激化する戦線
その戦場では悲鳴と怒号が飛び交っていた。
「おいッ、ヒーラーは居ねえのかァ!?」
「ヒーラーのPKとか居る訳ねぇだろッ! ポーションでも使っとけッ!」
「ねぇから言ってんだろうがッ!!」
当然ながらPKである彼らにはヒーラーもバッファーも居ない。支援系がほぼゼロの戦場で戦い続けなければならないのだ。
「進めェッ!! とにかく前に進めッ! 一人でも多く塔の中に滑り込めッ!」
「透明化できる奴は行けてんじゃねえのかッ! どうなんだッ!?」
「無理だッ! 感知できる奴が居るッ!! 塔の入り口に立ってる奴だッ! あの門番をぶっ潰せッ!」
また、塔の入り口には透明状態でも感知できる二体の門番的存在が立っており、こっそりと忍び込もうとする者の侵入を拒む。
「クソ……なんだよこの量、突破できる訳ねぇだろ」
「それに、一体一体がチートすぎんだよ。大体の敵が再生能力持ちってイカれてんのかマジで」
この現状に悪態を吐く者達は決して少なくない。だが、彼らにも一切の希望が無い訳では無かった。
「……なぁ、誰だアイツ。なんであんなに前に出て死んでねぇんだ?」
「分かんねぇ……ただ、鬼強ぇってことだけは分かる」
諦めかけていた中で彼らが見つけた希望、それは原始人のような皮の布切れを身に纏った一人の男だった。両手に戦斧を一つずつ握った、狂ったような形相をしている男だ。
「
殺意が具現化したような赤いオーラを身に纏い、両手に握った二つの戦斧で次々に敵を砕き、吹き飛ばしている。
彼のジョブは
「死ねェッ、死ねェッ、死ねやァアアアアアアッ!!!」
彼の名はアレク。大半のプレイヤーが属しているナルリア王国から遠く離れた僻地でプレイしていた為、全くもって有名では無いが、その実力は確かだ。
「ヒハハハハハハッ! 最高に気持ち良いなぁ!」
冷え切った雪原の中で極限のサバイバル生活を送った彼は、大抵のプレイヤーが持っていない野生的な感覚を持っている。それは四方八方から襲い来る魔物達の攻撃を察知する力でもある。
「あァ、最高ッ! 痛みって良いなァ! 与えるのも、与えられるのもさァ!」
そして、彼はネクロと同じく痛覚設定をオンにしているプレイヤーだった。その理由は、現実における彼の境遇に深く関わる。
「肉を断ち切る感覚もッ、断ち切られる感覚もッ、最高すぎんだろッ!? ヒハハッ、そう思わねェ!?」
狂った調子で問いかけながら目の前のゴブリンを吹き飛ばした彼だが、現実の彼は深刻な病に侵されている。
「うはッ、熱ィ、熱ィなァ! マジでッ! 最高かよッ!?」
病名は、『先天性無痛無汗症』。痛みと温度を感じなくなり、汗も殆どかかなくなるという病だ。
その為、生まれつき痛みと温度を知らないアレクはその二つに強い興味を抱いていた。
「あァ、幸せだッ! 俺は幸せ者だなァッ! ここに連れて来てくれてありがとうな人殺しどもッ!」
痛みと温度、その興味をいとも容易く解決できる手段がフルダイブ型のVRだった。
そして、幾つものゲームで実際に痛みを体験した結果……彼は痛みに魅了されてしまった。
「
本来ならば、痛みという不快な感覚を体験したところで恐怖を抱き、蓋をするかのように痛覚設定を切るのかも知れないが、彼にはきっとそういう素質があったのだろう。どんどんと強い痛みを……そして、命を削り合う闘争を求めるようになった。
恐らく、彼が本質的に求めていたのはスリルなのだろう。危険信号である痛みを持たずに過ごしてきた彼は、今まで死を強く実感することがなかった。そして彼はその人生をどこか締りの無いものだと見做していた。
だが、このCOOの世界ならば最高のスリルを体験することができる。死ぬことができる。最も強く自分の命を実感することができる。
このスリルによって自分の命を感じる行為はきっと、自分の命に、人生に、価値を見出すことと同義なのだろう。
「うおッと危ねえッ! 流石に腕を落とされたら困るからなァ! 内臓なら幾ら抉られたって構わねぇし、むしろ歓迎だけどさァ!」
そして、そんな少し普通とは違う価値観を持つ彼が何故未だに倒れていないのか。それは、彼のジョブによって齎される生存能力によるものだ。
「がッ……ぐ、う、あァ……たくッ、一瞬喋れなくなったじゃねぇか」
頭を半分近く吹き飛ばされても無事に再生してしまう。その力の源である
強力な自動回復能力もこのジョブの魅力の一つだが、このジョブの最も大きな能力は、与ダメージと被ダメージの何割かを『
「
例えば、この異常な持久力を可能にする回復能力だ。スタックを消費することで消費値と同じだけHPを回復できる。元々このジョブには強力な自動再生が備わっているが、腕が欠損した時や体の一部を大きく吹き飛ばされた時にはこのスキルを使うべきだろう。
「斬って砕いてぶっ飛ばすッ! テメェらも俺に似て全然死なねェみてぇだがよォ……ヒハハハッ!! 望むところだァ。根比べと行こうぜェ?」
化け物同士の戦いは、終わらない。
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