祝勝会

 あれから、僕たちはサーディアに戻り、そこから少し離れたカグリの街に来ていた。用事なんてない。ただ遊びに来ただけだ。


「ふぅ、偶にはこういうのんびりした宿も良いね」


 ここはただの宿というより、旅館に近い雰囲気がある。料金は高かったが、僕らはお金持ちなので問題ない。こっそり執行官三人の財布も抜いておいたので財布はぽっかぽかだ。またカルマ値が上がってしまうけど、今更だね。


「そうですねぇ、お店の雰囲気も泊まってるお客さんも全体的に穏やかで、落ち着けます」


 ここは宿の一階にある食堂的な場所だ。とは言っても大抵の宿とは違い、受付からは壁一枚隔てられている。それらけでも、だいぶ雰囲気が違うというものだ。


「あー、なんか旅行行きたくなってきた」


 思わず僕は呟く。急に日本の温泉旅館とか行きたくなってしまった。エトナとかメトとか、連れて行けたら良いのにねぇ。


「そっちの世界にも観光地みたいなの、あるんですか?」


「あるよ。一杯ある。多分、こっちの世界の数倍どころじゃなくあるだろうね」


 こっちの観光地は恐らく、数える程度しかないだろう。偏見かも知れないが。でも、流石に地球の方が少ないってことは無いはずだ。


「どのような観光地があるのですか?」


 お茶をゴクリと飲み、尋ねるメト。


「んー、本当に色々だね。ここみたいに凄く落ち着いた雰囲気で存分に体を休められる場所とかもあれば、ひたすらレジャーが充実してて、アスレチックとかプールとか、そういうのもあるね」


 だいぶ適当に語ったが、正直旅行に行った経験は殆どないので詳しくは分からない。


「今、僕が行きたいのは温泉旅館だね……温泉って知ってる?」


「はい。地中から溢れる温水のことですよね」


 ざっくり言えば、そうだね。


「それに気持ち良く入りつつ、美味しい料理と豊かな景色で心を癒す……そういう場所だよね。温泉旅館は」


 想像してるだけで幸せな気分になれるね。まぁ、それは僕が今幸せだからなのかも知れないけど。


「そういえば、ネクロさんって何歳なんですか?」


「17だよ。そういえばステータスにAGEなんてのは無かったね」


 あー、夏休みの終わりが迫ってるって考えると憂鬱だね。こっちに入り浸ってると、学業がどうでもよく感じちゃうよ。良くないね。


「エトナは、何歳?」


「え、分かんないです。誕生日も知らないですし」


 そっか。こっちだとそういう人も珍しくなさそうだよね。


「誕生日を祝う文化ってあるの?」


「私にはあんまり馴染みないですね……」


「文明が発達している圏では比較的多く見られます。そもそも、日にちを気にするという文化自体ほぼ農業だけの地域ではあまり見られません。誕生日も気にしていないのでしょう。反対に都会では、日や時間を細かく気にしますから、誕生日を祝う文化も一般的ですね。王や王女の生誕祭などもあるように」


 確かに、生誕祭とかあったね。じゃあ、誕生日を祝うっていう概念自体はこっちにもあるんだ。


「それで、メトは何歳?」


「0歳です」


 あぁ、そうだったね。最年少は僕じゃなかった。


「お待たせしました。こちらケント牛のステーキになります」


「あ、私です」


 エトナがステーキを受け取る。


「結構豪快なの行くね。だいぶ大きいけど大丈夫?」


「余裕です。私、本気になったら無限に食べれますよ?」


 多分、冗談ではないのだろう。種族の違いを思い知らされる。


「そういうネクロさんは控えめすぎません?」


「ん、これ? まぁ、後でそこの茶屋に行くつもりだったからね」


 僕の前に置かれたのは、シチューだ。量はあまり多くないが、どうせ後で近くの店を巡ったりする予定だったので問題ない。


「えー、それ先に言ってくださいよ」


「関係ないでしょ。一杯食べれるんだから」


「いや、無限に食べれるって言ってももたれるみたいな感覚はあるんですよ」


「私も、理論上は無限に食すことが出来ます。胃もたれも存在していません」


 君たち、一応まだ店員さん居るからさ、人外トークは程々にしようぜ。


「それで、ネクロさん。今後はどうするんですか?」


 ステーキを切りながらエトナが聞く。店員が礼をして去っていくのを見てから僕は答える。


「んー、最優先目標はラヴかな。帝国と聖国は一旦放置。向こうから仕掛けてくる分には別だけど」


「なるほど……そういえば、神様にどうやって会ったんですか?」


「会おうと思って会った訳じゃないよ。この世界に来る時の……そう、狭間にラヴが居たんだ。それで、話をしたんだ」


 正直、顔も忘れかけているが約束は覚えている。明日になれば活動開始。本格的にラヴの元を目指す。その後に聖国。出来れば首飾りの試練とやらも受けてみたい。これは執行官を交渉材料にすれば行けそうだ。


「ラヴさんって、どんな喋り方するんですか?」


「喋り方? んー……私だ。私がラヴだ。よろしく頼む、エトナ……違うかな?」


「いや、分かんないですけど」


 正直あんまり覚えていないので、雑マネになってたしても許して欲しい。ラヴ神がこの光景を見ていないことを祈ろう。


「ん、美味しい」


 シチュー、美味いね。最初は地球より味が薄いのかとか思ってたけど、こっちの料理も美味しく作られている。さて、明日からはまた忙しくなる。今日はゆっくり、休むとしよう。

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