破壊者

 巨人は破壊された自分の胸辺りを呆然と眺めた後、ハッとしたように顔を上げてから後ろに飛び退いた。


「へぇ……君、中々やるんだね」


「ハハハッ、まぁな? 寧ろ俺の一撃をその程度に抑えたその巨人の方が凄いと思うぜ?」


 ネクロが言うと、ウルガナは自信満々にそう返した。


「それと、さっきの一撃……通常状態のグランを殴った時より、結晶状態のグランを殴った時の方が威力が高かったよね? 違う攻撃をしてたって風には見えなかったし……何でかな?」


「ん? そりゃこの籠手の能力だな。こいつで殴る時はSTRに関するデバフの影響を受けなくなり、こいつで無機物を殴ると威力が十倍になる。あぁ、無機物に対するダメージが十倍じゃねえぜ?」


 ウルガナは自身の右手に嵌められたゴツい金色の籠手を見せて言った。


「へぇ……つまり、鎧を着ている人を殴ったら鎧が壊れるだけじゃなくて、鎧を着ている人まで大ダメージが入るってことだよね?」


「おう、そういうことだ。お前、もしかして頭良いな?」


 ウルガナが豪快に笑うと、ネクロは呆れたように微笑んだ。


「じゃあ、そっちの銀色のは何かな? 金色の方だけ能力があるんじゃないよね?」


 ネクロは銀色の籠手を指差した。それは右手のものよりもスラリとした形状で、赤と白の宝石があしらわれている。


「あぁ、勿論だ。こいつは俺はあんまり好きじゃねえんだが……まぁ、結構便利でな?」


 ウルガナは銀色の籠手に嵌められた赤と白の宝石を右手でなぞった。


「魔力に直接干渉できる……だったか? まぁ、俺には良く分かんねえが、霊体をぶっ壊したり、魔法をぶっ壊したり出来るってことだ」


 おいおい……こっちの籠手はあんまり使われないから有名じゃなかったが、そんなにやばい能力だったのかよ。魔法を殴って壊せるって、ゴースト系を殴り殺せるって……それ、もはや弱点がねえじゃねえか。


「それは……随分な能力だね」


「そうか? まぁ、便利ではあるが……さっきも言った通り俺はあんまり好きじゃねえんだよなぁ。なんか、魔法とかゴーストとかを殴っても、あんまり気持ちよくねえんだよ。あの感触は何だろうな……なんつーか、あー、そうだ。暖簾に腕押しってことわざあんだろ? まぁ、その意味とは関係ねえが……暖簾を殴ってるみてえに感触がうっすいんだよ。全然、ぶっ壊してるって感じがしねぇ」


 ウルガナは不満そうに言った。


「そっか。僕は何かをぶっ壊して快感を得る趣味が無いから分かんないけど……まぁ、右手に劣らず強いんだね」


「うーん、どうだろうな。俺、普段はこっちの籠手は使ってねえんだ。なんでかって言うとな、この金の籠手と比べてこっちの銀の籠手は攻撃力が全然足りないんだよ」


 効果が強い分、STR補正が低いのか? まぁ、納得はできるが。


「うん。効果が強い分、攻撃力でバランスを取ってるのかな?」


 ネクロも俺と同じことを思ったのか、そう意見を述べた。だが、ウルガナは横に首を振った。


「あぁいや、別に銀の籠手の攻撃力が低いって訳じゃねえ。この金の籠手の攻撃力が高すぎるんだよ。こいつと比べると、この銀の籠手の攻撃力補正は三分の一くらいだ」


 な、何だそれ……金の籠手、チートじゃねえか。


「……お、おい。もしかしてその武器、特異級Uniqueじゃねえだろうな」


 特定の強力な武器には、ランクが付けられることがある。そして、その中の最下位が特異級Uniqueだ。だが、最下位と言ってもランク付きの武器であるだけで一般に出回っているような武器を凌駕する能力を持つ。


「ん? あぁ、特異級Uniqueじゃねえな」


 あれ、違ったか。この性能な特異級Uniqueでも全然おかしくないと思うんだけどな。


「この金の籠手は星砕きスターブレイカー、この銀の籠手は星掴みスターキャッチャー。どっちも伝説級Legendaryだぜ? 特異級Uniqueじゃなくてな」


 ウルガナは言いつつ、両手の籠手を交互に見せた。言葉を聞いた途端、二つの籠手から反射される光がより眩しく見えた。


「レジェンダリー……なんか、そういうのもあるみたいだね。僕は良く知らないけど……まぁいいや。そろそろ始めようか。グランの傷もとっくに治ってるしね」


 ネクロはニヤリと笑って言った。気付かない間に、あの巨人に与えていたダメージはゼロに戻っていた。


「おぉ、全く気付かなかったぜ。もしかして、今の会話は時間稼ぎってやつだったか? ……まぁ、殴れる回数が増えたって考えれば悪くねえな!」


 ウルガナは豪快に笑い、両手の籠手を構えた。


「じゃ、準備はオッケーってことで良いんだろ?」


「うん。勿論だよ」


 ネクロは椅子に座り直して言った。


「よっしゃ、じゃあ先ずはテメェから行くぜッ!!」


 ウルガナは跳躍し、再度グランの眼前まで跳び上がった。





 あれから数十分が経った。恐らく靴の効果で増しているであろうウルガナのスピードは異常で、何度も何度も攻撃を回避してきたウルガナには傷一つ付いていない。

 また、攻撃の規模が大体デカイ俺たちはウルガナに誤爆しないようにあまり手を出さないようにしていた。


「ハァハァ……中々倒れてくんねぇなァ?」


 しかし、異常な耐久力と多彩なスキルを持つ魔物達もまた大したダメージは受けていない。しかも、受けたとして直ぐに治る。


「まぁね。でも、君の方はそろそろ限界なんじゃないかな? そのネックレス……もう、二つしか光ってないよ?」


 ネクロは余裕そうに言った。だが、その言葉通りウルガナの命を守るネックレスに嵌め込まれた九つの光る宝石は既に七つも光を失っている。

 つまり、ウルガナはあと二回しかダメージを無効化できないと言うことになる。


「はッ、確かにそうだな。だが……俺はまだ、本気を出しちゃいねぇぞ」


 ウルガナは言いつつ、自分の胸を軽く叩いた。


「そして、今からその本気を出す」


 瞬間、ウルガナの胸辺りから拳に纏われていたのと同じ赤黒いオーラが溢れ出す。そのオーラからは周囲の全てを抉り取ってしまうような危険な雰囲気が感じられる。



「────破壊者デストロイヤー、それが俺のジョブだ」



 破壊者。その言葉通り、ウルガナは破壊の波動をその身に纏っているようだった。


「そして、これは破壊者デストロイヤーの固有スキル……破壊の化身モード・デストロイ。効果は単純、STRが爆上がりし、相手の耐性を全て無視する。その代わりに少しずつ自分のHPが削れていき、そのHPは効果解除から十分経つまで回復出来ない」


「へぇ……似たような能力の人と戦ったことはあるよ。ところで、今この瞬間もHPが減ってるんじゃないの?」


 似たような能力……俺は破壊者デストロイヤーなんていうジョブは初めて聞いたが、そんな奴と戦ったことがあるのか。


「おう、その通りだ。だから、まぁ……」


 ウルガナは赤黒いオーラを拳に纏い、自信に満ちた目でネクロを睨む。



「────一瞬で終わらせてやるよ」



 最強の攻撃力を持つ一発屋スマッシャーが今、大地を踏み砕いて空へと舞い上がった。

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