第23話 早鐘
☆
「それではこれより、魔導ライフルの射撃を披露させて頂きます」
私の言葉に、陛下が頷く。
騎士姿のジェラルド殿下も、興味しんしんといった顔でこちらを見ていた。
「ああ、令嬢」
私が標的の方を向こうとした時、陛下が思い出したように口を開いた。
「はい。どうかされましたか?」
「すまないが、最初の何発かは一発撃つごとに的をあらためさせてもらいたい。どの程度の威力なのかをよく見ておきたいのだ」
「承知致しました。それでは連続射撃は陛下にお声がけ頂いてから、ということに致しましょう」
「ああ、楽しみにしておるぞ」
陛下が満足げに頷くのを確認した私は、あらためて標的に向き直った。
一列に並べられた、魔導盾と魔導鎧。
こうしてみると、等身大人形が整列してるみたいだ。
私は右手にライフルを下げ、左手でカバンから弾丸を一つ取り出すと、銃口からコロコロと弾を装填する。
「それでは、いきます!」
宣言した私はライフルを構え、安全装置を『0』から『1』の位置へ。
標的の魔導盾を狙いながらわずかに引き金を引く。
ブン、という音とともに銃口の先に浮かぶ魔法陣。
「「おお……」」
騎士たちがどよめく。
(まだ、何もしてないんだけどね)
内心で苦笑する。
(––––でも、悪い気分じゃない)
私は、微かな高揚感とともに引き金を引いた。
タンッという音とともに肩に伝わる発砲振動。
眩く輝く銃口の魔法陣。
バフッと二次加速の反動の空気が周囲に吐き出された瞬間––––––––
バァン!!!!
30m先に置かれた標的の魔導盾が弾け飛んだ。
「「おおーーーーっ!!」」
周囲から歓声があがる。
「おお……!!」
今のは陛下だろうか。
––––ここまでは予定通り。
うちの屋敷のお披露目会で魔導盾を撃ったときと同じ展開、反応だ。
違ったのは、盾の後ろにあるものの末路だった。
「見ろ! 後ろの鎧が……っ!!」
騎士の一人が叫ぶ。
一瞬の静寂。
直後––––
「「おおおおおおおお!!!!」」
さらに大きな歓声が練兵場を揺らした。
予想外の大きな反響。
私は銃口を下ろし、あらためて標的を見た。
一枚目の魔導盾は、バラバラになって吹き飛び、あたりに破片が散乱している。
注目すべきは騎士が叫んだ通り、その後ろにあった魔導鎧だった。
「うわぁ……」
あまりの状態に、私も思わず声を漏らしてしまう。
––––ひとことで言えば、ボコボコだった。
数代前のオウルアイズ伯爵家当主が開発し、今や王国騎士の標準装備となった魔導鎧。
敵からの攻撃を受けた瞬間、衝撃力を鎧全体に分散する仕組みを持つその魔導鎧は、表面がボコボコになり、いくつもの破片が突き刺さっている。
鎧としての機能はかろうじて維持しているものの、かなりのダメージを受けているのは間違いなかった。
ざわざわと、騎士たちの動揺の声が聞こえてくる。
これまで戦場で自分たちの身を守ってきた魔導盾と魔導鎧。
その盾は四散し、鎧はボコボコになってしまった。
––––あれがもし生身の人間だったら?
彼らの動揺も分からないでもない。
そんな空気の中、二人の騎士が鎧を陛下の御前に運んでゆく。
息を呑む陛下。
やがて驚きは、戸惑いに変わる。
「これは……凄まじいな。この武器が量産されれば、戦場の様相は一変するだろう」
そう呟いてじっと鎧を見据えていた陛下は、やがて私の方を見た。
「レティシア嬢」
「はい。何でしょう、陛下」
「一発の威力はよく分かった。次は続けて撃ってみよ」
「かしこまりました」
私は射撃位置に戻ると、魔石を新しいものに交換した。
どうせなら、5発続けて見てもらいたい。
「それでは、いきますっ!」
私は再び弾を装填し、ライフルを構えた。
残る盾と鎧は4つずつ。
はたしてどこまで抜けるだろうか?
