第14話 魔導ライフル


「えっ、それは、あの……」


 突然魔石のことを尋ねられ、吃(ども)る剣士。

 私は言葉を続ける。


「この魔石ですが、中の魔力が十分に安定化されていません。これでは出力が不安定で、魔導回路に過負荷がかかって壊れてしまいますよ。恐らく前回の故障も今回の故障も、この魔石を使ったことが原因かと」


「そんな……」


 絶句するお客さま。

 私は心底困った顔をした。


「うちの魔導武具は、うちで加工した魔石を使うように最適化してあるんです。お買い上げの際にご説明させて頂くようになっているのですが」


「そういえば、そんな話を聞いた気も……」


「よその魔石に交換されたのは、なぜです?」


「そ、それはその。こちらの純正品はすごく高いので」


 それはそうだろう。


「当工房の魔石は、魔導具が最高のパフォーマンスを発揮できるように、そしてできるだけ魔石が長持ちするようにと、魔力の安定化のために手間ひまとコストをかけて加工しているんです。ひょっとして他店の魔石に替えてから、魔導刃の出力や切れ味が落ちませんでしたか?」


 私の問いに、考え込む剣士。


「……そう言われてみれば、たしかにリーチは短くなったし、切れ味も悪くなった気がします」


 私は頷いた。


「うちの製品は、他店に比べて高価かもしれません。ですが『高いなりの理由』とそれだけの『性能と品質』がある。そう思って頂けると嬉しいですわ」


「あの、すみませんでしたっ!!」


 私が微笑むと、剣士は深々と頭を下げたのだった。




 ☆




「それでは、またのお越しをお待ちしておりますね」


 修理が終わり、笑顔でお客さまを送り出したあと。

 ふう、とひと息ついた私に、工房長のダンカンが話しかけてきた。


「いいのか?」


「何がです?」


 訊き返した私に、ダンカンは微妙な顔をした。


「タダで修理した上に、新品の魔石までつけてやっただろ。あそこまでしてやる必要ないんじゃねーか?」


「今回はこれで構いません。あの方がうちの魔導武具の正しい理解と評判を冒険者の皆さんに広めて下されば、広報費用として決して高くはないでしょう。魔石の仕入れ費用は私の開発費として処理しますし、工房に迷惑はかけませんよ」


「そうかよ」


「はい」


 仏頂面(ぶっちょうづら)のダンカンと、笑顔で頷く私。

 最初に比べれば、いくらかは互いのことを知れてきただろうか?


 私はその流れで彼らに切り出した。


「皆さんの実力と工房の現状が分かりました。皆さんは、与えられた条件下でよく頑張って下さっていると思います」


 ダンカン、ローランド、ジャックの顔に「え?」というクエスチョンマークが浮かぶ。


「そこで、あらためてお願いします。私の新しい魔導武器の開発に、皆さんの力を貸して下さい」


 私が深々と頭を下げると、三人は慌てて首肯した。




 ☆




「これは…………クロスボウか?」


 カウンターに広げた全体図面を見たダンカンは、眉をひそめた。


 クロスボウというのは、鋼鉄製の『ボルト』という短くて太い矢を、木の台座に水平に取り付けた板ばねの弦(つる)で飛ばす弓の一種だ。いわゆるボウガンのご先祖さまである。


「どうしてそう思ったんです?」


 私が問うと、彼は図面のある場所を指で叩いた。


「引き金がある。だが、矢をつがえる場所も弦も見当たらないな。それに……なんだこの筒は?」


「それは銃身と言います。筒の中に矢の代わりとなる鉛の弾丸を込め、魔導によって射出して敵に撃ち込むんです。この武器は一見クロスボウに似ていますが、実は全く異なる新しい武器なんです」


「新しい武器?」


「はい。クロスボウは『弓』の一種ですが、これは『銃』という全く新しい種類の武器です。今回作るのは、その中でも兵士一人ひとりが携行して使う『小銃(ライフル)』になります」




 私はあらためて自分が描いた図面に目を落とした。


 そこに描かれているのは、間違いなく夢の中の地球にあった『銃』だった。

 全長約1m。左手で銃身を支え、銃床を右肩に当て、右手の人差し指で引き金を引く『小銃』である。

 形で言えば、短めの火縄銃といったところか。


「普通の弓やクロスボウとどう違うんだ? どういうメリットがある?」


「弓は速射性に優れますが、相当な訓練をしなければ使いものになりません。クロスボウはそこまで訓練しなくても扱えますが、弦を引くのにかなりの力が必要ですし、装填に時間がかかるので速射性に著しく劣ります」


 私は弓を引く動作をした後、クロスボウに矢をつがえるポーズをしながら説明する。


「ですがこの小銃なら、魔石1個で5発程度までなら銃口からの弾丸の装填のみで速射できますし、照準も簡単です。極端な話、私のような子供でも短期間で優秀な射撃手に早変わりするんですよ」


「おいおい、そりゃあすげえが…………魔物狩りや戦争に子供を駆り出すってのは、さすがに……」


 引き気味のダンカン。

 私は笑った。


「もちろん今のは例え話です。私が言いたかったのは『この武器の開発に成功すれば、剣と槍に頼っていた歩兵の射程と攻撃力が飛躍的にかさ上げされる』ということです。……要するに私はこの武器を、国王陛下に直接売り込もうと思っているんですよ」


「国王に?! そんなことが可能なのか???」


 驚き、顔を見合わせるダンカンたち。


 そう。貴族とはいえ、うちは数ある伯爵家のひとつに過ぎない。わざわざ個別に時間を取ってもらうなど、本来ならあり得ない話。


 だけど今回は向こうの事情での謁見である。

 うちがその機会をどう使うかについて、ある程度の希望を通す余地はあるはずだ。


 ––––例えば、私が開発した魔導具を献上するとか。


「とある事情で、私と父は三週間後に国王陛下に謁見します。その際に、私自身の手でこれをデモンストレーションして献上するつもりです。もし、そのデモがうまくいけば……」


「国から大量の発注が舞い込むのか!!」


 興奮し、食い気味に叫ぶダンカン。

 私は彼に頷いた。


「その通りです。うまくいけば工房の財政を立て直せますよ」




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