キラーアントの巣
街の外に出たところで俺はカナタに話しかけた。
「カナタ。王都に行く前に少し寄り道してもいいか?」
「む? 別に構わんでござるが」
「ありがとう。それじゃあシル、いつもの頼む」
「おっけー。探すよ~~~~……見つけた! あっちの方角に大きいのがある!」
びしっとシルが指さしたのは王都からやや外れた方角。
まあ、ちょっと遠回りになるが勘弁してもらおう。
「なにをしているでござるか?」
「召喚スポットを探してもらったんだ。召喚スポットは放っておくと時間制限が来て消えてしまうから、できれば最優先で確保したくてな」
「しょ、召喚スポットを探すぅ!? そんなことが可能にござるか!?」
カナタが仰天したように目を見開く。
わかるなあそのリアクション……
<召喚士>のことを知っていたら誰だってこうなる。
「私は鍛冶神メルギスが十七番目に作りし最高傑作だからね! このくらい当然だよ!」
シルがドヤ顔をしている。
出たな、謎名乗り。
「シルは召喚武装なんだ。で、こいつのサーチ能力で召喚スポットを探してくれてる」
「ほあ~……ロイ殿は普通の<召喚士>ではないと思っていたが、そういうからくりでござったか」
「そういうことだ。それじゃあ、悪いけどちょっと付き合ってくれ」
「もともとこっちが無理を言っている立場! 問題なしでござる!」
カナタの言葉のもと、俺たちはシルの案内に従って歩き始めた。
「ここか」
「うええ、なにあのでかい蟻……」
イオナが嫌そうな顔をする。
目の前には全長二メートル弱の巨大蟻がうじゃうじゃいる。
キラーアントという魔物だ。
「召喚スポットはあの洞窟の中だね」
「キラーアントの巣の中か。厄介だな」
まあ、召喚スポットがあるなら行くまでだ。
しかし入り口の前はあの数だしなあ。
「ロイ様、正面から入りますか?」
「拙者が露払いいたそうか?」
「……いや、やめとこう。それより俺に考えがある」
セフィラとカナタの言葉に首を横に振り、キラーアントの巣の入り口からやや離れた位置に行く。
ここは<召喚士>らしくいこうじゃないか。
「【召喚:『大地ノ大土竜』】」
『ぐもぉおおおおおお』
「『大地ノ大土竜』、ここからあっちの洞窟につながるように穴を掘ってくれ」
『ぐもっ』
呼び出した巨大モグラの召喚獣がすごい勢いで穴を掘っていく。
「シル、『大地ノ大土竜』に召喚スポットの位置を教えてやってくれるか?」
「あ、地下から直通で召喚スポットのところまで行くわけだね!」
「なかなかいい考えじゃない! さすがあたしたちのご主人様だわ」
キラーアントの巣は迷路のように複雑と聞いたことがある。
正面から行くより、こうやって地下から召喚スポットのところまで一気に向かったほうがいいだろう。
先に行ったシル、イオナに続き俺、セフィラ、カナタも穴に飛び込む。
「【召喚:『水ノ重亀』】」
最後に入り口付近にいたキラーアントたちがうっかり穴を見つけて入ってこないよう『水ノ重亀』でふたをする。
これで挟み撃ちの危険もない。
「ロイ、暗いよー!」
「なにも見えないわね……」
シルとイオナの二人から苦情が入る。
おお、ちょうどいい。
今日手に入ったばかりのあれの出番じゃないか?
