懐剣と光鞨
光鞨のメチバ・ベルトヘルは向かってくる七体のギンキィを前に、地面を蹴り、空を蹴り、遥か空中へと飛び上がっていく。
「キィ!」
「ウキィ!」
「ウキィィッ!」
しかし、七体の爆猿王は……ソートをロアに任せて余裕が出来たギンキィは意気揚々と空中のメチバに迫る。その手段は他ならぬ爆発。地面を爆発させ、空を爆発させ、その衝撃を利用して空中を舞うギンキィ。
「ッ! ……
光り輝く彼の剣。それは振られる度に光の斬撃を撃ち放つ。
「キィッ!?」
「ウキィッ!」
「ウキッ、ウキキッ!」
放たれる無数の斬撃に一体のギンキィが……分け身によって作り出された分身が呑まれ、消滅する。だが、残りの六体は上手く爆発を利用しながら宙を舞い……そして、空中でメチバを包囲した。
「……
それを悟ったメチバは剣を空へと掲げると、刃が更なる輝きを放ち……螺旋状の光が刃に沿うように回転しだした。
「ウキィッ!?」
飛び掛かる寸前だった六体のギンキィの内、一体が悲鳴を上げる。それは、瞬きすら許されない真の光の斬撃。螺旋状の光がたわみを見せた瞬間、その光は刃となって撃ち放たれて分身を一体、真っ二つに両断したのだ。亜光速の魔力の斬撃、
「……キキ」
瞬間、メチバの体に凄まじい重圧がかかった。奥の手を、必殺技を隠していたのは何もメチバだけでは無かった。射程内に入ったメチバをギンキィの重力魔術が襲う。
「ッ!?
感じる重力を無視して剣を掲げようとするメチバだが、まるで追加の重しを乗せられたように重圧が倍になる。
「ッ、ぅ、ぉ……」
それは三倍に、四倍に、五倍に……増していく。剣を掲げるどころか、体全体が下へと引っ張られ、膝を突きそうになる。が、そこは空中。膝を突ける場所などない。空を蹴れるのは飽くまで足のみ。その靴の底以外に神秘の力は宿っていない。
「ウキッ、ウキキッ!」
猿が笑う。膝が落ちる。膝が足を追い越して下へ向かおうとして、体全体が引っ張られ、メチバの体はぐるりと宙吊り状態になる。そして、彼の光靴は空を蹴ることは出来ても空に体を固定することは出来ない。裏返った彼の体は真っ逆さまに空から落ちていく。
「ぐ、ぬ、ぉ……ッ!」
高速で落下するメチバは頭を上に戻そうとするが、凄まじい重圧がそれを阻止する。
「――――ッ!!」
「ウキィィッ!! ウキキッ、ウキキッ、キキッ!」
遂に、地面に到達するメチバ。頭から着地した彼は当然無事で済むわけもなく、頭はぐちゃりと潰れ、首は折れ、鎖骨辺りも完全に砕け、体内の臓器も圧力と衝撃に耐えきれず潰れた。思惑通りになったと、猿の哄笑が響く。
「…………
飛来する光の斬撃。
「ウ、ウキィッ!?」
隣の分身がやられたと目を剥く分身。慌ててメチバの方を見る。
「……
そこには、無残な異形があった。
「ウ、ウキィ……」
肩にもたれかかったドロドロと肉も骨も見えたまま再生していく頭部。それと管だけがギリギリで繋がっている首と、上部がひしゃげたまま戻らない黄色の鎧。そしてその形に歪んだままの肩。それでも行使される権能。
ギンキィは呻き声を上げ、顔を引きつらせながら一歩下がった。
♢
ぶつかり合う短剣と斧。砕ける短剣。傷付けられるオーガの肌。しかし、数える間にどちらも元通りだ。短剣はソートの手元へと回帰し、ロアの体は再生する。だが、変化が無いわけではない。
「グォオオオッ!!」
「排乱剣」
打ち合えば打ち合うほど、傷つけ合えば傷つけ合うほど、お互いの力と技が分かっていく。長い戦いに同じ瞬間など無い。少しずつ、相手を理解し、変容していく。それが戦いだ。
「ッ、グォォォオオオッ!!」
「衝止、反振剣」
故に、優劣が現れていた。
「グゥ、グォ……グォオオオオオオッ!!」
ロアは、ソートに翻弄されていた。しかし、それも当然のことだ。相手は巨大な帝国の精鋭。戦闘のプロフェッショナルだ。選ばれし戦士である彼には、経験でもセンスでも劣っていた。
「尽剣、壊剣、崩剣」
刺さる。無数の短剣が、ロアの体に突き刺さる。
「グォオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」
だが、ロアがソートに勝っている部分もある。一つは身体能力。種族ごと違うロアの膂力はソートとは比べ物にならない程だ。そして、もう一つは精神力。何度傷を負おうとも、死の危険を感じようと、力量差を悟ろうと……恐れず、退かず、戦意を衰えさせることのない、圧倒的な精神力だ。
「グゥゥゥォォオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」
「ッ!?」
故に、ロアはここまで勝ってきた。生き残ってきたのだ。相手が自分より強かろうと弱かろうと、敵を倒し、喰らってきたのだ。
「軽停、障端剣。懐剣、回帰……尽壊剣」
「グォオ、ォ、ォオ……」
全力で振り下ろされるロアの斧をそれでも冷静に受け止め、威力を無効化し、お返しにとその短剣を胸に突き刺すソート。人間相手ならばそれだけで人体のほぼ全ての機能が停止されてしまうところだが、ロアはオーガだ。そしてアンデッドだ。呻き声を上げようとも倒れることは無い。
「グ、ォオ……グォオオオオオオッッ!!!」
寧ろ、より戦意を滾らせるだけだ。
「グォオオオッ!!」
「……」
そして、ソートは考えていた。死の宝珠に体を操られながらも、内なる心で思っていた。
「……」
なんか、負けそう……と。
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