骨壺

 グロテスクな再生を経て、メチバは蘇る。そして、目の前に並ぶ四体の爆猿王を見て剣を掲げた。


光輝絶刃ラム・レスプランディール


 螺旋状に刃を回る光。それを見た四体のギンキィは慌ててメチバに飛び掛かる。


「ウキィッ!?」

「ウキッ」

「ウッ、ウキッ!」

「キィィッ!?」


 螺旋を描く光がたわみ、光輝の刃が放たれる。回避不能の魔力刃はギンキィ達を一匹ずつ確実に両断した。


「……」


 切り裂かれた四体のギンキィは、死体も残さず消滅した。メチバは目を細め、辺りを見渡す。


「ッ!」


 四方八方から飛び掛かってくる九体のギンキィ。メチバは自分の予感が当たったことを察した。やはり、襲い掛かってきた中に本体は居なかった。今も本体はどこかに息を潜めている。


「ウキィッ!」


光靴こうか


 恐らく、本体から姿を現すことは無いのだろう。周囲にも気配はないので近くには居ないようだが、こちらから見つけなければならない。


「……輝明剣シャンディウィルソード


 何にしても、一先ず目の前の分身達を片付ける必要がある。メチバは自分が死の宝珠の支配下にあることも忘れ、純粋にギンキィを討伐するための思考を巡らせ始めていた。


「キィッ!?」


 先ず一匹。残りは八体。どうせ全員分身だ。性能は本体よりも数段低い。メチバは特に警戒もせず、負傷も恐れずに無理やり分身達を処理し始めた。


「ウキィッ!?」


「キィィッ!!」


 光靴で空を蹴りつけ、分身の目の前まで跳躍して光の剣を振るうメチバ。その刃は一匹の命を刈り取ったが、背後から飛び掛かった分身の攻撃を許してしまう。


「キィッ、ウキィッ!!」


 背中に張り付いた分身。その両手が紅く光り、爆発を巻き起こす。鎧の背中がひしゃげ、少し穴が開く。当然、皮膚は消し飛び、肉は飛び散り、骨も僅かに見えるが、その程度だ。


「……輝明剣シャンディウィルソード


 猿の首が落ちる。そう、骨の見えるような傷も、死の宝珠の恩恵を受けている今のメチバにとってはその程度と無視できるダメージでしかなかった。肉も、皮膚も、高速で再生し元の姿を取り戻す。


光輝絶刃ラム・レスプランディール


 その場で立ち止まり、剣を掲げ続ける必要がある隙の多い技だが、メチバはそのリスクを恐れる必要も無いと考えていた。分身達が焦ったように爆破を利用して殺到し、重力魔術で阻害する。


「……ッ」


 鬱陶しい。腕を掲げたままの体勢が崩れかけ、メチバはそんな感想を抱いた。


「キィッ!?」


 切断。最も近い位置に居た分身を切り裂いた。残りは五匹だ。三方向から同時に来る。


「ウキィッ!?」


「キキィッ!?」


 光がたわみ、刃が放たれる。一撃、二撃。同時に迫っていた三匹の猿が到達するまでに二発の刃を放ち、それぞれ一匹の命を刈り取ったが、残りの一匹はメチバに到達してしまった。


「ウキャァァッ!!」


「ッ、輝明剣シャンディウィルソード


 爆発がメチバの胸元で巻き起こる。胸に穴を開けられながらも、光の剣で首を刎ねるが、爆発と飛び掛かられた衝撃でメチバは体勢を崩し、後ろに倒れ、剣を取り落とす。その視界に映るのは、残り二匹の分身。到達まで数秒かかる。メチバは焦りもせずに剣を拾おうと地面をまさぐる。


「……?」


 剣が無い。落とした筈の剣が、落ちていない。そして、そこで漸くメチバは気付いた。自分の背後に突然現れたの気配に。


「ウキャ」


「ッ!!」


 振り返りながら立ち上がろうとするメチバだが、背後に居た爆猿王……本体のギンキィはそれを許さない。拾っていた剣を空中に放りながら、その紅く光る拳をメチバの頭部に振り下ろした。


「ウキャッ、キャキャッ!!」


 爆発。メチバの頭部は完全に消しとび、肩から首辺りは炭化している。だが、ギンキィはそれで終わりにする気はないようで、また拳を紅く光らせる。


「ウキャァッ! ウキッ、キキィッ!!」


 殴打、殴打。殴打に次ぐ殴打。その度に起こる爆発。メチバの体は、皮膚は、肉は、骨は、粉々に吹き飛び灰と化していく。


「ウキキッ」


 楽し気に笑うギンキィ。その視線の先にあるのはドロドロとそこかしこが溶けているメッキの剥げた黄色かった鎧だ。


「キッ、キキッ!」


 希少な金属を素材に特殊な製法で作られた鎧は穴だらけになり、各部が溶け出しても尚かろうじて鎧という原型は保っている。


「ウキィッ!」


 それを、ギンキィは紅く光る拳で軽く叩き、小さく爆発を起こしながら加工していく。


「キッ、キッ、キィ~!」


 楽し気に加工を続けるギンキィ。その手元にはまるでボールのようになった元鎧があった。外側が分厚く中が空洞で上部に小さく穴が開いたそれをギンキィは満足気に小脇に抱え……地面で蠢いている灰を掬ってその空洞に流し始めた。


「……ウキィィ」


 灰を粗方鎧の壺に入れ終えたギンキィは一仕事終えたとでも言うように鳴き声を漏らし、仕上げとばかりに残った剣をまた加工して壺の上部を塞ぎ、完全なボール状になったそれを蹴り飛ばしてからロアの援護へと向かった。

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