二つ目の褒美

 暫く物色した後、もう一度目を瞑り……パッと目を開ける。


「決めた。宝は要らないよ」


「ほう、どういう理由だ?」


 ぶっちゃけ、あの宝の山の中に僕の求めるものは無い。だけど、他に求めるものがある。


「んー、褒美はちょっと違う形が良いと思ってね」


 言いながら、僕はインベントリから卵を出した。


「はい、これ何か分かる?」


 僕は大きな卵を地面に起き、指差した。


「ふむ……不思議で奇妙な卵ランダム・エッグか」


「正解。そう、僕もちょっと調べてやっと分かったんだけどね。これ、ランダムエッグって言って、産まれるまで中身が決まってないんだ。不思議でしょ?」


 ネットの考察班曰く、元々この卵は大昔の錬金術で作り出されたもので、純粋な魔力と様々な触媒を混ぜ合わせることによって作られる無限の可能性を秘めた卵らしい。ただ、何故かそれが一部のダンジョンでは出土するとか。


「……あぁ、そういうことか。分かったぞ、人の子よ」


 ニヤリと笑うメフィラ。


「その卵を我がブレスで温めたいと言うことだな」


「うん、そうだね。一応エトナ達にも説明しとくけど、この卵は産まれるまでの間に受けた外的干渉が中身に影響を及ぼすんだ。つまり、竜のブレスで温めたら竜が生まれる可能性が高くなると思う。それに、高熱で温めれば温めるほど孵化は早くなるらしいし、一石二鳥だよね」


 いやぁ、チープも良いものをくれたね。いや、テイマー以外だとそこまで良くはないのかな? 普通は従魔空間テイムド・ハウスが無いから、大きすぎるのが生まれたら連れて歩くのに困るだろうし。


「ふむ、良かろう。それがこの輝かしき宝の代わりになるかは分からんが、この私が直々に孵化を手伝ってやるとしよう」


 そういうとメフィラは、コロンと転げている卵を拾い上げると、跳躍して一瞬で洞穴の外に出て行った。それを眺めていた僕たちは慌ててメフィラに着いて行く。


「……ドラ、ゴン?」


 洞穴から急いで出てきた僕たちが最初に見つけたもの、それは敢えて形容するなら竜だった。しかし、ただの竜と言い切るには余りにも禍々しく、余りにも混沌としていた。


『む? あぁ、そうか。私のこの姿は初めてか』


 それは、フェニックスの翼にも似た大きな二対の翼が生えた巨竜だ。

 胴はそこまで太くなく、四足の足が生えている。翼には生え際から触手のようなドロドロとしたものが、まるで蔦のように翼の頂点まで絡みついて伸びている。

 足にはそれぞれ凶悪な爪、口からは凶悪な牙が生えており、全体から瘴気のようなものが発されている。

 その色合いは全体的に黒と紫で構成されており、所々に赤が散っているといった様子だ。


「……そうだね。思ったよりも迫力があるよ」


 特に、二対……つまり四枚もあるフェニックスをのような翼は大きく、存在感を放っている。しかし、その翼は元のフェニックスのような聖なるものではなく、寧ろそれを穢すような禍々しい色合いと瘴気は邪悪さで満ちている。


『ふふふ、そうか。存分に畏れるが良い』


 そんな彼女を一言で表すとすれば、邪竜だ。禍々しく、混沌に満ちた邪悪なる竜。それも、英雄譚で言うところの単なるやられ役では無く、その凶悪な力を持って主人公を圧倒する悪の親玉だ。


「うん。まぁ、考えとくよ。……それより、卵は早速始めるの?」


『あぁ、そうするつもりだ。が、念の為に聞いておこう。これはどれだけ燃やしても壊れないのだな?』


「そうだね。ハンマーで殴るとか高いところから落ちるとかの衝撃以外は孵化するまで最強の筈だよ」


『そうか。それならば良い』


 孵化する為に必要なエネルギーが最大値に溜まるまでこの卵はダメージを吸収し続ける。但し、殴打や落下等の衝撃には弱い。と、考察班の記事には書いてあった。


『……では、行くぞ』


「うん、お願い」


 竜は大きく息を吸い込み、頭が少し仰け反る。これはブレスを吐く直前の動作だ。


『グゥラァオオオオォオオオオオオオッッ!!!』


「…………護、覚醒アウェイク


 紫と黒が混じり合ったブレスは、地面にポツンと置かれた卵を呑み込み、その周囲の地面を容易く溶かしていく。

 と、同時に僕も少し加勢することにした。よく考えれば僕の力も立派な炎だ。


「黄金よ、行け」


『ガァアアアアアアアアッッ!!!』


 深く穴の空いた地面に落下していこうとする卵を黄金で捕まえ、更にその黄金を起点に金焔を噴きかける。そこに竜のブレスが来ると、黄金もドンドンと溶かされていくので補強し続けなければならない。


 さて、これは結構疲れそうだけど……頑張ろうか。




 十数分後、そこまで元気にブレスを吐き続けていた竜が動きを止めた。


「ん、どうしたの? もしかしてもう燃料切れ?」


『なわけなかろう。竜を舐めるなよ。そうではなく、私が吐きやめたのはその卵が孵ろうとしているからだ』


 孵ろうとしている? 僕が言葉に釣られて黄金に包まれた卵を見ると、そこにはどんどんとヒビの入っていく姿があった。


「うわ、ほんとだ。……って、急がないといけないね。僕が親だと刷り込む必要があるらしいから」


 僕は黄金を卵ごと引き寄せ、巧みに卵を僕の元まで運んだ。ヒビが入っていく大きな卵を抱えて、中を覗き見ようとする。


「うわっ、急に出てきた」


 卵の中から元気に飛び出したのは、アースとは違い翼の生えた立派な幼竜だった。

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