溶けて、熔けて、融けて。
♦︎……フミ視点
睨み合う三者、最初に動き出したのは煉獄騎士だった。
「……動く気は無いか」
フェルナンドはグツグツと煮え立った黒刃の剣を振り上げ、少し離れたところにいるゴブリンに向けて振り下ろした。
当然、ゴブリンにその刃が当たることは無い。が、代わりに黒刃の内側がマグマのように赤く光り、そこから赤く輝くマグマの刃が撃ち出された。
「クキャ」
しかし、
「ふむ……強さは転移能力だけでは無いか。単純な個体性能は人間以上、流石はハイゴブリンと言ったところか」
フェルナンドの言葉で私は漸くゴブリンの能力が転移であることに気付く。続けて思い出したようにゴブリンと執事服を
ていうか、あの執事服……人間なんですね。雰囲気が全然人じゃないんですけど。
「得体の知れない人間に得体の知れないハイゴブリン……全く、厄介だ。今の内に殺しておきたいところだが」
フェルナンドはため息を吐き、片手を執事服に向けた。
「残念ながら、この市街地で本気を出す許可は下りていないのでな」
赤黒い籠手に包まれた片手からマグマの球体が生み出され、執事服に向かって発射される。
「クフフフ、さっきから下らない攻撃ばかりだと思えば……そういうことですか。しかし、小手調べ程度の攻撃だけで私達を殺せると?」
マグマの球体は執事服に触れる直前で内側からドス黒く染まり、朽ちるように空中で崩壊していった。
「おい、貴様。今の術……いや、良い。貴様のような奴の相手は神の奴隷どもに任せておけば良いのだ」
「クフフフ、聖国のことですか? しかし……どうやら、私たちと戦う気は無いようですねぇ?」
確かに、この執事服達の相手を誰かに任せるということは、自分は戦う気が無いということだろうか。
「当たり前だ。我々の目標は既に達成されている。二次目標は貴様らのせいで達成出来そうに無いが……まぁ良い、残存兵にある程度任せるとしよう」
残存兵? 残存兵って、こいつの仲間がいるってこと……あ、分かりました。
「もしかして、あの真っ黒々な人達って……帝国の?」
私が言うと、フェルナンドは睨むように私を見た。が、直ぐに視線を外した。
「……喋りすぎたか。まぁ良い。どうせ我々の関与など我が来た時点で分かっているのだ。それに、周りを見渡せば直ぐに察していたことだろう。
私が周りを見渡すと、フェルナンドの邪魔が入らないように真っ黒な装いの奴らが私達を囲んでいる。介入してこないのは巻き込まれたくないからか、フェルナンドの実力を信じているからか……はたまた、両方だろうか。
「ふむ……貴様らは全く仕掛けてこないな。本当はそこの小娘だけでも殺して帰るつもりだったのだが、しょうがない」
そうフェルナンドが痺れを切らしたように言うと、剣を鞘に収め、自身の胸にズブズブと手を突っ込み(鎧はその部分だけドロドロと溶けている)、蒼く光る石を取り出した。あれには見覚えがある。間違いなく
「では、帰るとしよう。我はこの首飾りさえ有れば良いのだか、ら……ッ!」
フェルナンドはそう言いながら帰還石を持っていない方の手に握られた首飾りを確認した瞬間、執事服とゴブリンがフェルナンドの眼前まで一瞬で距離を詰めた。
そして、このタイミングは正にフェルナンドの気が緩んだ瞬間だった。
「クキャッ!」
「くッ……ッ!」
先に辿り着いたゴブリンが剣を振り下ろすと、フェルナンドは僅かに鎧を削られながらもギリギリでそれを回避した。が、無理に避けたせいでフェルナンドは体勢を崩してしまう。
そうして出来上がった隙に、執事服がドス黒い何かを纏った拳を叩きつけた。
「
執事服の拳に纏わり付く黒いナニカが、拳を伝ってフェルナンドの鎧の内側に入り込み、浸透していく。
それにしても凄いですね……もしかしてこの人達、この一瞬の隙をずっと待ってたってことですか? しかもこの連携……いやぁ、敵には回したくないですね〜!
