野蛮なる殺し合い

 狂戦鬼ベルセルクのアレクは、倒れても倒れても再生する敵達に包囲され、無限に続く殺し合いを味わっていた。


「ヒハハッ、痛えなァ! テメェも痛えかァ! お揃いだなァ!?」


 狂ったように笑うアレクに、ゴブリンを始めとする魔物達は若干引いたような表情を返した。


「グギャ、グギャギャ」


「グギャグギャ。グギャギャギャ」


 魔物達は一歩退き、言葉を交わし合う。その内容は間違いなく目の前の化け物への対処についてだろう。


「お? なんだ? 何話してんのか知んねぇけど俺を放っとくんじゃねえよ」


 一歩退いた魔物達に、狂った男が一歩距離を詰める。


「グ、グギャ。グギャギャ」


「フォォォン? フォォオオオ!」


 焦ったような顔をするゴブリン達の後ろから、全身が茶色い毛に覆われ背中に棘が生えている二足歩行の化け物が現れた。目は大きく真っ赤で、鋭い牙と長い鉤爪が生えている。また、飛べるようには見えないが小さな翼が申し訳程度に生えている。


「グギャ? グギャッ、グギャギャギャッ!」


「フォォ、フォォ! フォォン、フォォオオオオオオオッ!!」


 パカブラと呼ばれる魔物である彼は、仲間のゴブリンに警告されたにも関わらずそのひょろ長い手を振り上げてアレスに襲いかかった。


「フォォンッ!」


「うぉッ!? ヒハッ、生きがいいなァ!」


 パカブラの鋭く長い鉤爪は確かにアレスに直撃し、彼の肩から腰にかけてを斬り裂いた。深い傷を与えたと言っても良い。しかし、アレスは全く怯むことなく、寧ろ嬉しそうにしながら斧を振り上げた。


「フォォォンッ!?」


「ヒハハッ! 残念、逃げるには遅えなァッ!」


 鉤爪に続けて今度は牙で刺そうとしていたパカブラだったが、傷を見ることもせず速攻で反撃の斧を振り上げてきたアレスから逃れようとする。しかし、既に超至近距離まで近付いてしまっていたパカブラは逃げられず、アレスの斧で頭を潰されてしまった。


「なんだ一撃かぁ? 変な見た目してる割にゴブリンのがマシじゃねえか、ヒハハッ!」


 全く歯応えのない敵に不満そうな顔を向けたアレスだったが、直ぐに他の獲物のことを思い出して笑った。


「グ、グギャ……グギャギャ」


「グギャ、グギャグギャ」


 そして、ゴブリンも同様に速攻でやられたパカブラに困惑している。が、パカブラが瞬殺されたのは当然のことでもある。何故なら、元々この島の魔物であった彼はネクロから完全隠密用のスキルを貰っていたにも関わらず、一切そのスキルを使わずに正面から襲いかかってしまったからだ。

 奇襲と逃亡のヒットアンドアウェイを想定して与えられたスキルの中に再生や肉体強化の類は無い。当然、正面戦闘において大きな力を発揮するアレスに勝てる訳も無かった。


「さてさて……標的は戻りまして、お前らだ。もっと遊ぼうぜ?」


 そして、アレスのターゲットはもう一度このしぶとさが取り柄のゴブリン達に戻る。彼らはパカブラと違い、自分たちの長所と短所を理解した賢い兵だが、それ故に自分たちだけではこの男に勝てないと悟っていた。残念なことに、最初の方は居たこの島出身の他の魔物達もさっきのパカブラの瞬殺を見て去ってしまった。


「……グッ、グギャッ!」


 苦悶の表情を浮かべるゴブリン達だったが、その内の一体が何かに気付き、空を指差して声をあげた。


「グギャッ、グギャギャギャッ!!」


「グギャギャッ、グギャッ!」


「グギャァッ! グギャギャァッ!」


 最初のゴブリンの声を聞いた皆は、直ぐに叫びながら一斉にその場をから飛び退いた。跳躍ジャンプのスキルによって開けられた空間は大きく、それ故に一瞬で埋められることはない。


「あ? なんだお前ら。逃げんじゃねえよ」


 その空間を埋めようとアレスは一歩踏み出した。



「待てよ、もうちょっと俺と遊────」



 アレスの体は、一瞬にして炎の中に呑まれてしまった。それはブレスだ。偉大なる竜の、畏怖すべき火の吐息。それは大地を焼き、大海を溶かし、大空を焦がす。正に神話級の威力を持つ圧倒的な火力だ。


「……グ、グギャ」


 ブレスが止んだ。煙が上がり、火が消えていく。離れた場所から見ていたゴブリン達が、ゆっくり近付いていく。


「……ぁ」


 声が、した。


「ぉ、ぉぉ、ぉぉ……ぁ、ぁあ、がはッ…………ふぅ」


 狂人は、恐るべきことに竜の火から生き延びた。灰まみれになりながらも、そこに再び立ち上がった。


「ヒ、ヒハッ、ヒハハハハハッ!! 竜のブレスってのはマジで凄かったなァッ! さぁ、もう一戦と行こぶへッ!?」


 しかし、その化け物の前に新たに立ち塞がった者がいる。


「クキャ」


 彼の名はネロ。化け物の前に現れた彼もまた、化け物だ。

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