ハカセの目論見のこと





189:ハカセ(晩酌中)

 普段はビール派やけど缶チューハイも美味いなぁ


190:名無しの戦闘員

 いきなり飲んでるのか

 

191:名無しの戦闘員

 缶チューハイって飲み屋だと飲めない味も結構あるしね


192:ハカセ(晩酌中)

 冷凍ピザを極氷果汁のレモンでグビリよ たまらんわ


193:名無しの戦闘員

 相変わらずのおっさん具合に安心するぜ 


194:名無しの戦闘員

 冷凍ピザは市販の溶けるチーズで追いチーズするのが好き


195:ハカセ(晩酌中)

 追いチーズ……そんな技もあるのか

 ワイも今度試してみるわ


196:名無しの戦闘員

 マルゲリータだとトッピングが色々試せるぞ


197:名無しの戦闘員

 そういや今日はいつもより遅かったな

 また忙しくなってきた?


198:ハカセ

 忙しいっちゃ大体いつも忙しいけどな

 ただワイも現状をそのままにしていいとは思っとらん

 ってことでちょいと対策をとってみた


199:名無しの戦闘員

 なに、組織を乗っ取る決意でも出来た?


200:名無しの戦闘員

 下剋上! 下剋上!


201:名無しの戦闘員

 ついにデルンケムを掌握するのか……


202:ハカセ

 しませんが?!

 ワイの認識どうなっとんねん?!


203:名無しの戦闘員

 まあハカセはやらないって分かってるからこその弄りだよな


204:名無しの戦闘員

 マジでやるような野心家だとシャレにならんしね


205:ハカセ

 勘弁してもらえませんかね……

 そういうのやなくて、補佐役や

 重要なところはともかく末端の仕事を任せられる補佐役を育てようと思ってな


206:名無しの戦闘員

 おー いいじゃん


207:名無しの戦闘員

 そもそもハカセ一人に業務が集中し過ぎなんだよな


208:名無しの戦闘員

 クズな社長によるブラック企業じゃなくて単に人材不足な面が大きいし

 補佐役にある程度仕事を振れる環境構築はいい案だと思う


209:ハカセ

 せやろ? これでワイのお楽しみタイムも増えるわ

 今度ボーリング行こうと思っとるんや


210:名無しの戦闘員

 ボウリング、な


211:ハカセ

 ん? 地質調査してまだこっちの次元じゃ有用化されてない資源でも探そかな、って話なんやけど


212:名無しの戦闘員

 ほんとにボーリングだった!?


213:名無しの戦闘員

 お楽しみタイムって結局仕事してる件について


214:名無しの戦闘員

 骨の髄まで社畜がしみ込んでるなぁ……


215:ハカセ

 研究は仕事の一環やけどワイの趣味でもあるしな

 学んだことを活かして先に進める過程って楽しいで


216:名無しの戦闘員

 開発した結果じゃなくて研究自体が娯楽なのか


217:名無しの戦闘員

 意外に根っからの研究者気質なんだな


218:ハカセ

 首領のためやから色々やるけど、いずれは研究職に戻る気ではおるよ

 ま、その一歩としての補佐役や

 組織内で募ってみたら意外と前向きに考えてくれる人らもおってな


 C男「マジで?! ハカセ様付きとか実質組織のナンバー3、モテのフリーパスじゃん! うっは、入れ食いかよ?!」


 なお戦闘員C男は選考外とさせていただきました


218:名無しの戦闘員

 チャラ男脳すげえな


219:名無しの戦闘員

 ここまでいくと尊敬すらするわ


220:ハカセ(童貞中)

 そもそもワイが無垢なのに何を言っているのか

 そーゆー不謹慎で不健全な輩は弾いて、とりあえず候補を選出

 そして残ったのが、


 N太郎「ハカセ様、この度はありがとうございます!」

 Lリア「ご期待に添えられるよう、今後一層の努力をさせていただきます!」

  猫耳「任せる、にゃ」


 この三人という訳や

 なんで?


