がほとんどない俺らだが今回のデートが普通じゃないことは分かってる

 なんというか、「上手に女の子を楽しませるデートプラン」じゃ駄目なんだよ


208:名無しの戦闘員

 フィオナちゃんの方がデートって言ってきてる時点でたぶんあっちの好意は確定

 でもそれがハルヴィエドに向いてないのが問題なんだよな


209:名無しの戦闘員

 そうそうワイら必死に考えたンゴ


210:名無しの戦闘員

 私ちゃんも案を出したよ


211:名無しの戦闘員

 今回のデートは定番の映画館とか水族館、遊園地じゃいけない

 一番重要なのはハカセとフィオナちゃんがよく話すことだと思う

 だから行き先は敢えてハカセの趣味をメインにした場所にしている

 勿論フィオナちゃんの希望にも沿って、お互いをよく知るためのデートなんだ


212:せくしー

 ハカセさんを心配してくれる人がこんなにいて嬉しいです

 おや、昼食まで大分時間がありますし少し本屋に立ち寄るみたいですね

 別行動ではなく二人で並んで本を手に取りつつお喋りしています


 フィオナさん「昔は、妹さんに絵本の読み聞かせをしていたんですよね?」

  ハカセさん「ああ。懐かしいなぁ。……今はよく弄られているけど」

 フィオナさん「ふふ。でも、お兄さんのことが大好きみたいですよ」


 まあ猫耳ちゃんの大好きはちょっとレベルがあれなんですけど


213:名無しの戦闘員

 そこで嬉しいですって言えるせくしーだからハカセも「いい子」って言うんだよな


214:名無しの戦闘員

 猫耳はマジメにハカセに救われてるもんな

 ……このデート知られたらヤバくない?


215:名無しの戦闘員

 ハカセお兄ちゃんどいて! そいつ殺せない!


216:せくしー

 争わなくても二人で一緒に妻になればいいだけでは?


217:名無しの戦闘員

 しまった! この人A子ちゃん含めた三人夫婦になるつもりなんだった!


218:名無しの戦闘員

 今度はハカセがおちょくられる側になるなw


219:せくしー

 フィオナさん「ハカセさんは、好きな本とかありますか?」

  ハカセさん「私は雑食だから何でも読むよ。学術書もマンガも面白い。フィオナちゃんは?」

 フィオナさん「エレスの影響で、少女マンガが好きです。あと、話題の小説でしょうか」

  ハカセさん「へえ、お勧めがあるなら教えてくれると嬉しい」


 あ、今の本気の興味ですね

 ハカセさんは読書家というより知識の収集欲が強いタイプなので

 いいですよ、今のところミスはしていません

 とはいえ午前中からデートで夕方にはお別れというのは不思議ですね?


220:名無しの戦闘員

 せくしーちゃん、デートで未成年を夜まで振り回すのはよくないんやで

 こっちの成人は二十歳なんや


221:せくしー

 あ、そうでした

 一夫一妻というのも違和感があるんですよねぇ

 私達は一夫多妻も一妻多夫も認められていますから

 

222:名無しの戦闘員

 ふれきしぶる……


223:せくしー

 いえ、近年の女性運動で「弱者男性に嫁ぐくらいなら富豪一人に複数嫁ぐ方が女性にとって幸せだ」というムーブメントが起きた結果です

 それが認められると、今度は「男性の優遇である」と批判が起こり一妻多夫も認められました


224:名無しの戦闘員

 次元を越えてもワイらにとっては地獄なのヤメてクレメンス……


225:名無しの戦闘員

 俺さぁもうちょっと異世界に夢見てたんだけどなぁ


226:せくしー

 どこの世界の誰であっても、利を増やそうと必死に争っていますよ

 デルンケム自体が暴力でそれを為そうとする組織です

 

