第22話
俺達が助けた王女――――マイムは霊兵を召喚し、俺を取り巻く水草を斬り払った。しかしマイムの体はボロボロであり、むしろ立っているのが不思議である。
背格好は現在の俺とほぼ変わらないくせに、途轍もない気力があるようだ。
「邪魔が入ってしまったか。まぁいい、第二ラウンドということにしておこう。」
ラファーガに笑みが浮かぶ。明らかに楽しんでるな。だがもう前のような失敗はしない。
「今の経験で少し――――いや、だいぶ強くなった気がするな。もう一回! 手合わせ願おうじゃないか!」
俺の決意にラファーガは更に感心したように、植物を全て消した。
「素晴らしい。そこまで成長してくれるとは。ならばここからは、スキルなどという小細工はなしだ。己の鍛え上げた肉体、頭脳、結界を存分に使おう!」
……まぁ俺は結界使えないんだけどな。そう思いつつも、俺は剣を抜いた。
ラファーガはこれまで通り拳で対応するようだ。だがその拳には結界が纏われている結界は結界以外のものを防ぐからな。
あれで殴られたら、肉体を貫通するかもしれない。避けつつも渾身の一撃を入れる!
するとラファーガがいきなり攻撃を始めた。繰り出される連撃を正確に剣で受け止める。スキがない。作ろうとしても、高速の打撃がそれを許さない。
「そんなものか!? お前の覚悟は! もっと、死ぬ気でこい!」
ラファーガが喋ることにより僅かなスキが生まれた。すかさず横腹へ足を回す。回し蹴り、と言うやつだ。
スキを突いた渾身の一撃は、微量であるものの、ダメージを与えた。ラファーガの体制が少し崩れる。
「そうだ、そうこなくてはな! だが―――。」
再び蹴りを入れた。更に崩し、そのまま斬撃を入れる。
結界も解いているお陰で簡単にダメージが通る。俺は剣をしまい、拳で連撃を与えた。
ラファーガはガードを全くせずに攻撃を受ける。
「トドメだ! 《チャージ》!」
剣を抜き、素早く一撃を振り下ろす。しかし剣の動きが止まるのを感じた。
結界で防がれたのだ。
「――――まだ戦いの極意が身に付いていない。」
腹に鋭い一撃が走る。そのまま俺の視界は暗転した。
ここはどこだ? 目を開ける、そして体を起こした。
サブマージョンじゃない。違う場所だ。辺りは青く澄んだ空のように見える。
『ふむ……ここまで来たか。』
辺りを見渡した。姿がないのに誰かの声が聞こえる。その声は反響しており、位置を特定することもできない。
『安心せい、お前はまだ死んでおらん。ここはお前の《心の地》。つまり魂の中だ。』
言っていることは分からないが、取りあえず天国ではないらしい。声も何処か安心できる。
『大丈夫だ。お前は私が死なせない。』
何処からか足音が聞こえてきた。やはり姿は確認できないのだが、その音は近づいてくる。やがて足音は止まった。
『もう一度、あの男と戦ってくれ。』
抱きしめられた。姿のない者に。一瞬体が強張ったが、すぐに緩んだ。
その感覚には温かみがあり、まるで肉親の様に落ち着く。
「少しだけ、力を貸そう。」
今度ははっきりと聞こえた。誰だ? と聞こうとしたが聞けないまま、再び視界が暗転した。
視界が明るくなる。今度はサブマージョンだ。あれは何だったんだ……?
「おや、しぶといな。」
ラファーガの声がする。顔を上げる。
そこにはまるで何もなかったかのように佇むラファーガと、倒れるマイムの姿があった。
「仕上げに移ろうとしたのだが……すぐに終わらせようか。」
ラファーガは水草で鋭い剣を創り、振り上げた。……体が動かない! まずい!
そう思い、目を閉じたその時。何も起こらなかった。目を開ける。
するとそこには驚いているようなラファーガと、俺を庇うように在る、結界だった。
「何故……魔物風情が結界を!」
もしかしたら、あの声の主は俺に結界を与えたのかもしれない。魔物の癖に使えるという原理は分からない。だが、それは俺が少しばかりでも強くなれることを示していた。消えろ! と念じると結界は消えた。剣を抜く。そして纏え! と念じた。
すると結界は
「対結界物質と結界の共存だと!?」
驚愕の声が聞こえた。俺はポーチの中から薬の染み込んだスライムを取り出し、タキオン、マイム、そして自らの口に流し込んだ。
剣を構える。
俺は素早く近づいた。今までより早く。俺は剣を振り下ろす。
それをラファーガは結界を纏わせた水草の剣で受け止める。更にボルテージを上げ、斬撃を与える。
いつしかその速さはラファーガを超えていた。
超高速の斬撃を受け、ラファーガは倒れる。斬撃を止めたものの、疲れがない。全く不思議だ。
「くくく……新たなる境地に達したか。私もこのままで居るわけにはいかないな。」
ラファーガは大きなダメージを負った上でも笑い、立ち上がった。
「さて、計画はもうズラせないな。しょうがない。仕上げにかかろう。」
ラファーガが手を捻った。それに反応するように地震のような大きな揺れが起こる。
「何だこれは……!」
近くの砂浜が盛り上がり、大きな機械が姿を表していく。姿は亀を模しているように見えたが、尻尾に蛇の体がついていた。
全身にはツタの様に水草が絡みついている。ラファーガはいつしか、その機械の上に立っていた。
「精神獣さ、水草で無理矢理動かしている。本領では無いものの、この国を破壊するほどの力はあるだろう。」
精神獣はもう一種見たことがあったが、それより圧倒的に大きい。この国よりもだ。
するとその精神獣の口が開き、中から無数の白い何かが出てくる。それには見覚えがあった。
「自立式破壊兵が内蔵されているとは! 頼もしい!」
これはまずい。そう思った瞬間。
二つの影が前に立った。それは傷がほとんど消えたタキオンとマイムであった。
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