多頭蛇竜、狂気の果て。
二人が幾つも斬り落とした首。しかし、その首の傷跡はボコボコと蠢いては再生していく。
「どうやら、単に斬り落とし続けても意味は無いらしいね」
そもそも三十本はありそうな首。しかも再生するとなればこの土の下に埋まっているであろう本体を狙うしかない。
「ディアン、本気でやっちゃっていいよ。周辺被害とかは考えなくていい」
そんなことよりもアレを野放しにする方が百倍危険だろうからね。
「マグナ、君も本気でね。この土の下にいる本体を丸裸にしちゃって」
「ぎゃう!」
元気に返事をして飛び立っていくマグナ。
「アース、なんか久しぶりだね。調子はどうかな? この地下に埋まってるヒュドラの本体を引っ張り出す班として頑張ってほしいんだけど」
「キュッ!」
ディアンが本来の姿を取り戻し、本来よりも大きくなりながら空を舞う。その数は三体。最大で十三体になれるので先ずは様子見ということだろうか。
「そして……シルワ」
「うんっ、何したらいい?」
白緑の肌の少年。服を着る気がないらしい彼の体は木の肌や葉が覆っていた。
「君には色々頼みたいんだけど……一番やってほしいのは、地下に居るこいつの本体を見つけて引っ張り出してくることかな。そこのメトお姉さんと協力してね」
「うん、分かった。メトお姉さん!」
少年の呼びかけに、メトの瞳が僅かに輝く。
「はい、私に全てお任せください。お姉さんなので」
「やった、よろしくね!」
トリプルドラゴンと精霊の力を持つ二人、これで本体はどうにかなるだろう。
「よォ、来てやったぜ?」
「やぁ、エクス。ちょっと普通じゃないヒュドラが相手なんだけど……まぁ、好きにしていいよ」
エクスは獰猛に笑った。
「ハッ、好き放題すんのは大得意だぜェ?」
こちらを見るヒュドラの首に飛び掛かっていくエクス。一瞬にして竜の首が弾け飛ぶ。
「さて……見た感じ、結構脆いね」
その代わり、異常な再生力があるってことだろうけど。
「エトナ、ネルクス。僕の護衛をよろしく」
瞬間、無数のヒュドラの頭から毒液が発射される。高圧洗浄機のような速度で迫る液体。硬直する僕をエトナは抱えて飛び上がった。
「これがある私はともかく、ネクロさんは当たると不味いですからね……取り合えず逃げ回りながら首を刈り続けるしかないですかね?」
確かに、エトナには状態異常無効の指輪がある。が、ヒュドラの毒は状態異常以外の要素もあるので油断はできない。
「エトナも当たらない方がいいよ。状態異常無効で呪いは防げないし、酸で溶けるのも防げない」
「む、そうですか? じゃあ、ちょっと気を付けますね」
崩れた山の上を飛びながら毒液ブレスを避け続ける。にしてもあの首ども、完全に僕を狙っているようだが、僕が主だと気付いているのだろうか。
「ていうか、このタイプなら私が攻撃主体でネルクスさんが護衛の方がいいですよね」
「そうかもしれないですねぇ。私なら逃げずとも壁で防げますからねぇ」
エトナは影から出てきたネルクスに僕を預け、こちらを見る無数の首に襲い掛かった。ネルクスは僕を覆うように障壁を展開する。
「ふぅ、最初はちょっと心配したけど、普通になんとかなりそうだね」
「そうですねぇ……しかし、このヒュドラは少し妙ですよ」
ネルクスの言葉に、僕は暗い障壁の中で首を傾げた。
「妙って、今更だね。ユニークモンスターなんて全部妙でしょ」
「いえ、そうではなく……ふむ、そういうことですか」
「そういうことって?」
「あのヒュドラ、グノームの王によって支配されていたようですが……どうにも、アレだけでこのヒュドラを支配できるとは思えなかったのですよ。ただ、漸く分かりました。ヒュドラを支配したのはあのグノームの王ではなく、別の何者かです。グノームの王はその命令権を受け継いだだけに過ぎないのでしょう」
へぇ、別の何者か。
「それと、支配とは言いましたが……恐らく、これはそんな上等なものではありませんねぇ。自由に命令を聞かせられるなら最初からヒュドラを出していたでしょうから。ヒュドラにかけられたのは洗脳、というか誘導でしょうかねぇ。感情や思考の誘導。完全にヒュドラを支配できなかった主人がここのグノームの王に押し付けていったという可能性もありますね」
「因みにだけど、なんでそんなことが分かるの?」
「まだ残っているからですよ。他人の意思が、悪意の魔力がヒュドラに宿り、暴走させています。まぁ、暴走しているからと言って元から善性の物であったかは分かりませんが」
そういえば、あの方がどうとか言ってたね。そう考えると別の何者かがこのヒュドラの主であるという説は有り得るね。ただ、
「ふぅん……なんだかややこしくなってきたね」
面倒臭いし、さっさと殺してゾンビにしよう。
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