 本屋さんから出てきました、ちょっと早いけど昼食をとるようです

 お店はどこに行くか二人で相談中

 ここら辺は微妙ですね

 男性にスマートに案内してもらいたい女性は多いと思います


227:名無しの戦闘員

 確かにそうかも

 でもハカセもフィオナちゃんのことをあんまり知らないからな

 話す機会を増やすための苦肉の策だ


228:せくしー

 でも定食屋さんに決定したみたいですが


229:名無しの戦闘員

 そこはもうちょっと気遣えやハカセ⁉







317:名無しの戦闘員

 あー、よかった

 定食屋一応はフィオナちゃんの希望でもあったのね


318:名無しの戦闘員

 家の食卓に上らないメニューが多いからってのは盲点だった


319:名無しの戦闘員

 いいとこのお嬢さんみたいだけど、金持ちなりの苦労はあるんだなぁ


320:せくしー

 食後は予定通り、猫カフェに到着ですね

 ハカセさん猫好きです

 ちなみに猫じゃらしで猫耳ちゃんと遊んでいたこともあります

 猫耳ちゃんも「にゃー」って乗ってあげていました


321:名無しの戦闘員

 猫耳くのいち可愛いかよ(かわいい


322:せくしー

 フィオナさんも一緒になって猫と遊んでいますね


  ハカセさん「にゃー、にゃー」

 フィオナさん「ふふ、餌ですよー」 


 26歳男性の「にゃー」に周囲のお客さんが微妙な反応をしています

 まあ二人が和やかな雰囲気なので別に構いませんが


  フィオナさん「ハカセさんは動物好きですか」

   ハカセさん「嫌いではないが、猫だけ特別かな」

  フィオナさん「私も猫好きです。にゃ、にゃー……なんて」

   ハカセさん「フィオナちゃんカワイイ」


 おっと、あざとい小技入れてきましたよ 

 ハカセさんも本音駄々洩れです


323:名無しの戦闘員

 やるなフィオナちゃん


324:名無しの戦闘員

 あぁ~ 普段清楚系な子の猫語とかもうね

 






448:名無しの戦闘員

 なんだかんだ上手くいってる、でいいのか?


449:名無しの戦闘員

 もともとフィオナちゃんがハカセに意識してもらいたいがためのデートだからな

 よっぽど酷くなきゃ険悪にはならんだろ


450:名無しの戦闘員

 険悪じゃないからといって成功とも言い切れないのがなんとも


451:せくしー

 大変です! ナンパが発生しました!


449:名無しの戦闘員

 はぁ!? デート中だぞ⁉


450:名無しの戦闘員

 ハカセはなにしてんだ!?


451:せくしー

 いえ、ナンパされているのはハカセさんです

 猫カフェをでたあと駅前に戻ったのですが、フィオナさんが「少し電話を」と離れました

 しばらくハカセさん一人になったタイミングで派手な女性二人組が声をかけてきた形です


452:名無しの戦闘員

 逆ナンかよクソがぁ!


453:名無しの戦闘員

 そこはフィオナちゃんに絡む男を撃退するイベントだろ情交


454:名無しの戦闘員

 俺らに一生縁のないヤツじゃねぇか!?


455:名無しの戦闘員

 >453 お前最悪の誤字してるからな常考w

     

456:せくしー

 女性達は女子大生と名乗っています

 基礎教育を終えても勉学に励むタイプには見えませんが……

 いえ、こちらでは22歳まで学ぶのが普通でしたね


   女性1「ねえ、お兄さん。ヒマー?」

   女性2「これから○○行くんですけどぉ、一緒にどうですかぁ?」

 ハカセさん「そうなのか? では気を付けて。ああ、フィオナちゃん」


 にべもない 

 怒るでも迷惑がるでもなく、さらりと流しましたね

 そして二人組を放置して、戻ってきたフィオナさんの方に駆け寄っていきました

 なんですかあの人、子犬ですか?


456:名無しの戦闘員

 修羅場イベントが発生する暇もないw


457:名無しの戦闘員

 対応としては正しいのになんかあれだw


458:名無しの戦闘員

 ハカセのことだからナンパ自体に気付いてない可能性もあるぞ


459:せくしー

 その後、軽くお喋りしつつモールを見て回っています

 服とか小物類、今度はフィオナさんの希望のようですね

 フィオナさんの趣味はピアノだそうで、手に付けるアクセの類はほとんどしないのだとか


 フィオナさん「一番大切なアクセサリーは、これですが」

 

 と青い宝石の付いたネックレスを見せています

 ハカセさんが妙に微笑ましそうにしていますねぇ


460:名無しの戦闘員

 そこはプレゼント贈るとこじゃないか?


461:名無しの戦闘員

 初デートで重くない?

 しかもお気に入りのネックレス見せてすぐは当て付けっぽい

 

462:名無しの戦闘員

 ああ、そんなんより俺のプレゼントつけてくれよ、みたいな?


463:せくしー

 そろそろ歩き疲れたようで喫茶店で休憩

 話は尽きないし、相性は良さそうに見えますねぇ

 私はフィオナさん全然いいと思いますよ


464:せくしー

 ハカセさん「……ん? これは」


 メニューを開いたハカセさん、一点を見つめて固まってしまいました

 どうしたんでしょう?


