vs レン

 レンと乱破の戦いが終わり、二十分の休憩を経て、遂に僕は控室へと案内された。


「ネクロ様、始まります」


「……うん、分かったよ」


 もう何度目かのスタッフによる催促を受け、僕はアリーナの門前へと歩み出た。


『西門より現れるは三神の加護を受けし者ッ! 燃え盛るは炎ッ、輝くは光ッ、煌めくは刃ッ! 巧みな戦闘技術に優秀な武器、三神の加護、冷静沈着な性格……正に隙なしッ、敵は無しッ! 神の寵愛を受けし者アマデウスッ、紅輝の刃グリッター・クリムゾンッ、双炎飛刃ソウエンヒジンッ、輝炎の勇者フレアブライト・ブレイバーッ、幾つもの二つ名を持つその男の名は……レンだッ!!!』


 と、向こうのゲートからレンが出てくる。さて、いよいよだ。


『オーガ、巨人、ドラゴンッ! 三体の魔物を率いてやってきた謎の男ッ! 彼の強さは圧倒的な力による蹂躙か? それとも、四対一という数の力による蹂躙か? ……違うッ! 彼の強さはその眼と頭、そして心だッ! 凡弱なる人の身でありながら屈強な魔物を手懐けッ、眼前まで迫り来る勇士達にも怯まずッ、その眼で常に戦場を俯瞰し、その頭脳で敵を追い詰める……力と知力、そして心。全てが揃った最強の勇士ッ! その二つ名は巨獣使いギガ・ビーストテイマーッ、異形の主ロード・オブ・ファンタズマッ、黒き巨腕ブラック・アームッ、そして……魔王マオウッ!!! さぁ、東門より現れるのは……魔王、ネクロですッ!!!』


 ゲートが開く。僕は出来るだけ自然体を保ってアリーナに入った。


『さて、それでは始まりますッ! 闘技大会、次元の旅人部門、本戦決勝、レン対ネクロ……試合ッ、開始ッッ!!!!』


 その合図を待ち侘びていたかのように喇叭がいつもよりうるさく鳴り響く。耳をつんざくようなその音が、今は心地良い。


 僕はその合図と同時に、心を落ち着けながら三体の魔物を呼び出した。


「まさか、こうして相対することになるとは……船で会った時には思いもしなかった」


「そうだね、僕もそうだよ。……いや、君が決勝に行くことを予想してる人は結構多かったかもね?」


 僕は言いながら、三体の従魔をチラリと見る。皆、その瞳には滾るような戦意が籠っていた。


「じゃ、そろそろ始めようか」


「あぁ、そうだな」


 レンはそう言い、双剣を構えた。片方は燃え盛り、片方は白く煌めいている。

 今から戦うのはこれまででも屈指の強敵。一つ、気を付けるべきは絶対に覚醒させないこと。闇光もそうだったが、一度覚醒してしまえば相手は桁違いの力を得る。


「グラン、ロア、アース……行くよ、最終決戦だ」


 僕の声に三匹は頷き、レンを睨みつけながら叫ぶ。


「グォオオオオオオオッ!!!」


「グオオオオッ!!!」


「キュウウウウウウウウウッ!!!」


 予め命令しておいた通りに皆が行動する。ロアがレンに飛びかかり、アースが岩を落としたり地面から無数の鉄の腕を生やしたりなどの妨害を行い、グランは僕を守りながら結晶を投擲し爆発させ範囲攻撃を行う。


 そして、残された僕の役目はバフと妨害だ。


 僕は走っていくロアに加速クィックとテイマーの職業スキルによるバフをかける。これでAGIがおよそ三倍、自己強化セルフブーストも使っていると思うのでSTRやVITも二倍くらいにはなっているだろう。


「グォ!」


 双剣を構え、迎え撃とうとしているレンにロアは真っ直ぐ走っていきながら氷魔術を使い、氷槍アイスランスをレンに向かって放つ。


「なッ!?」


 カウンターでもしようとしていたのか、双剣を構えながら余裕そうに待っていたレンだったが、いきなり飛んできた想定外の青く冷たい槍に構えを解き、何とか回避した。


「キュウウッ!」


「グォオオオオオオオッ!!」


「くッ、双衛刃クロスガードッ!」


 と、無理やりの回避によって体勢を崩したレンに振り下ろされる巨大な斧。しかし、レンは膝を突いた状態で双剣をクロスさせ、ギリギリで防御を成立させる。流石にロアの一撃を完全に受けることは出来ず、少しダメージを受けた様子だったが、致命傷は無い。



 ……だが、そんなレンの足元からは金属特有の光沢を放つ無数の鉄腕アイアンアームが見えていた。



「ッ!? マズいッ!」


 ガシガシと鉄の腕に体を掴まれていくレン。そして、動けなくなったレンの前で振り上げられる重厚なる黒罅の大斧。ロアからは白い煙が薄く立ち昇り、大斧は赤黒いオーラを放ち始めている。


「グォオオオオオオオッ!!!」


 圧倒的な重量の大斧が、オーガの圧倒的な膂力のままに振り下ろされる。当然ながら圧倒的な威力を誇るその一撃は、まるで高層ビルが崩壊したかのような凄まじい轟音を巻き起こす。



 ……その轟音の中で、が声高く嘶いた。



 捲き上る土煙、湧き上がる熱気、静まり返る観衆。


「……あはは。これ、本気?」


 僕は土煙の中からレンを守るように現れたそれを、炎を巻き上げて世界を焦がしながら顕現したそれを、呆然と眺めていた。


 それは、赤く、緋く、赫い。体の節々から燃え上がる炎は紅蓮に染まり、整った形の大きくも美しい鱗は真紅に染まり、その紅玉の如き瞳は臙脂に染まっている。


 それは、その赤きは、一対の翼を大きく広げながらその巨大な体躯で僕を見下ろしていた。

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