221:名無しの戦闘員

 最後w


222:名無しの戦闘員

 猫耳ちゃん補佐役なりたかったのか


223:ハカセ

 いや、うん どう考えてもおかしいやろ?

 ワイは確かに二人だけを呼んだ、にも拘らず隠形で紛れ込むくのいちスキルの高さよ

 N太郎くんもLリアちゃんも困惑しとったわ

 内勤の女性用制服を着た猫耳が普通におる

 しかもなんかお手々を握りしめて「にゃっ」ってガッツポーズ中

 

  ワイ「N太郎、Lリア。少し待っていてくれ。猫耳はこちらに」

  猫耳「にゃ? 採用?」

 

 別室にてこてこついてくる猫耳

 腰をかがめて視線を合わせてワイは一言


  ワイ「なにやってんですかね、猫耳ちゃん?」

  猫耳「にゃ」

  ワイ「にゃではなく」


224:名無しの戦闘員

 猫耳ちゃんちょっとおバカな子に


225:名無しの戦闘員

 いや、たこ焼きホフホフやってた時点でその兆候はあったのでは


226:名無しの戦闘員

 そもそもハカセの妹みたいなもんだしポンコツなのは仕方ないね


227:ハカセ

 隙あらばワイを貶めていくスタイル


 猫耳「補佐役ならハカセを一番知る者こそ相応しいにゃ。すなわち私、にゃ」

 ワイ「その場合幹部がワイ一人になるんですが?」

 猫耳「……にゃ?」

 ワイ「だからにゃではなく」


228:名無しの戦闘員

 統括幹部代理(戦闘・参謀・開発担当)

 追加業務→暗部・情報関連new!


229:名無しの戦闘員

 もはやブラックとかいうレベルじゃねぇなこれ


230:名無しの戦闘員

 統括幹部代理なのに統括する幹部が全員いなくなる不具合


231:ハカセ

 これ以上ワイの仕事を増やされたらたまらん

 ここは早々にお引き取り願おう 

 そう思った矢先、猫耳が恐ろしいことを言う 


 猫耳「……私は、ハカセの裏切りを知っている、にゃ」


232:名無しの戦闘員

 裏切り? 


233:名無しの戦闘員

 なんか、物々しい話になってきたな


234:ハカセ

 ワイ「な、なにを」

 猫耳「ハカセが首領や私には秘密にしてること、既に掴んでいるにゃ」


 やばい、どれや

 首領に内緒で日本企業のいくつかと癒着してることか?

 それとも魔導装甲を封印した理由が嘘だとバレた?

 いや、二年半前に立ち上げた合同会社に関連する計画?

 アパレル系乗っ取ったやつ?

 ゴリマッチョへの頼み事?

 他にもいくつか水面下で動かしとる案件あるけどそのどれかか? 


235:名無しの戦闘員

 心当たりが多すぎるw

 

236:名無しの戦闘員

 そこまで行ったらマジモンの裏切り者でよくね?


237:名無しの戦闘員

 ていうか、こいつマジで猫耳ちゃんのためにアパレル企業乗っ取りやがった……


238:ハカセ

 いやいや しゃーないやん 現状多少の汚れ仕事は必要なんや

 バレたら首領が悲しそうな顔するから隠さなあかんけど


239:名無しの戦闘員

 怒られるとか嫌な顔される、じゃなくて悲しそうな顔なの?


240:ハカセ

「暴力的な占領による支配をしたい、でも犠牲は減らしたい」っていうのが首領の方針やからな

 それを達成するには怪人でロスフェアちゃんとやり合いつつ、裏から方々に手ぇ回して実質的な支配権を得るのが手っ取り早い

 だからって悪辣な手段を好む子でもないし、すごーく気を遣っとるんやぞ


241:ハカセ

 そんなわけでロスフェアちゃんは強すぎたら困るけど、弱すぎても困るんや

 逆に組織が強くなりすぎても困るから魔導装甲は封印した

 ワイとしては現状の拮抗をしばらく維持したい

 日本に対しても首領に対してもいい目くらましになっとる


242:名無しの戦闘員

 エレスちゃんの新技にビビってたのそれが理由か

 ハカセ的なちょうどいい塩梅があるのな 


243:名無しの戦闘員

 ていうか根本的に首領に向いてねえよ、のじゃっ子ちゃんは 


244:名無しの戦闘員

 うーん 日本人的にはヤバい状況なんだけど

 現状被害があんまりでてないからなんとも


245:ハカセ

 正直ワイは日本人の敵ではあるけど首領の方針には賛成や

 ワイも意味なく酷いことすんの好きやないし

 そもそもの話な?

