魂を繋ぐ鎖
現れた水の女は、リジェルラインがその正体を言い当てた通り、上位の精霊だった。
「ネクロから既に話は聞いています……泉を荒らす者には、容赦しません」
「あ、いや、対話できるタイプなら話は別っすよ。俺はここを通りたいだけで、泉を荒らす気は無いっす。勘弁してもらえないっすかね?」
軽い調子で言うリジェルラインに、泉の精は怒りの眼を向けた。
「今さっき、貴方は私を害しようとしましたが……謝罪も無しに、通る気ですか?」
「いやいやっ、忘れてただけっすよ? ホント、すみませんっす! 今度、お詫びするんで今は通して貰えないっすかね?」
謝罪するリジェルラインだが、泉の精の表情は変わらない。
「貴方はどうやら……誠意と言うものを知らないようですね」
一切態度が軟化しないどころか、むしろ更に怒っている様子だ。
「そもそも、私は約束したのです。ここを、誰一人通さないと」
「えー、なんとかならないっすかね?」
突きはねるような態度の泉の精。
「それに……私は知っています。全ての泉を通して、私は貴方たちのことを知っています」
理解が及ばなかったリジェルラインは、泉の精に怪訝な目を向ける。
「────帝国十傑、ヌアラの泉を消しとばしたのは貴方達ですよね?」
まるで罅でも入ったかのように、場の空気が変わった。
「そっすね」
リジェルラインの表情が、消えた。
「んじゃ、死ねっす」
「ッ! それが本性ですかッ!」
速攻で手の平から青い光の鎖を放ったリジェルラインに、泉の精は焦りながらも水の壁で対処する。
「本性も何もねーっすよ。ただ、面倒臭いってだけっす。人生って、長生きすればするほど色んなものがどうでもよく見えてくるんすよ。特に俺なんか、エルフでも無い癖に何百年生きてるか分かんないっす」
「それが、なんですかっ!」
今度は両手を出して、両方の手の平から青い光の鎖を発射するリジェルライン。真っ直ぐに向かってくる鎖に、泉の精は慣れた様子で水の壁を作り上げる。
「いや……自由なだけじゃ退屈は凌げないって、やっと最近気付いたんすよ」
「ッ!? 危ない、ですね……ッ!」
と、さっきまで直線的に向かってきていた鎖が、突然壁を避けるように曲がった。水の壁を迂回して向かってきた鎖だが、精霊は咄嗟に泉の中に潜り、ギリギリで回避した。
「貴方は次元の旅人では無いようなので、少しだけ躊躇していましたが……もう、容赦はしません」
「そっすか」
どうでも良さげに答えたリジェルラインに、泉の精は指先を向けた。
「……死になさい」
液状の体が下から上にぶるりとたわみ、指先に収束された液体が刃となって発射された。
「そんなんじゃ、当たりすらしないっすよ。帝国十傑、舐めてるんすか?」
高速で迫る水の刃が、青い光の鎖に空中で繋ぎ止められた。
「……なんですか、その力は」
「鎖っすよ。ただの鎖。縛って、繋いで、留めておくしか能の無い、ただの鎖っす」
水の刃は鎖に雁字搦めにされ、空中で静止している。因みに、既にリジェルラインはその手から鎖を千切っている。
「だから、当たっても害は無いっすよ」
「嘘を吐きなさいっ!」
飄々とした態度のリジェルラインに苛立っているのか、泉の精は叫びながらも手を掲げ、次の攻撃に移った。
「貴方の鎖でも、この量は止められないでしょう」
「へぇ、凄いっすね」
泉の精が手を掲げると、泉が揺れ、泉の中から次々と水の刃が浮き上がってくる。その数は優に百を超えているが、威力も折り紙つきで、大木すら一撃で真っ二つに出来る程だ。
「……今度こそ、死になさい」
百を超える高威力で高速の刃がリジェルラインに迫る。
「んー、これを全部避けるのはキツいっすね」
無数の水の刃が次々に直撃し、その度にリジェルラインをグチャグチャに斬り裂いた。
「ぉッ、ぐぇッ、ぁァッ」
腕が、足が、斬り裂かれて地面に転がっていく。
「いィッ、ぉゥッ、ぐぅッ」
心臓が、肺が、斬り裂かれ、肉片に変わっていく。
「……ぁッ」
そして遂に……その首が刎ねられ、空中でグチャグチャに斬り裂かれた。
「……終わり、ですか」
最早その姿に原型は無く、リジェルライン・エルノンスは確実にただの肉片となった。
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