第19話

 俺も急いでついていく。更に深くへ……。



 海溝らしき溝が見えた。

 そこで俺はやっとタキオンに追いつき、二人で溝に入ろうとする。


「おい待て!」


 一人の男に呼び止められた。タキオンが面倒くさそうに顔を向ける。


「ここからは一部の人間しか入れない! 帰ってもらおうか!」


 えー。折角ここまで来たのに。

 ポーチからさきいかを取り出して齧る。


「そうか、面倒事は避けたい。帰るぞ。」


 そうか、ここは海底王宮だったっけか。じゃあ護国軍がいっぱいいるかもしれないな。

 タキオンがくるりと向きを変える。そのまま帰ろうとすると、


「待て!」


 呼び止められた。なんなんだよ、帰るのか? 行くのか?


「付近に魔物の気配がある。変だ、ここは『魔牢』で守られているはず……まさか! 海溝の下に!?」


 なんだ?まさか魔物って俺!?

 いや、海溝の下って言ってるしな。それに演技っぽくて笑える。


「王女が危ない! お前ら! 下に行くことを許可する! ただし! 王女をここまで連れてこい!」


 タキオンがニッと笑った。


「おうよ!」


 タキオンが俺を掴んだ。その途端、物凄いスピードを出して海溝の中に入る。

 速過ぎて酔いそうだ。

 海溝の狭い狭い空間を抜け……先には色とりどりの魚とサンゴ。そして沢山の像が並ぶ墓地のような場所があった。

 まるで別の海のようだ。

 王女ってのはどこにいるんだろ。

 目を凝らすと一つの像の前に跪く少女の姿が見えた。身に着けているドレスは水で揺れ、青く輝いている。 


「タキオン! あそこだ!」


 と言ったものの、タキオンは言うまでもなく、そちらの方向へ向かっていた。少女がそれに気づく。

 まぁ、俺たち新幹線レベルの速さだもんな。

そりぁ気づくか。

 タキオンは地面にそっと降り立ち、俺を降ろした。


「何者だ。」


 金髪碧眼のその姿は海の僅かな光に照らされる。タキオンはその少女を見た。しかし、意識は像に行っているようだった。


「お前が王女ということで間違いないな?」

「無礼者! 先に名を名乗れ!」


 態度でかい子供ガキだな。こんな奴……。

と思っていると意外や意外。タキオンが跪いた。

 お? なんとなく、俺も釣られて跪いた。


「申し訳ございません、申し遅れました。タキオン・ペネトレイトと隣、エスト・モリスで御座います。魔物が迫っているため急遽馳せ参じました。」

「タ、タキオンだと!? 冒険者か! いや、それより魔物とはどういうことだ。」


 いや俺は!? 意外と知られてないのか?

 突如、水の流れが変わった。タキオンが立ち上がる。


「こりぁ、大物だな。」


 巨大な影が迫ってくる。だんだんはっきり見えてきた。

 それは漆黒に染まった西洋風のドラゴンの姿をしている。とてつもないほど大きい。右手には巨大な槍を握っていた。


「な……! ディープドラゴン!?」


 王女も驚いている。正直、俺もこれは今まで出会った奴の中では一番やばいのが分かる。そう、だ。

 こんな奴放っておいたら王女が危ないどころか、あの国まるごと消えてしまうだろう。

 正直帰りたいが、ここで王女を放って逃げたらまた罪が重なる。それに逃げさせてくれなそうだし。

 急に周りの水が渦を巻き始めた。それはどんどん迫ってくる。


「小癪な! 返り討ちにしてやろう。我が身を守れ! 《霊兵召喚》!」


 王女がそう言うと、あたりに夥しいほどの鎧を着た兵士が現れた。百はあるな、凄い。

 その兵士たちは剣を持っている。そして鎧の中は闇が広がっていた。霊兵と言うだけある、不気味さだった。

 その兵士たちはディープドラゴンに向かって果敢に立ち向かっていく。しかし所詮はただの兵士に過ぎない。渦を巻いた水に蹴散らされ、ディープドラゴンの圧倒的な強さを前に消えていった。


「とんだが居たもんだ。」


 そのとおりだな。渦巻き以前に単純に強そうだ。

ディープドラゴンの銀鱗がキラリと光る。

 その時、タキオンがディープドラゴンに飛びかかっていった。


「おい、タキオン! いくらお前でも―――。」


 渦巻きが飛んできた。間一髪でそれを避ける。


「なーに、俺は死なないさ! こいつを倒すにはエスト、お前の剣が必須だ。まぁ無くてもできるけどその場合俺は負ける!」


 いやこんなんどうやったら倒せるんだよ! と言いそうになったが、タキオンならやってくれる気がするようなしないような。タキオンはぐるぐるとディープドラゴンの周りを回りながらこう言った。


「いいか! 俺が《防御開放》であいつの防御を一部分だけ取る! あいつの攻撃は俺が引きつけるから安心しろ! 防御が取れたところに剣を突き刺せ!」


 いや怖すぎだろ。いつ切れるか分からない紐でバンジージャンプするようなもんだぞ。

 と言ってもタキオンはやる気満々である。やるっきゃないか。

 そう思って向かおうとすると王女に呼び止められた。


「待て、妾を置いていくつもりか? 未熟だと思われているようだが足止めぐらいはできる。《霊兵召喚》!」

 再び霊兵が現れた。今度は真っ直ぐディープドラゴンに行くことができ、足をちまちまと攻撃し始めた。

 足止めには十分だな。するとドラゴンの右膝が光った。

 上には渦巻きに追われるタキオンがいる。


「そこだ! 突き刺せ!」

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