「ぐッ、ふ……キサ、マァ……ぐぅッ!?」
苦しむフェルナンドに再度執事服の拳が叩きつけられると、フェルナンドの内側から黒いナニカが溢れ、鎧がドロドロと溶けて歪み、赤と黒が混ざっていく。
「ぐッ、ぐふゥ……許、さん……ユルサン、ゾ……」
ドロドロと溶けていくのは赤い鎧だけに収まらず、フェルナンドの体もドロドロと溶けていき、赤黒いスライムのように……いや、マグマそのもののように変化していく。
そして、十数秒ほど経った頃……フェルナンドは完全にマグマのようになってしまった。
「も、もしかして……執事服さん、倒しちゃったんでしょうか!?」
私が高揚したテンションのままで聞くと、執事服は微笑を浮かべて首を振った。
「貴女は次元の旅人でしょう?
言われるがまま、私は生死確認の為にフェルナンドを
「い、生きてる……」
が、結果は生存。死体特有の物としての表記は確認できなかった。
「えぇ、今は恐らく休眠状態と言ったところでしょうか。恐らく、彼の能力は火や熱やマグマなどを生み出し、操る能力。そして、自分の体をマグマに変えることも可能なのでしょう。証拠にネロが削り取った彼の背中と鎧からはマグマが溢れ、直ぐに元通りになっていました」
執事服はトコトコと歩き、何かを呟いて赤いオーラを纏った後にマグマの中に手を突っ込むと、首飾りを回収した。
あと、帰還石もちゃっかり回収している。
「恐らくですが……私がさっきの攻撃を食らわせた結果、彼は体の原型を留められずに慌てて全身をマグマに変化させたのでしょう」
淡々と語る執事服に私はちょっとビビりつつも、横顔を無音モードでこっそり撮りつつ、一つの疑問を投げかけた。
「えっと……だったら、この人は殺せないってことになりません?」
斬っても殴っても何してもマグマになって無効化できる。魔法で一気に消し飛ばそうにも大量のマグマを生み出して自分の体を同化させれば効果は無いに等しい。つまり、彼にはHPの概念が無いのと同じじゃないだろうか。
「クフフフ、そんなことは有り得ませんよ。彼の能力は飽くまで特殊なスキルの力だと聞いています。彼の体がそもそもマグマで出来ているのなら話は別ですが、彼は能力で自身の体をマグマに変化させているだけです。そして、能力を使っている間、彼は魔力を消費し続けますから……いつかは限界が来るということですよ」
なるほどなるほど……つまり、MPをHP代わりに出来るみたいなことですね。なんか、フェルナンドってめっちゃ強いボスみたいですね〜。いや、実際そういう立ち位置に運営が設定したんでしょうか。
しかし……その彼でも十傑の中でナンバーワンじゃないらしいですから、やっぱり帝国十傑って化け物の集まりですね〜。
「さて、喰らえなかったのは残念ですが……私達の目的は達成しました。帰りましょうか、ネロ」
「クキャッ!」
そう言って踵を返した一人と一匹だったが……周りを見渡すと直ぐに帰還を諦めた。
「おやおや、私としたことがすっかり忘れていましたよ。そういえば、雑兵がまだ居ましたねぇ? えぇ、しょうがありません。残さず頂いてあげましょう」
「……クキャ」
雑兵という言葉に黒装束たちは殺気を高め、執事服とゴブリンに襲いかかった。執事服は何処か嬉しそうだが、ゴブリンは呆れたような疲れたような表情をしている。
「ま、私には関係ないですし。さっさと帰りましょうか……って、あれ?」
辺りを見渡すと、私の周りにも黒装束達が殺気を放ちながら立ち塞がっている。
「えっと……『顕れよ、式神召喚』」
私が懐から二枚の紙札を取り出して破くと、赤毛が混じった白い狼のメイプルに、赤い目を持った白い鴉のセンテンが召喚された。
あ、言い忘れてたけど私の職業は陰陽師です。ふふふ、意外でしょう? でも、式神で情報収集が出来るので意外と便利なんですよ?
「おいッ、何か出てきたぞッ!」
「式神だッ、あの女……陰陽師だッ!」
やっぱり、珍しいジョブなので知らない人も多いみたいですね。まぁ、取り敢えずさっさと逃げちゃいましょう。
「メイプル、センテン、こいつらを引きつけといて下さいね。……じゃあ、帝国の皆さん。また会いましょうね〜!」
私は彼らの相手を式神に任せ、自分はさっさと空中に逃げることにした。
「おいッ、待てクソ女ッ! って、痛ェぞクソ犬ッ! ぐッ、首がッ!」
「
「
下の方で騒いるようだが、私に攻撃が届く距離はもう過ぎている。私はパシャりと写真を撮りながら、もうこの場を去ることにした。
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