第20話
俺はすぐに光る方へ向かった。剣を抜き、素早く近づく。
ドラゴンの目線が後ろのタキオンに向いた。今だ!すかさず光る右膝に剣を突き刺す。
「ギァァォ!」
ドラゴンは大きなうめき声を上げた。苦しんでいる!
「よし、よくやった! あとは任せろ! 【和光同塵】!」
タキオンの全身を結界が包みこむ。そしてタキオンはドラゴンの頭に蹴りを入れた。何撃も。
「王女! ご無事ですか!?」
という声の主を戦闘に黒いスーツを着込んだ集団がやってきた。護国軍だ。顔を隠してはいるが、まずい。
「ベルスト!! 待っておったぞ!」
ベルストと呼ばれた先頭にいる古希を迎えたであろう護国軍の一人が手を振った。さっきの声もそのベルストのものだろう。
「少将ベルストか!?」
タキオンの動きがやっと止まった。少将? って言うと、少尉、少佐、少将ってことは? ……滅茶苦茶偉いじゃねぇか!
「おっと、懐かしい声が私を呼んどりますなぁ。まぁあとは我々……いや私にお任せなさい。」
いや〜、これまでタキオンとか、タキオンとかタキオンとかいろんな化物がいたけど、流石にヨボヨボの爺さんには無理だろ。と、思ったのも束の間。
爺さんは想像を超えるほどのアクロバティックな動きを見せた。一瞬でドラゴンの頭上に移動したのだ。
「去れ、《侵食・滅》」
そう爺さんが言うと、ドラゴンの輝かんばかりの銀鱗がどす黒く染まり始めた。それはどんどん広がり、ドラゴンの全身をどす黒く染めたかと思うと、ドラゴンは爆ぜた。いや、分解したのだろう。
化物ばかりだ。
「さて、王宮へ行きましょう。王が貴方様二人を待っていらっしゃいます。」
こんな化物に逆らう訳にはいかないのでついていくことにした。
王の間へ入る。緊張もしたが、王は中年という感じだった。もっと威厳があると思っていたが、意外とそうでもなさそうである。俺たちは王の前に跪かされた。
「王女を救った件、お主たちには感謝しておる。」
王の隣には王女が座っていた……が、逃げてしまった。
「ああ、申し訳ないな、許してやってくれ。あれは私が嫌いなのだ。」
「何故にございますか?」
タキオンがすかさず聞いた。王は微笑む。
「いいだろう、お主たちは恩人だからな。
まぁ、その姿勢だと聞きづらいであろう。椅子を持ってまいれ。」
するとすぐに世話係が椅子を持ってきてくれた。なかなか座り心地がいい。
「お主たちは六大魔人というものを知っておるか? 5000年前実在した魔物に非ずして人間に非ず、それが魔人だ。今から話すのはアルカナ王国眷属国家にのみ、語り継がれる話だ。」
遥か昔、六人の強力なる魔人ありき。その力は圧倒的に、今の魔王をも凌ぐものとなれり。当時のアルカナ王国はそれを危惧せり。
捨て置かばこの国も、眷従ひ国も易く滅ぼされぬ。そのため、最終兵器のいそぎを始めき。
いよいよその日は来たり。六人の魔人全員がアルカナ王国を襲ひけり。当時の護国軍など奴らにとらば紙切れ同じ。被害は甚大なるものとなりき。
されど、最終兵器―――――精神獣を使ふことにより戦況は一変せり。四体の精神獣の圧倒的なる猛撃に、もはや魔人に成すすべはあらざりき。
かくし、魔人は滅びき。
「以上だ。この魔人の内、一人のスキル―――それは《霊兵召喚》、もう気づいたであろう。あれは国民に嫌われておる。本来、王位はあれが継ぐのだが、国民は弟を支持しておる。」
なんとなく分かった気がするような? つまり嫌われてるというわけだ。
「まぁ、そんな話よりこの国でゆっくりしていってくれ。」
王宮を出た。やっとゆっくりできる。と思ったがなんか肝心の目的を忘れてる気がする。
ズシン!
大きな音がした。王宮からだ。王宮から溢れん程の水草が出ている。やがてひとりの緑髪の人間が出てきた。サングラスをしていて素顔は分からない。
「あ! お前らか! 俺のドラゴンちゃんを虐めて王女暗殺計画を台無しにさせたのは!」
と言って俺たちを指で指してきた。あ、あのドラゴンペットだったんだ。なんか悪いな。
でも王女を殺す気ならしょうがないか。タキオンが口を開いた。
「王女は無事なのか!?」
その者は頭を掻きながら面倒そうに口を開く。
「王と王子は動けないようにはしてるけど無傷だ。王女は……多分死んでる。運がよかったら生きてるかもな。」
タキオンの目の色が変わった。全身から
「じゃあ、殺してやるよ。」
緑髪の人間は後退りした。
「流石タキオン・ペネトレイト。凄まじい殺気だ。」
水草が足元に生えてきた。その水草はすぐに俺とタキオンの足を絡めとる。
「くっそーやられた!」
緑髪の人間は植物で上に上がり、まだ伸び続ける水草に絡め取られた俺たちを見下ろしながら薄ら笑いを浮かべた。
「我が名はラファーガ・アダマント! 民衆を救う男だ。そして正義の神の使者である!」
何だこいつ。神ィ? 本気でそんなんいると思ってんのか?
あ、でもここ異世界か。いや、でも流石にいないだろ。
その男はサングラスを外し、こう続けた。
「この国の民衆はこう願っている! 王女に王位を継がせず、弟の王子に与えたいと! そして王女は疫病神となるので死んでほしいと!」
何……言ってんだこいつ? 俺はすかさず口を開いた。
「もう目的も名前も分かった。だが、人を殺すという考えだけは解らない。お前は分からんだろうがな。」
俺は今にも絡め取られそうな剣を抜き、自らに絡みつく水草を斬り払った。邪魔な顔を隠す布を取る。
「死ぬってどんなことか、教えてやるよ。」
すぐさま泳いでラファーガの方へ向かう。
「《
剣を振り下ろす。水中では通常、動きが鈍くなるがこの服を着るとだいぶ軽減されるようだ。
「同胞とはね。【結界発動】!」
俺の一撃が結界を纏った腕でで防がれる。しかし、ラファーガの腕が少し動いた。
「なるほど、対結界物質の入った剣か。だが、ツメが甘い。」
俺は蹴飛ばされた。水中であることを感じさせない威力と衝撃だ。
地面に叩きつけられ、意識が飛びそうになる。
「お前だけで勝とうとするな。」
目の前にはなんと、いつもとは一風違うタキオンが立っていた。
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