不死の頭

 良いことが聞けた。この考察が真実なら、彼をテイムするのも難しくないかも知れない。


「やぁ、ヒュドラ君。元の姿に戻りたいんでしょ?」


「ギュゥアアアアアアアアアッ!!」


 帰ってきたのは同意。しかし、その声は完全に狂気に染まってしまっている。


「何にしろ、一回は落ち着かせないといけない訳だね」


 どうやって落ち着かせようか……見た目からパッと想像できるのは、あの頭だけを取り出すとかかな。


「みんな、本気でやっちゃっていいよ。ただ、中の頭は一応潰さないようにね」


 僕の言葉に、従魔達が突撃していく。護衛はネルクスだけだが、十分だ。


「グォオオオオオオッッ!!!」


 ロアの燃え盛る大斧が幾つものヒュドラの首を断ち切りながら巨大なスライムのような体に迫る。

 直撃した瞬間、火山が噴火したように炎が爆散し、スライムの体の一部が爆散した。


『緋蔭流……火扇柳カセンヤナギ


 イシャシャの剣が空を駆け、扇状に広がった緋色の軌跡からボトボトと炎が垂れ落ち、ヒュドラの頭と粘液の体を蒸発させていく。


『神代流、砂落抄金サラクショウキン


 毒液を放つ幾つもの首。黒い骸骨はそれを避けながら刀を少しだけ首に掠めていく。

 すると、骸骨の刀が触れた首が次々に崩壊する。


「キュウウウウウウッッ!!」


 アースが鳴き声を上げると、上空に巨大な岩が生成され、炎を纏いながら高速で粘液の体に落下した。

 隕石のようなそれは、ヒュドラのスライムのような体の一部を粉砕した。


「ぎゃおおおおおおっ!!」


 マグナの中心が黄金色の黒紫色の炎が粘体を焼き、侵食していく。元々火に弱いスライムはじわりじわりとその体積を減らしていく。


「ガァアアアアアアアアッッ!!!」


 十三の竜となって巨大化しているディアンの炎が、ヒュドラを焼き尽くしていく。その圧倒的な火力の前には無数の首も関係なく焼き尽くされ、粘体も凄まじい勢いで蒸発していく。


「僕も、みんなの為に頑張るよ!」


 伸びていく巨大な枝。それが一本、二本と増えていき、ヒュドラの首を絞め殺しながら粘体を抉り取っていく。


覇王拳ハオウケン


 黒く結晶化したメトの腕が、赤黒いオーラを纏い、ヒュドラの粘液の体に叩きつけられた。直撃地点を中心に粘体は爆散し、体積の二割ほどが消し飛んだ。


「体力全ベット、マックス火力だぜェ?」


 燃え盛る氷の鉤爪に、赤黒いオーラが纏わり付く。


「行くぜ必殺ッ、神狼拳ジンロウケンッ!」


 エクスの鉤爪が直撃した瞬間、残っていた粘体の殆どが消し飛んだ。


「チャンスです!」


「クキャ、行ってきなァ!」


 殆ど粘体に覆われていないヒュドラの不死の頭。チャンスと駆け出そうとしたエトナの体が、一瞬でその頭の前に転移した。エトナはその突然の出来事にも硬直せず、黒く染め上げた腕を伸ばした。


「ナイスアシストです、ネロさんッ!」


 エトナの黒い腕は細い少女のそれから、巨大な蟹のハサミのようなものに形を変え、再生する粘体の中に沈む頭を掴み取った。


「ヒュドラの頭、ゲットです!」


 エトナは抜き取ったそれを、こちらへと放り投げた。


「おっと、危ないですねぇ」


 ネルクスが影から現れ、猛毒の粘液が付着しているそれをキャッチした。


「さてさて、処方は私にお任せ下さい」


「ギャアゥゥ……ウアゥ」


 ネルクスが粘液が溢れ続けるそれに暗黒の魔力を送り込むと、粘液の生成は止まり、頭は静かになった。


「狂気を齎しているのは……あぁ、なるほど。やはりそういう……クフフフ、全て私が頂いてあげましょう」


「ギャオウッ!? ギッ、ギギャ……」


 ネルクスの暗黒がヒュドラの不死の頭を覆うと、何かピンク色の光が暗黒を伝ってネルクスの中に流れ込んだ。


「彼の中に巣食っていた悪意の力は私が食らっておきましたので、これにて処方は完了です……さぁ、後は交渉のみですよ」


「ギャ、ギャァ……?」


 その目に理性を取り戻したヒュドラの頭。僕は目線を近付けるようにその前に座り込んだ

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