有象無象と、阻む竜。
広い空の一部を赤色で埋めるそれは、十三体の赤き竜。スキルによって分裂し、巨大化した最強種族の一角。
「クソッ、あのドラゴンなんとかなんねぇのか!?」
「誰か囮になれってッ! その間に俺が塔まで行ってやるからさァ!」
悲鳴をあげる者たちに、一人の男が近付いていく。
「囮など要らん。他の魔物に近付いていれば奴とて火は吹けん」
そう言い切ったのは
「馬鹿かァ、テメェ? ドラゴン以外の魔物も強えんだからよ、近付いたらその魔物に殺されるだろうがァッ!」
「ふん、どちらにしろ斯様な弱者が塔に辿り着けることはない。清く諦めよ」
そう吐き捨てるように言った狗羅式。しかし、弱者と言われた男は怒りの表情を浮かべている。
「テメェ、舐めてんじゃねえぞ」
「舐めてなどおらん。正当な評価だ。雑魚の魔物にも勝てん雑魚は、弱者と呼ぶに相応しかろう」
男は真顔になり、手に持った刀身の赤い剣を構えた。
「……殺す」
「綺麗な剣だが、お前には相応しくないな」
男は言葉を返すことなく赤い剣を振り上げ、狗羅式に振り下ろした。
「甘い」
「ッ!?」
が、男の剣は狗羅式の短い方の刀で絡め取るように地面に落とされ、代わりに長い方の刀が男の首に当てられていた。
「そんな剣戟で
「……クソ、変な喋り方しやがって」
狗羅式は刀を男から離し、無言で前に進んでいく。その進行方向に居るのは、雑魚と言い切った魔物の群れではなく、竜だ。
「確かに魔物に近付いておれば竜は火を吹けんが……」
一歩一歩、竜に狗羅式は近付いていく。
「アレは所詮分け身。まやかしの類に過ぎん、仮初の体」
遂に十三体居る内の一体が、狗羅式の姿を捉えた。
「故に、斬れる。退かずとも、幻程度、余なら斬れる」
近付いてくる。赤き竜の一体が、大空を泳ぎ、寄ってくる。
「余を見たか、まやかしの竜よ。ほれ、吹いてみよ。火を吹き、余を灰に変えてみよ」
挑発するように言った狗羅式の言葉は竜には届かない。しかし、確かに竜は狗羅式を灰に変えんと狙っている。
「余が目指すは竜殺し。仮初でも良い。先ずはその、第一歩目よ」
相対する。竜と武士が、遥かな距離を持って互いを見る。竜は口を大きく広げ、武士は二つの刀を鞘に納め、柄に手を当てた。
『グォオオオオオオオッ!!』
遥か上から、空をも焦がすブレスを放つ赤竜。火が近付いて来る。チリチリと空気が焼けていく気配を間近に感じる。
「我こそはまつろわぬ者。表裏はなく、この二刀鴛鴦の如し」
偉大なる竜の息吹が大地へと近付いていく。灰の香りが漂ってくる。死がすぐそこにあるように錯覚している。
「────秘奥、息吹返し」
同時に抜き放たれた二本の刀が交差し、互いに反対向きに回転する。刃が煌めき、風が運ばれ、流れが作られる。
二つの刃が通った後は、まるで空間が歪んでいるかのようであり、それこそが全ての流れを防ぐ最強の防御、息吹返しだった。
「ぬぅううううわあぁああああああッ!!??」
しかし、それで防げたのは僅か数瞬。二度瞬きをする間には、狗羅式の体は完全に火の息吹に飲まれていた。
『……むぅ?』
自信満々に立ちふさがった男が呆気なく灰になった様を見て分身の竜は首を傾げたが、直ぐに気を取り直して次の獲物を探しに大空を舞い始めた。
と、それを見ていた二人の男が話し始める。
「……おい、ケンド」
「ん? なんだアレイ。さっきの馬鹿の話か? 何がしたかったのか知らんが、あいつほんと馬鹿だったな。ドラゴン様に勝てる訳ねーだろ」
冷めた目で言うケンドだったが、アレイは首を振る。
「俺、見つけたわ……あの竜の、攻略法」
どうやら、竜の犠牲はまだまだ増える一方らしい。
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