465:名無しの戦闘員

 気になるスイーツでも見つけたか?


466:名無しの戦闘員

 さすがにデート中にいつもの調子では食わんと思うが

 ……いや、おいまさか


467:せくしー

 フィオナさんをちらっ

 メニューをじーっ

 フィオナさんをちらっ

 メニューをじーっ


 ハカセさん「いや、意外といけるのでは……?」


 なんか不穏な言葉を呟いています


468:名無しの戦闘員

 あ、ヤバい

 

469:名無しの戦闘員

 ここにきて最大級のポンコツやらかすつもりか


470:せくしー

 フィオナさんも何故だかちちらちらハカセさんを見ています

 そして意を決したようにハカセさんは、メニューをの一つを指さしました


 ハカセ「ち、ちなみに。こういったものに興味はあるだろうか?」


 や り や が り ま し た

 トロピカールなカップルジュースを見せつけて、びっくりするぐらい真剣なキメ顔でフィオナさんをまっすぐ見詰めています


471:名無しの戦闘員

 ハカセてめぇぇぇぇぇぇえ⁉


472:名無しの戦闘員

 どうして我慢しきれなかった⁉


473:名無しの戦闘員

 あんだけイマドキそれはないって言っただろーが!


474:せくしー

 フィオナさん「あっ、や、やっぱりそうですよね!」

       「エレスには却下されましたが、で、デートと言えばこれですよね!」


 意外と乗り気なのですが?

 届いたジュースを二人でちゅーちゅーしていますが?


475:名無しの戦闘員

 うっそだろ!?


476:名無しの戦闘員

 フィオナちゃんハカセに気ぃ遣ってない?


477:名無しの戦闘員

 どうしてそうなんの⁉


478:名無しの戦闘員

 ハカセなんか魔法でも使ったか⁉


479:せくしー

 私が見る限りは照れてはいますが嬉しそうにしていますね

 え、なんですかこれ

 悪の科学者(26)と正義のヒロイン(16)がカップルジュースを挟んできゃっきゃウフフしています

 なんなら目が合うと恥ずかしそうにはにかんでいます

 その片方は私の元同僚です

 かつて神に愛された子供と呼ばれた神霊工学者です

 

  ハカセさん「試してみたが、少し恥ずかしい、かな?」

 フィオナさん「本当に。顔から火が出そうです。にへへ」


 私はこの光景を心に焼き付けます

 そして……後々にいたるまでハカセさんを全力でからかいますw

 うふふ、最高です 面白すぎますよハカセさんw


480:名無しの戦闘員

 これはひどいw


481:名無しの戦闘員

 先輩で同僚で友達な男性の緩み切った顔とかもうねw


482:名無しの戦闘員

 ハカセ「やめて…やめてクレメンス……」


483:せくしー

 失敗しました

 何故私は望遠カメラを用意しなかったのでしょう

 気付かれることを承知で撮影したというのに!