 首領が暴力による占領を願うのは先代の弔いだと考えてるからや

 なのに大きな被害が出んように命じた

 あの子は結局、先代の為であっても侵略自体を良しとはしとらんのや

 

 ただ、今は敬愛するパパ上の死に囚われて意固地になっとる

 先代の弔い、先代が遺したものを守りたい

 そのために自分を押し殺して、首領はかなり無理しとる


 父親想いの優しい子や でもそれは上に立つ者の才覚には繋がらん

 実際ゴリマッチョとか古参連中なんかはそこも気にいらんみたいで「他人の願いに振り回された、信念のないアタマに命を預けられるか!」って言っとった

 

246:名無しの戦闘員

 ハカセは違うの?


247:ハカセ

 ワイも思うところはあるぞ

 でも優しい子が、優しいままでいられるようにするのは大人の仕事やからな

 それが出来んかった以上、首領の決断はワイの責任でもある 

 なら放り出したりはできんわな


 変な話、ワイが裏切り者ってのは事実かもしれん

 首領の命令に背いて遅延工作をしてるんやから

 それでもワイは可能な限り状況をコントロールしたい

 虐殺なんぞする気はないし、ロスフェアちゃんも氏なせん 

 血が流れたら絶対に首領は後悔するからな

 

 正直に言えば、ワイとしても首領には穏やかに過ごしてほしい

 できれば首領も納得できるような妥協点があればいいんやけど

 それを探るためにも今はなにより時間が欲しい 

 遅々として進まないが確実に忍び寄る侵略、それが現状のワイに出来る精一杯や

 ぶっちゃけると、その間に心変わりしてくれんかなーとは思っとる


248:名無しの戦闘員

 心変わりかぁ いっそのこと先代の危惧の通り別次元からの来訪者が現れたらいいのに


249:名無しの戦闘員

 そしたらロスフェアちゃんとも共同戦線、なんてのもあり得るかもな


250:ハカセ

 うんにゃ それはそれでワイら的には困る

 来るのが“別の侵略者”ならまだいい

 そやけど“理性的で良識ある外交官”だった場合、その時点でワイらが詰む


251:名無しの戦闘員

 どゆこと?


252:ハカセ

 ワイらは悪の組織、そもそも歓迎されるもんやない

 ただ、もし“別の侵略者”が来たら、それを撃退すれば一定の価値は示せる

 鬱陶しいけど役には立つかな、程度には

 もしかしたら日本を守るの名目の上、ロスフェアちゃんと共闘もあるかも


253:ハカセ

 せやけど、やってきたのが“理性的で良識ある外交官”の場合は違う

 正式な手段で政府と交渉して、別次元の進んだ科学技術を公開し、日本に利益をもたらす

 普通の外交・貿易をしたい連中の提案はこうや


“あなたたち日本人のために、悪いやつらの排除のお手伝いをしましょう。

 私達は日本の味方、これからも末永くよろしくお願いします”


 なんのかんの理由を付けて兵力は出さず、武器や兵器の譲渡に留めてな

 そしたら日本対ワイら組織の構図にしながら恩も売れる

 当然ロスフェアちゃんもそっち側につくやろうし

 ワイなら間違いなく現地人を矢面に立たせる方法をとるわ


 そういうのを避けたいんで、遅延工作をしつつも時間をかけすぎる訳にもいかん

 日本で起業しとるのもいざって時の逃げ場を確保するためや

 てか、いっそのこと第三勢力をこっちで用意した方が早いかもしれん

 理想としては、ワイらがいるから外からは手が出せん、っていう先代の想定してたレベルまで戦力を拡充することやけどな

 つくづく初手が侵略やから融和政策が取りにくいのが悔やまれる


254:ハカセ

 ……なんて、色々考えたりわりと覚悟を決めて向かい合ったのに

 

