第9話

 明日になったらシャクネツ地方に行く。とタキオンが言っていたので、色々なものを揃えておこうと、布で顔を隠してミストラルに来た。

 今の残金は丁度1万ディム。

 食料は焼きスライムを保存しているからいいとして…あとは武器だな。この錆びたボロボロの剣じゃあスライムさえ倒せるかわからない。

 と、歩いていると以前は気づかなかった店があった。


『錆びた剣、壊れた剣、なんでも買い取ります!』


 ここで剣を売っていいのを買おう。俺は店に入った。

 店の中は剣が壁に飾られていたり、樽に入っていたりと沢山の剣があった。

 店の受付へ進み、錆びた剣を出した。


「これを買い取ってほしい。」


 受付のおっちゃんは剣をまじまじと見て、刃に触れる。その刃の質感や輝きを調べているようだ。

 しばらくして目を見開いた。何かに気づいたようだった。


「旦那、少しそこらの剣を見て待っててくれ。」


 そう言っておっちゃんは剣を持ち、奥へ入った。

 なんか既視感デジャヴュを感じながらも様々な剣を見て待つことにした。




 しばらくしておっちゃんが出てきた。

 その手には、研ぎ澄まされた剣が握られており、鞘は青を基調とした海を連想させる美しい鞘だった。


「お前の剣を打ち直しておいた。これは俺が買い取るより、打ち直して持ち主のところにいたほうがいい。……この鞘は俺の息子の鞘だったものだ。森に薬草を取りに行ったときに魔物に呆気なく…。あいつの一生の願いは不滅の剣、またの名を星霊之剣アストラルソードを手にすることだった。」


 おっちゃんの目には涙が滲んでいた。


「……ついに…一緒になれたな。」


 おっちゃんは何も言わずに俺に剣を手渡した。

 店を出ようとしたとき、


「旦那…剣が壊れたり錆びたりしたらここに来てくれ。…歓迎するぜ。」


 俺は店を出た。



 その日は宿に泊まって疲れを癒やしたあと、タキオンのいる郊外へ向かった。


「早かったな。じゃあウミアメ地方までワープしてそこから向かう。準備はできたな? 行くぞ!」


 体が青い光に包まれ、ついた先は雨が降っていた。崖の上らしいがこれでは景色も見れない。

 そばにはタキオンが用意していたと思われる馬がいた。


「乗れ、行くぞ。」


 馬に乗るとすぐに動き出した。



 ウミアメ地方は岩場に包まれており、足場が安定しなかった。

 ガタガタ揺れながらぼーっとしていると、飲み薬が渡された。


「飲んどけ。飲まないとシャクネツ地方で焼け死ぬぞ。」


 言われるがままにに飲み、しばらくすると岩場を抜け、火山灰が積もっているところを駆けていた。


「もうすぐだ。」


 それにしても暑くなってきた。夏場の都心より暑い。

 こんなときには焼いてないスライムに限る。


「止まれ。」


 誰かの声が聞こえた。

 それよりも急に馬が止まって思わずスライムを吐き出しそうになってしまった。


「おいおい…嘘だろ…。」


 タキオンは目の前をじっと見据えている。顔をぴょこっと出すと、スーツを着たショートヘアの、中学生位に見える少女がいた。


「久しぶりね。お兄ちゃん…いえ、タキオン。」


 タキオンは馬から降りた。


「やる気か?フェローチェ?」


 お兄ちゃん? 妹か? だとしたら美男美女な兄妹だな〜。


「何言ってんの? あんたは冒険者犯罪者、私は護国軍、それだけ。」


 タキオンは下がっとけとでも言うように手を動かした。

 フェローチェは俺の方を見る。俺は慌てて顔を隠した


「お連れさん?じゃあ貴方を斬ったあと捕縛しないとね。」


 タキオンはニッと笑う。


「お前が倒せる器じゃねぇよ。」


 フェローチェは剣を抜いた。シンプルなものではあるが、手入れをしていないのか、刃こぼれしており、返り血によって錆びていた。


「じゃあ、さよなら。私の…仇の人。」


 フェローチェがタキオンに剣を構え迫る。


「「【結界発動】!」」


 タキオンは自らの前に浮く青い板を生成した。

 同じくフェローチェも剣の周りに同じようなものを生成する。しかしそれは、タキオンのものとは異なり、赤く光っていた。

 お互いの同じ程に洗練された何かは衝突し、砕け散る。正直ついていけないというのが現状である。


「なんでそんなにしぶといの。自分のやったことぐらいわかってるでしょ。なら正直に…殺られてよ!」


 タキオンは向かってくる刃を手で抑えた。


「いいさ、お前が俺を殺したいなら。お互い好きな道を進めばいい。だから俺は抵抗するぜ。」


 フェローチェは刀を動かそうとしている。

しかしタキオンの力に邪魔されているようだ。…恐るべし。


「意味わかんない!自由にしたいから父さんと母さんを見殺しにしたっていいの!」


 タキオンは刃を折り、脚に力をためているようだ。……、国に犯罪者のランクの改定を求めたい。


「安心しろ。いつでも俺はお前の兄ちゃんだ。忘れてないさ、約束も。」


 タキオンは脚を思いっきりフェローチェへぶつけた。


「またな!《衝撃波》プラス《身体強化》!!」


 激しい風が巻き起こり、更に強烈な蹴りによってフェローチェは遥か彼方へ飛ばされた。

 これを一言で表すなら「もんげ〜!」である。タキオンは何事も無かったように馬に乗り込み、


「行くぞ。」


 と、前を向いて一言だけ言い、馬を走らせた。

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