別に合法でもなければ違法
この部屋に入る時は十七人も居た侵入者達は、あっという間にその数を八人まで減らした。超危機的な状況に、レヴリスは思考を巡らせるが、巡らせた思考を役立たせる為の魔力が無い。
レヴリスは歯噛みし、エノムへの警戒にだけ努めることにした。
「チッ……人間相手じゃねえってのがマジでやりづれぇ。今までは魔物くらい大剣で一発だったんだが、こんだけ硬いとそうもいかねぇな」
そうぼやいたのはドレッドだ。彼は魔物相手には比較的効果的な大剣という武器を持っているが、その戦い方は意外に繊細で、思わず目で追ってしまうような大剣を囮として、棘付きの拳や蹴りを食らわせるという戦法を取っている。つまり、飽くまでメインは格闘術なので魔物相手だと結局戦い辛いのだ。
「そうだね……そろそろ、体力も魔力もキツイよ」
同意したのはブレイズだ。炎のレイピアを主軸として戦う彼は人間相手には的確に急所を突いて相手の体を壊すという厄介な戦法を取れるが、強靭な魔物相手にはそうもいかない。生半可な鎧や盾は溶かしてしまうようなレイピアの炎も、結晶と化したアスコルの体には焦げすら作れない。
「良いからッ、やるしかないだろッ!」
いつも心掛けている敬語も忘れて叫ぶのはアブリだ。ブレイズと同じように敵を焼く武器を使う彼だが、違うのはそれが炎か熱かという点だ。
炎のレイピアは刃が触れなくてもダメージを与えられるというメリットがあるが、熱の剣は直撃した時のダメージが非常に大きく、再生しないように傷口を焼けるというメリットがある。
「おーおー、お前ら喋ってねぇで戦えや……って言いてェとこだが、確かにこのまんまじゃ突破できる気やしねぇ。だから、お前らの誰か。誰でも良いが……」
剣に短剣、棒に棘玉。様々な武器を駆使して戦うズカラは、懐から赤黒い液体が入った試験官のようなガラスの瓶を取り出した。
「────この薬、飲め」
揺れる試験管と、中の液体。明らかに怪しいそれだが、誰も飲まずに終わるという選択肢は無い。
「なんだァ、それ? っと、危ねえなァ! クソ蠍がよぉ」
「明らかに怪しいんだけど? 自分で飲めば良いじゃんか」
ドレッドがアスコルの結晶鞭を捌きながら聞き、ブレイズが訝しみながら言葉を重ねる。
「まぁ、ぶっちゃけ言っちまうと……飲むと暴走する代わりに強くなれる違法な代物だ。だが、どうせテメェらにはコイツのデメリットも関係ねぇだろ? 暴走して、全員倒して死ね。ほら、俺以外の誰かだ。誰でも良い……いや、出来ればそこの女以外だな。元から力が強え奴の方が効果的だからよ」
明け透けに語るズカラに皆は顔を顰めるが、どのみちそれを使う他ないと言うことは理解しているのだろう。文句を言う者は居なかった。
「おら、さっさと名乗り出ろ。じゃねえと全員負けて死んで終わりだぜ? ほら、このブツの暴走にも耐えられるぜって自信がある奴でも良い。急ぎやがれよ」
ズカラの言葉に立ち塞がったのは、赤い髪の男。
「……貸せ。悪党」
熱血漢のレッド井だ。レッド井はズカラの手に握られた瓶を奪い取った。
「おぉ、鏡でも見て言ってんのか? ま、なんでも良いがよろしくな。ハハハッ!」
「……ごくッ」
レッド井はズカラの言葉を無視し、何かを察知して近付いてくるアスコルの目の前でゴクリと赤黒い液体を喉の奥に流し込んだ。
「ぐッ、うぅッ!? お、おお、おぉぉぉおおおぉおおおォォォォォォッッ!!?」
筋肉が肥大化し、レッド井の体が膨張していく。肌の色はあの液体のように赤黒く染まり、目からは焦点が失われていく。
「キシキシ」
「ぐぅぉぉぉおおォォォッ、ころォ、すゥゥゥゥッッ!!!」
赤黒く一色に染まった目でアスコルを睨むレッド井、手に握っていた剣は余りに強い握力で握り潰され、ただの鉄屑に変わる。レッド井はそれを投げ捨てると、大きく息を吸い込んで服がはち切れて吹き飛んだ上半身を膨らませ、肥大化した腕でアスコルを殴りつけた。
「キシィッ!?」
アスコルの頭部がひしゃげ、結晶の破片が舞い散る。キラキラと反射する光を浴びたレッド井は、間髪入れず再び腕を振り上げた。
「キ、キシィィッ!」
アスコルの前に結晶の壁が展開され、レッド井の拳が吸い込まれ、壁がひび割れる。再び破片が舞うが、アスコルの頭部はその間に高速再生し始めている。
「キシッ、キシッ」
「ぐぅぅぅぅうウゥゥゥゥッッ!?」
壊れた壁の両脇から伸びたトゲトゲの結晶鞭がレッド井の膨張した体を押さえつける。が、ミシミシと音が鳴り……、
「キシィッ!?」
六本の結晶鞭はグチャグチャに引き裂かれた。しかし、結晶鞭に生えていた棘はレッド井に多くの深い傷を付けており、それはゾンビやグールのような速度で再生することはない。
「……単純に筋力の増強みたいですけど、十分に強力なのです。でも、再生力は少ししか上がってないみたいですし、人間としての機能や弱点も残されてるので……PvPだとそこまで強くないのです。寧ろ、知能が下がる分、弱いと言っても良いかも知れないですね」
壁にもたれかかったレヴリスがレッド井を観察して、呟く。
「ただ、魔物相手なら悪くないのです。私達に足りてない圧倒的なパワーを補ってくれるのは素直に有難いです。これなら、行けるかも……」
なのです、とレヴリスは付け加えた。
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