 猫耳「ハカセが、アニキ様たちと焼肉に行ったこと、私も首領も知っている、にゃ……!」


 いやあ 猫耳の言う裏切りが焼肉を内緒で食べに行ったこととか想像もつかんよね

 

255:名無しの戦闘員

 ごめんハカセ、落差デカすぎて笑いにくい


256:名無しの戦闘員

 うん、前の話がちょっと重すぎた


257:ハカセ

 あらま、失敗してもたか

 まあ、そんな感じでワイもそれなりに覚悟持って悪の科学者やっとるよって話や

 かといってそれで人生すり潰す気もないからな

 美味いもん食べて酒も飲んで、首領とアニメ見るし猫耳とお買い物にも行く

 当然フィオナたんやルルンちゃんともメッセージのやりとりしとる

 好きな女の子とお付き合いして、パスタ屋をってのも本心やし

 にゃんjに書き込むのも楽しんどる


 ああ、結局補佐役はLリアちゃんとN太郎に頼むことになったわ

 猫耳は構ってほしくてあんな真似しただけみたいでな

 また機会を作る約束をしたら引いてくれた 


 猫耳「首領もいっしょに、にゃ」


 とのこと なんや聞いてほしいお願いがあるんやと


 あとLリアちゃん達には、これからちょっとずつ組織内と地上での仕事を任せていくつもり 

 これで少しは楽になるとええんやけどなぁ


258:名無しの戦闘員

 そうなるといいな、うん


259:名無しの戦闘員

 んだんだ 


260:ハカセ

 ってことで、ワイはそろそろ落ちるわ

 ほななー


261:名無しの戦闘員

 おー ハカセおやすみー


262:名無しの戦闘員

 ……なあ 今さらなんだけどさ

 実はハカセって結構ヤバいやつじゃね?


263:名無しの戦闘員

 悪の科学者って時点でヤバいんだが感情重すぎるよな


264:名無しの戦闘員

 うん……




 ◆




「むむ。凝っておるの、ハルヴィエドよ」

「あー、気持ちいいですヴィラ首領」

「デルンケム首領、手ずからのマッサージなのじゃ。しっかりと堪能するがいい」


 ハルヴィエドは自室のベッドでうつ伏せになっていた。

 その上には首領であるヴィラベリートが乗り、一生懸命に肩や背中を解している。

 ミーニャとの約束通り時間を作った。しかし二人は遊ぶのでも外食に行くのでもなく、ハルヴィエドの部屋でゆっくりしたいとの希望だった。


「すまぬの。おぬしの負担は私の不甲斐なさゆえ。このようなことは、罪滅ぼしにもならぬとは分かっておるが」


 ヴィラベリートの願いは“マッサージがしたい”。

 自分のせいで忙しいのだからと、少しでも労わりたいという気持ちの表れだろう。


「いえいえ。私は好きでこの組織にいるのですから。まあ多少忙しくて、多少ストレスが溜まって、多少疲れているのは事実ですが」

「ここぞとばかりに責め立ててくるのう……」

「はは、冗談ですよ。私は、まだまだ首領のところで厄介になるつもりなので」

「そうか、そうかっ。うはははは!」


 喜びからか、さらに親指に力が籠る。

 台所ではミーニャが食事を作っている。普段野菜をとらないハルヴィエドのためのメニューらしい。

 つまりはそういうこと。

 散々大仰なことを言ったが、結局のところ彼の本心は単純なものだ。


(こんな子達を、見捨てられないよなぁ)


 侵略が上手く行こうと、失敗しようと。

 最終的にどのように転がってもデルンケムに所属する全員が無事に済む道を探す。

 ハルヴィエドの忙しさは、そのための模索なのである。


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