「【召喚:『光ノ子蛍』】」
ぽう、と蛍の明かりが周囲を照らす。
よしよし。
これで探索がはかどることだろう。
「ろ……ロイ殿、万能すぎでござる! 本当になんでもできるでござるな!」
カナタがキラキラとした眼差しを向けてきた。
「すごいのは俺じゃなくて、召喚獣たちなんだけどな」
「いやいや。ロイ殿の機転がなければせっかくの召喚獣も活きないでござろう。謙遜する必要ないでござる。皆殿もそう思っているでござるよ」
見れば、シルたちまでうんうんと頷いている。
大袈裟な。
まあ、褒め言葉はありがたく受け取ろう。
ガラガラガラ
お、『大地ノ穴土竜』が掘った穴とキラーアントの巣穴がつながったみたいだ。
『『『ギシャアアアアアアアッ!』』』
……さすがに戦闘なしとはいかないか。
キラーアントが五体、侵入者を抹殺しようと寄ってくる。
『ぐもおおおおおおお』
「邪魔よっ!」
戦闘の『大地ノ穴土竜』とイオナがあっという間に片付けてしまった。
キラーアントはDランクの魔物だったっけ。
『大地ノ穴土竜』はともかく、イオナがいれば苦戦する余地はない。
『……ぐもぉ』
なんだか悲しそうな『大地ノ穴土竜』の鳴き声が響く。
……ああ、通路が狭すぎて動きにくいのか。
仕方ない、いったん【送還】しよう。
『大地ノ穴土竜』を異空間に戻す。
「こっちだよー」
シルの案内で巣穴の中を先に進む。
キラーアントを倒しながら奥に向かう。
ぎゅっ。
「……カナタ、どうかしたのか?」
「えっ? どどど、どうもしてないでござるよ。なんでそんなこと聞くでござるか?」
「いや、服掴んでるから、なにあったのかと」
「あ」
俺の袖を掴んでいた手を離すカナタ。
「す、すまんでござる。なんでもないでござるよ、うん。えすらんくの拙者が動揺などするはずないでござるゆえ」
「お、おう……」
なんだ、この反応? 早口過ぎて後半何言ってるか聞き取れなかったぞ。
そのとき、遠くの方で、カンッ! という音が響いた。
巡回中のキラーアントが石でも蹴ったんだと――
「みぎゃあああああ!」
「うおっ!? 落ち着けカナタ、お前さては暗いところが苦手だな!?」
前方は『光ノ子蛍』が照らしているが、最後尾の俺とカナタがいるあたりまでは光が届かない。カナタが怯えているのはこの暗さが原因だろう。
しがみついてきたカナタに押し倒されないよう踏ん張る。
ふにょん、と言う柔らかい感覚が腕に当たる。
……い、意外とボリュームがあるな。
異国の装束だと目立たないんだろうか?
それともさらしを巻いているとか。
「あーっ! カナタずるい!」
「一番後ろで隙を窺っていたのね……なかなか策士じゃない」
「その手がありましたか……」
「みんな落ち着け、多分そういうのじゃない」
というかセフィラが言っていることがなんかおかしい。
「す、すまぬ……実は拙者、暗闇が本当に苦手で……あ、足が震えているでござるよ」
「やっぱりそうか。地上で待っててくれてもよかったのに」
「一度付き合うと言った手前、それは言えんでござる……」
律儀だなあ。
「じゃあ、はい」
「へ?」
カナタと手をつないでみる。
うお、手小さいな。
俺の手ですっぽり包めそうな大きさしかない。
「これなら怖くないだろ? それじゃ行くぞー」
「え、あ、その。……か、かたじけない」
カナタが顔を真っ赤にしてそう言った。
まあ、子ども扱いされてるみたいで恥ずかしいよなあ。
でもまあ、そのくらいは我慢してもらおう。
敵がいる場所で動揺しっぱなしなのはいくらなんでも危険だ。
「「「カナタだけずるい(です)!」」」
即座にパーティメンバー三人の大合唱。
「……あー、手はもう片方あるからじゃんけんで」
シル、イオナ、セフィラの壮絶なるじゃんけんの結果、俺の左手はセフィラのものとなった。
「♪♪♪」
「ひえっ!? ろ、ロイ殿、あっちでなにか動いたでござる……」
右手は異国の美少女、左手はエルフの美少女と繋ぎながら洞窟を歩く。
……別の意味でドキドキしてきた。
なんかこれ普通の冒険者の活動と違くないか?
そんな感じでしばらく進み、やがて俺たちは最深部へと到達した。
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