精霊竜《スピリットドラゴン》

 燃え盛る赤き竜。僕は迷わずその巨体を解析スキャンした。


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 精霊竜スピリットドラゴンファイアー 《Name:エリ・エスティリプス・※※※※※》 Lv.48


 《閲覧権限がありません》


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 レベルは思ったよりも高くは無い、けど……精霊竜スピリットドラゴンはヤバいね。まだ高位ハイじゃないだけマシだけど、それでもヤバい。

 ん? よく見たらこの名前のとこバグってるけど……なんだろう。


 何がヤバいかと言うと、全てである。先ずはステータスだ。強靭な肉体を持つ竜種の力に、魔力を手足のように扱える精霊の力。物理面でも魔力面でも超優秀なのが精霊竜なのだ。

 要するに、大体のステータスが軒並み高いと言うことである。


 次に、種族スキル。彼らは自身の司る属性を自由自在に操り、その属性に対して絶大な耐性を持つ。それはつまり、火属性の竜であるあの子には一切の火属性攻撃が通じないということを示す。爆発は火属性の要素が入っているので、グランの結晶爆発はダメージが軽減されてしまう、


「……本当なら、使う気は無かったんだが」


 レンは赤い竜の背後から現れ、仕方なさそうに呟いた。


「エリ・エスティリプス、随分前に契約した俺の相棒だ。一応言っておくが、プレイヤーの前で呼び出したのはこれが初めてだ。というか、こいつが勝手に出てきた」


 レンは溜め息を吐き、竜を見た。


『当たり前じゃない。主が死にかけてるんだから普通守るわよ』


 赤き竜が口を開くと、竜の鳴き声と共に勝気そうな女の声が聞こえてきた。流石は精霊竜、やっぱり喋れるんだね。


「いや、何度も言うが俺は死んでも生き返るんだ。だから、大丈夫だ」


『ただ殺すだけじゃなくて、魂ごと消滅させてくるような奴もいるのよ? そんなこと言ってて、油断して消されたら許さないんだから』


「……まぁ、分かった」


 なんか、僕と同じような説教を受けてるね。ちょっと親近感が湧くよ。


「ねぇ、そろそろ始めない? 観客も僕たちも待ってるよ」


 僕が言うと、一人と一匹は同時にこちらを向いた。


「あぁ、すまない」


『そうね、でもその前に……私の名はエリ・エスティリプス。母、アヌラと父、マアルの間に生まれし誇り高き火の精霊竜よ。それと、本当の名はもうちょっと長いんだけど、真名は主以外には教えられないから』


 あ、なるほどね。名前がバグってたには真名を隠してたのか。ていうか、今の名乗りは何だろう。戦う前に名乗るのが種族での決まりとかだろうか。


『まぁ、正直最初はレンがピンチになったら助けるだけで戦闘には参加しないように言われてたんだけど……ちょっと、流石にレン一人じゃ分が悪そうだし……』


 うん? 本当は戦いはしない予定だったけど、僕とレンの間にある戦力差を鑑みて戦いに混じることを決めたってことだろうか。


『とはいえ、私がそのまま参加したらレンは怒るわよね……だったら、こうしましょう』


 一体、何をする気だろう。僕としては精霊竜が戦ってる姿を見てみたい気持ちもあるんだけど。


「……分かった。アレだな」


 レンは決意を込めたように頷き、エリに近付いた。


『行くわよ』


「あぁ」


 レンがエリの顎の下辺りに触れると、その部分が燃え上がり、一瞬にしてレンとエリの体全体まで燃え広がった。


「────竜よ」


『────人よ』


 メラメラと燃える火炎の中、竜と人の影が揺らめき、混じり、溶けていく。


『「人竜共鳴マガドラゴ・レゾナンス」』


 風が吹き荒れ、炎が飛び散り、そこから現れたのは所々を赤い鱗で覆い、紅蓮の炎を纏い、真紅の翼を生やし、瞳を臙脂色に染めたレンの姿だった。


「……竜人、的な?」


 僕は言いながら、思わず竜の一員であるアースに目を向けていた。


「キュ、キュウゥ……」


 しかし、アースは申し訳無さそうに目を伏せるだけだった。どうやら、あれはアースには出来ないらしい。


「レン、今のは何か聞いても良いかな?」


 僕が言うと、レンは縦に伸びた瞳孔で僕を睨みつけながら言った。


「『人と竜とが契約を介し、絆を以って共鳴する。そうすれば竜と人とは混じり合い、一つの存在となるわ」』


 レンとエリの声が、喋り方が混じり合ったようなそれに僕は少し混乱しながらも疑問を投げかけた。


「……それ、うちのアースは出来ないの?」


 僕が聞くと、レンは首を振った。


「『その子じゃ不可能よ。何故なら、成体じゃないからな」』


「うーん、そっか」


 どうにかして進化させたりすれば、もしかしたらいけるかもしれない。その暁には僕もゾンビ化するかも知れないけど。


「『まぁ、だったら取り敢えず……始めようか」』


 竜人と化したレンが羽ばたいて飛び上がると、その体から紅蓮の炎が巻き上がった。

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