 見せたい、スレの皆さんに

 後ゴリマッチョさんに見せたすぎます


484:名無しの戦闘員

 せくしーも結構いい性格してんなw


485:名無しの戦闘員

 キモがられんでよかった

 だがこっからが勝負だぞ……





 ◆




 晴彦さんとのデートはかなり上手くいったように思う。 

 一緒にお昼ご飯を食べて、猫カフェに行った。

 モールを見て回りながらお喋りした。

 喫茶店ではカップルジュースも飲んだ。小さな頃に少女マンガで読んだから一度やってみたかった。些細だけれど夢が叶ってしまった。

 でも楽しい時間はあっという間に過ぎる。

 気が付けば夕暮れ。

 茜色の空の下、もう少しだけ話をしたいと私達は公園に足を運んだ。


「晴彦さん、今日はありがとうございました」

「いや、私も楽しかったよ」


 忙しいのに学生の私に一日中付き合ってくれた。

 猫カフェや本屋の時には、彼の素顔を見られたような気がする。

 たぶん、自惚れでなく。

 晴彦さんの方も私を憎からず想ってくれているはずだ。


「あの、き、聞いてほしいことがあります」


 幸いにも公園に人影はない。

 私は、守り石をギュッと握りしめる。


「ん、どうした?」


 軽い調子の返答に、今までのことを思い出す。

 最初はちょっと面白い、接しやすい人だった。

 悩んでいる時に助けてもらって、彼の人となりを知るうちに惹かれた。

 そうして男性として意識するようになった。


 でも、彼の親しい人たちには“それでは足りない”と突き付けられた。


 だからたくさん考えて、こうやってデートをして、私は今ここにいる。


「私は、“貴方”が好きです」


 前置きも何もない、端的な告白。

 予想していなかったのか、彼は驚いた顔をしていた。


「そう、か……いや。君は、まっすぐに向き合ってくれた。なら、私もそうでなくてはいけないな。あの子の記憶を消しておいて、今さらではあるが」


 晴彦さんが少し寂しそうに呟く。

 すると、一瞬だけ彼の姿が歪んだ。

 なにも変わっていない。なのに、確かに変わった。

 そこにいたのは、ちょっと抜けていて可愛い男性ではなくて。


「私は、神霊結社デルンケム統括幹部代理、ハルヴィエド・カーム・セインという」


 幾度となく私達の前に立ち塞がった悪なる者がそこにいた。


「清流のフィオナよ。その正体は既に知っている」

「え、あ」

「私は君たちの敵。つまり、騙されていたという訳だ」


 そう言った彼は攻撃を仕掛けることはなく、逃げようともしない。

 悪の組織の幹部。彼によって引き起こされた事件はいくつもある。

 私は茜が助けてくれるまで一人でデルンケムと戦っていたのだから、それをよく知っていた。


「どうした、驚いて声も出ないか?」

「……いいえ、驚いてはいます。でも、ある種の覚悟はできていましたから」


 けれど私の動揺は、自分が思う以上に小さかった。

 ただ、きゅぅと胸を締め付けられる。


「美衣那さんやマスターに、それとなく忠告されてはいました。こういうことだったんですね」


 マスターは「好意が嘘にならないことを祈っている」と言った。

 美衣那は「好意が嘘だったら許さない」と言った。

 つまるところあの二人は、私の気持ちが嘘になる可能性を示唆していた。

 だから私の知らない、後ろ暗い一面があるのでは、くらいの想像も覚悟もしていた。

 マスターは素っ気ないように見せて、美衣那は怒ったふりをして、私に心の準備をさせようとしてくれていたのだ。


「では、これで失礼しよう」

 

 そのおかげでちゃんと彼の顔が見える。

 敵として対峙したなら、馬鹿にされていると感じたはずの薄い笑み。

 それが今の私には……少し寂しそうな。猫カフェの帰り際に見せた、ちょっと情けない感じの表情と重なった。

 

「待ってください」


 私は、その場を去ろうとするハルヴィエドの腕を掴んだ。


「行かないでください。きっとここで見送れば、もう、晴彦さんには二度と会えないんですよね?」

「そもそも、葉加瀬晴彦なんて人間はいない」

「分かっていますっ! 私はきっと、貴方に騙されていました。……でも貴方の全てが嘘と思いたくありません」


 これが正しいかは分からない。

 でも、間違いではないと思う。


「だって、私を騙すにしても、カップラーメン好きって設定に意味はないですよね?」

「……うん?」

「それに、英子先輩に凄まれて怯えるところを見せる必要も」

「いや、ちょっと待って」

「美味しそうにケーキを食べる顔は、絶対演技ではありませんでした」

「もう少し、いい気付きのポイントはなかったのかな?」


 とぼけた物言いは晴彦さんと同じ。

 ほら、こうやって腕にしがみ付いても、無理に振り払おうとはしない。

 ……清流のフィオナは、浄炎のエレスも、一度だってハルヴィエドの攻撃で傷を負ったことはなかった。

 偽りの中にも、私たちを気遣う心は確かにあるはずだ。


「だから話がしたいです。“沙雪と晴彦さん”ではなく“清流のフィオナとハルヴィエド”でもなく。“わたしと、あなた”の話をさせてください」


 父の教えの意味を改めて思い知る。

 彼は私にとってどのような価値があるだろう。

 私は彼にとってどのような価値があるだろう。

 正義と悪、立場が明確になった今だからこそ私は値踏みをして、値踏みをされなくてはいけないのだ。

 

 





688:せくしー

 何とかフィオナさんはハカセさんを引き留めたようです


689:名無しの戦闘員

 頼むぞー、フィオナちゃん

 今回のデートプランは楽しむためじゃなくて、正体がバレても素のハカセはいい奴だって印象付けるためのお喋りデートなんだからな


690:名無しの戦闘員

 このデートのヒロインはハカセ

 あのポンコツを口説き落とせるかどうかが全てだ

 上手くいってくれりゃいいけど


691:名無しの戦闘員

 軟着陸できるかどうかはフィオナちゃんにかかってる

 頑張ってくれよ、女の子……


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