(––––いや、ちがうか。すでに、威力についてはお墨つきをもらったから、あとは連射速度を示せればいい)
そう思い直した私は、新たな標的に狙いをさだめ、引き金を引いた。
ブン––––タンッ!
派手な音を立てて一枚目の盾が粉々になる。
すぐに次弾を装填し、狙い、撃つ。
バンッ、という音を立てて鎧の腹部に大穴があく。
一発目で盾ごしに衝撃を受けていた鎧が、その負荷に耐えられなくなったのだろう。
「「おお……っ!!!?」」
騎士たちがざわめく。
続いて、三発目。
バカンッ!!
二枚目の盾が吹き飛び、奥の鎧が今まで以上に損傷を受ける。
四発目。
二つ目の鎧のど真ん中に穴が開き、三枚目の盾にヒビが入る。
そして、五発目。
照門にある魔力切れのランプが赤く点灯すると同時に––––三枚目の盾と三つ目の鎧が大破し、四枚目の盾には大きなヒビが入っていた。
「…………」
誰もが言葉を失っていた。
時間にして数十秒。
一分に満たない時間で、三枚の魔導盾が四散し、三つの魔導鎧に大穴があいた。
正直、私自身怖くなるくらいだ。
私はセーフティスイッチを『0』に戻すと、ふぅ、と息を吐き出し、陛下に向き直った。
「––––以上でございます」
右手にライフルを提げたまま、左手でスカートの片端をつまみ、カーテシーで挨拶をする。
やがて––––
パチ、パチ、パチ……
玉座から立ち上がり『興奮を抑え切れない』という表情で手を叩き始める陛下。
それがきっかけとなったのか。
「「おおおおおおおおーーーーっ!!!!」」
嵐のような歓声と拍手が、練兵場に響いた。
☆
やがて皆の興奮が収まってきたところで、陛下が口を開いた。
「凄まじい……! これはとんでもないものを創り出したな、レティシア嬢!!」
コンラート陛下が顔を紅潮させて私に声をかける。
「不肖の身には、もったいなきお言葉にございます」
私が答えると、陛下はまっすぐ私を見た。
「謙遜することはないぞ、令嬢。我が国は建国以来、幾度となく周辺国の侵入を受け、これを退けてきた。建国当初こそ他国に対して優位であった魔導武具は長い年月を経て模倣され、今や魔法技術だけでなく魔導技術まで部分的には他国の後塵を拝すようになってしまったのだ。そのような中にあって、この度の発明は実に見事! 我が国に再び魔導技術の優位と、国防力の向上をもたらすものであると、わしは確信する!!」
陛下の力強い言葉に、おおっ……とどよめきが起こる。
陛下は、お父さまに向き直った。
「オウルアイズ伯爵家のこの度の献上品、実に見事である! ついては伯爵家に、なにがしかの褒美を与えることにしたいと思う。––––伯爵。望みはあるか?」
今や舞台は整った。
ちらりと私を見て小さく頷いたお父さまは、口を開き––––
カーン、カ、カーン!!
カーン、カ、カーン!!
その時、あたりに鐘の音が鳴り響いた。
「何事だ?!」
叫ぶコンラート王。
「警報?!」
ジェラルド殿下と騎士たちが、城の一角を見上げる。
私もつられてそちらを見た。
鐘の音は、東の監視塔から発せられたものだった。
力いっぱい鐘を鳴らす、見張りの兵士。
もう一人の兵士がこちらに向けて何かを叫んでいる。が、鐘の音で聴き取れない。
と、その頭上を、何かが横切った。
「なんだあれは?!」
「ロック鳥か???」
誰かが叫ぶ。
「いや、違う! あれは…………あれは、飛竜だ!!」
監視塔を飛び越えた飛竜は、城壁の上空を私たちを観察するように旋回する。
その背に、何かが見えた。
「人だ! 人が乗ってるぞ!!」
その瞬間、私は凍りついた。
降りしきる雨。
喪服の父と次兄。
参列する騎士たち。
土を被せられる棺。
古い記憶が、フラッシュバックする。
私は叫んだ。
「…………うそっ! なんで『あれ』がここにいるの?!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます